第60話 信じる理由って本当にそれなの!?

「ここがこのお屋敷を管理するメインシステムルームですよ~っ」

 案内されたのは様々な機械が部屋の側面に設置された一室。その周りにはこれまたたくさんのメイドさん達が座っていて、それぞれ機械を操作したり真面目な顔で話していたり、モニターを確認したりしている。確認しているモニターにはお屋敷の一部が別々に映されており、時々廊下を歩くメイドさん、運んでいる積みあがった荷物を一回下ろして休憩するメイドさん、こちらに手を振るメイドさんなどが映っていた。

「これだけの広さだと目が行き届かないので、機械の力を借りさせてもらっています。それ以外にもお屋敷の空調、室温、湿度管理、メイド達への連絡、集合放送などなど、このお屋敷の心臓といえる場所です。機械任せ故にメイド達でも手に負えているという方が正しいかもしれませんね」

 ついてきた和葉さんの説明。ちなみにルリトちゃんはお母さんである紗愛璃さんともう少し話すそうだ。

「和葉さんはメイド服の内側にここへ連絡するための小型マイクも常備してるんですよっ、かっこよくありません?」

「あら、自分で話すまではなるべくミステリアスさを残しておきたいですのに。勝手に話してはいけませんよ優愛」

 と言いつつ和葉さんは胸元を少し露出して小型マイクのものらしきコードを覗かせる。探しやすくするためなのか腕の上に胸を乗せて少し持ち上げてもいたのでちょっぴり意識してしまったことが顔に出てないといいのだけど――。

「ふふっ、ピュアな反応ありがとうございます」

 気付かれていたみたいだった。その様子を見て納得する優愛ちゃん。

「あ~、和葉さん胸おっきい方ですもんね~。『私のおっぱいどうですか?』って言葉には出さず訴えかけてましたもん。私の頭の中で胸を目の前にあるお皿に乗せられた箕崎さんの姿が映し出されました」

「意識させられて反応するのは仕方ありませんわ。優愛も勝手な想像で私の考えを脚色しないで下さいな。さて――問題ありませんか?」

 和葉さんが一番近くにいたメイドさんに問いかけると、メイドさんは危機を捜査していた手が止まる。

「はい、今のところどこにも異常は見られません」

「そうですか。口元についているあんこがなければもう少し説得力があったのですけどね」

 横を向いていて死角になっていたから今まで見えなかったけれど、メイドさんがこちらを向いた瞬間に僕も気付いていた。とっさに口元を抑えたメイドさんがその手を離すと、ついていたあんこが消えている。

「すみません、休憩から戻ってきたばかりで……き、機械の上では食べていませんよ?」

「それでは、その糖分を活力にしてより一層集中して下さいね」

「は、はいっ」

 メイドさんの返事を聞いた和葉さんは踵を返しながら今度は僕達の方へ。

「とまあ、人間味のある子達が頑張ってくれています。そろそろ次に向かいましょうか? 優愛」

「っ、そうですねっ」

 

             〇 〇 〇


「次はですね~、体育館を紹介しますっ。これも和葉さんから紹介していないと聞いていますからっ。まあルリト様のお部屋からは遠めでしたからね~」

 優愛ちゃんは一番前を歩きながら楽しそうに次の案内先を話していた。今日初めて会ったけれど、とても素直な子みたいだ。屈託のない話し方には僕も自然と癒されてしまう。

「……あの、つまらないですか?」

「えっ……?」

 突然しょんぼりした表情になる優愛ちゃん。

「私、優愛の案内、つまらないですか? 箕崎さん、さっきから全然しゃべっていません。もっと色々なこと話したいのに。私のこと、きらいなんですか……?」

 優愛ちゃんの目にはじんわりと涙まで浮かんでくる。僕は慌てて訂正しようとした。そういう意味で無言でいたわけではないと。しかし僕より先に口を開いたのは――。

「随分疑り深いのですね、箕崎様」

 今度は優愛ちゃんの方に疑問符が浮かぶ。でも僕には和葉さんの話している意図がわかった。何故って和葉さんは僕が無言でいる理由を知っているように話しているから。

「紗愛璃様へ尋ねた時にも納得しきれていないように思えましたし……」

「僕はここに来て二回目です。このお屋敷へ呼ばれたのはルリトちゃんと友達であるゆずはさん達と仲良くしているからということでかろうじて納得できなくもありませんけど、本来ルリトちゃんの部屋とを往復するだけで事足りるのにお屋敷の心臓部まで紹介するのは不自然だと思います。優愛ちゃんは素直に紹介してくれただけかもしれませんが、メイド長である和葉さんが止めていません」

「信用に至った理由が欲しいと……?」

「はい。女性ばかりのお屋敷に僕一人というのも気にかかりますし、正直少し、不気味です……」

 少し重苦しめな沈黙が僕達を包む。しかしそれは、そばにいる素直な女の子によってすぐに破られた。

「そんなこと考えていたんですか? それって単純に箕崎さんが女の子っぽいからじゃないんですか?」

「えっ……?」

「少なくても私はそう思ってますよ。まあ箕崎さんのことを前もって聞いてたっていうのもありますけど、このお屋敷にいても全然違和感ありませんからっ。メイド服なんて着せたら溶け込んじゃいます。見分けがつきません。結婚相手としてお嬢様も深く関わっていきやすそうですね」

「…………」

 呆気にとられ優愛ちゃんの言葉を再び勘違いだと訂正する余裕もない僕に対し、和葉さんもくすくす笑っている。

「バレてしまいましたか。箕崎様がショックを受けないように配慮していましたのに」

「え……ほ、ほんとにそうなんですか……?」

「一つは先ほど箕崎様がおっしゃったお嬢様とのご友人関係から。二つ目は今優愛が言った事実。お嬢様が男性と縁遠く慣れていないため、このお屋敷にいるのは女性のみです。そして三つめ。紹介したメインシステムルームの他に、私と藍方院家の方のみ、メイド達ですら知らないシークレットシステムルームがいくつか存在します。どちらでも指紋、網膜、音声認証によって操作できますし、そこは流石に紹介できませんわ。メインシステムルームは水島家の方々でも知っている場所なんです。人間の心臓が一つだからと言って、家の心臓部まで一つだと考えるのは思い込みですよ? これだけ説明すれば、納得してもらえました?」

 なんだか急に力が抜けた。果たしてそれでいいのだろうかという疑問はまだ残っているけれど、そこを追求する気にはなれない。意味がないし、和葉さん達も困ってしまうと思う。それにしてもメイド服を着させて違和感ないとまで言い切られるとは思っていなかった。確かに女性ものを着させられそうになったことはあるけれど……。誰にというのは愚問だろう。

「ということは、私の案内がつまらないってわけじゃないってことですよね?」

「う、うん……」

 脱力した気持ちの中、何とか優愛ちゃんに返答する。

「安心しましたっ。それじゃあ気を取り直して行きましょうっ」

 優愛ちゃんの笑顔が戻ったのは良かったけれど、僕は複雑な気持ちを持ち続けることになった――。

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