第51話 新しい家族

(私、何であんな事言っちゃったんだろう……。別に、真衛君と私は先生と生徒で、真衛君だって、かっこいいっていうよりは、どちらかというと女の子みたいな顔してるし、先生なのに私達を全然引っ張ってってくれないし……。でも、あの時……。真衛君が駆けつけてきてくれた時は、やっぱりかっこよかったのかな……。ううん、そうじゃない……。あの時の真衛君もかっこいいっては思ったけど、もっと私が気になっているのは、あの優しい真衛君……。真衛君のあの時の微笑みも、私がさせてしまった悲しそうな顔も、恥ずかしがって顔を赤くしてる表情も、全部、なんとなく……もっと見ていたい――なんてっ、私ったら何変な事考えてるのっ! 今のなしなしっ)

「このみさん、どうかしたんですか?」

「っ、えっ、な、何? どうしたの?」

「それはこっちが聞きたいくらいだよ、お姉ちゃんさっきからぼーっとして、周りの事なんて気にしてないっていうか。話だって、うわのそらだし……」

「あっ……ご、ごめんね。それで、いったい何の話?」

「お姉ちゃんが持ってるその子猫、どうしようかって話」

(っ、そっか。たしかこの子猫をこのまま野良猫にするのはかわいそうだってことになって……)

「そ、そうだね……。それで、この子猫、どうしよっか」

 円香さんが運転する車の中、僕達は家に向かいながらこのみちゃんが持っているピンク色の子猫について考えていた。

「首輪もついていないし、誰にも飼われてないのかな……?」

「それにしては、妙に人に馴れていますけど……」

「う~ん……じゃあやっぱりぼく達の家で飼おうよ。ぼく一度でいいからこんな子猫飼ってみたかったんだ。ピンク色の猫なんて、中々いないよ。ねっ、いいでしょ?」

 真実がほしいものをねだるようにゆずはさんにお願いした。

「……そうですね、私は特に問題ありません。このみさんと真衛さん、円香さんはどう思いますか?」

「私も、別にかまわないけど」

「僕も良いと思う。毛並みが変化したことから考えてもこの子猫、何だか不思議な感じがするし、また前みたいに女の子が出てきて助けてくれるかもしれないし」

「いいんじゃない? その出来事がまた起こらないとも限らないし、事情を理解している人が多い場所の方が問題も起きにくいでしょう」

 僕と円香さんは水島家に住んでいる訳ではないのだけれど、今微笑んでいるゆずはさんは律義に僕達の意見も入れてくれたらしい。

「にゃ~ん……」

 しかし、僕の言葉を聞いたこのみちゃんが急に僕をジト目で見て、険しい表情。

「真衛君、もしかしてその女の子が目当て? あの女の子、私から見ても結構かわいかったし……」

「いや、別に、僕はそんなつもりじゃ……」

「にゃっ、にゃっ」

「ほ~ら、子猫だって不純な気持ちはだめだって言ってるよ。ね~」

「そ、そんなぁ……」

 猫語なんてわかるはずないのに、このみちゃんは勝手に猫語を解釈して、微笑みと同時に子猫のおでこをつついた。ため息をつく僕。

「ふふっ、そうすると、名前が必要ですね。どういう名前にしましょうか」

「あの女の子がリリムって言ってたし、そのままでいいんじゃないかな」

「リリムかぁ……何だか魔法の国の猫みたい。ピンク色だし」

「そうですね。私もそれでいいと思います」

「じゃあ決まりっ! 今日から新しい家族だよ、リリム」

「にゃ~ん……」

 真実はこのみちゃんから子猫を抱き上げると、すりすりと子猫に頬ずりし、子猫も気持ちよさそうな声でそれに答える。

 こうして僕達が星空の下を走る中、水島家に新しい家族が加わった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る