第45話 真っ赤に染まって……
「良い姿ね、箕崎真衛」
僕は冷たい倉庫、入り口付近の床に仰向けの状態。彼らの大半は壁に寄り掛かったり、中身の詰まった袋に身体を預けたりしていた。もう虫の息だからどどめは今話しているリシアちゃんに任せるといった感じである。
「英雄気取りで生徒達を助けに来たのに、残念だったわね、逆にこんな無様な姿を見せることになるなんて」
再び胸に衝撃。リシアちゃんが僕のお腹を蹴った。力は弱かったけど、今の弱っている僕には十分だった。
「ぐっ! げほっげほっ……」
「真衛さん……」
「お兄ちゃん……」
「真衛君もういいよっ! これ以上、見てられない……」
「ふふふっ、あはははっ! あ~なんて気持ちいいのかしら。この状況すごく楽しいわ。なにせ妬ましい相手が自分の足元に傷だらけの姿で倒れているんだもの。楽しいに決まってるわよね。嬉しくない訳無いじゃない。それにしても、どうしてあんたがわざわざここに来たのか。来ないほうが良かったんじゃないの? こんな痛い思いをするなんて思わなかったかしら。後悔してる?」
「…………いた……いんだ」
「そりゃあ痛いわよね、やっぱり後悔して――」
「ゆずはさん達に……無事でいて、もらいたいんだ。そんなに長い訳じゃなかったけど、もう僕の中で無視出来ないくらいには、関わってきたって思ってるっ……痛みは、ゆずはさん達が傷つく方が痛い……僕がここに来たことでリシアちゃんの目的が果たせたのなら、後悔はしてないよ……来なかったらゆずはさん達に向けられたかもしれない身体の痛み、それを代わりに受けられて知ることもできたし、それと同時に、リシアちゃんの心の痛みも、少しは理解することができたから……」
「っ、あんたまでそんなことを……私には全く理解できないわ。まっ、生徒さんがあなたの苦しむ姿を見ていられないみたいだから、そろそろ苦しまなくて済むようにしてあげましょう。安心しなさい、あなたはその光景を確認出来ないけど、もう必要ないから生徒達はちゃんと解放してあげるわ。このナイフを突き立てればあなたはもうこの世にいられなくなる」
見上げる僕の視界にはキラリと光るナイフが見えたが、そこに希望の光なんてものはなく、ただただナイフの鋭利さを物語っていた。
「…………」
「っ、リシア……ちゃん?」
物語っていたけど――。
「くっ……」
リシアちゃんの手は、誰が見てもわかるくらいに震えていた。今にもナイフを落としてしまうんじゃないかというほどに。
「リシアちゃん……やっぱり、怖い……んじゃ……」
ボロボロの身体で僕は気持ちを必死に声にして出す。
「うっ、うるさいっ!!」
だけどその声は途中で遮られた。リシアちゃんの叫びによって。
「今さらここで怖気づいたって私が弾き出されるだけじゃないっ!! また弾き出されるのよ、あなたが会社に入ってきたせいでっ! それなら、自己満足だろうがもっと不幸になろうがあなたにそれ以上の不幸をぶつけてあげるっ! あははっ、人生が終わるんだもの、これ以上の不幸なんてそうそう無いわ。一緒に不幸になってよ、箕崎真衛……」
自嘲気味に笑うリシアちゃん。僕の頬に暖かい雫がぽとり、ぽとりと落ちていく。
「リシアちゃん……」
リシアちゃんがそのナイフを振り下ろせば、僕はこの世から消えてしまう。
「………………」
でも僕は少しだけ思ってしまった。身体が動かず、死が避けられないのなら、そんなに悪くない死に方なんじゃないかって。この涙を止められて、苦しみを救ってあげられるのなら、僕はそれでも――。
「覚悟しなさいっ! 箕崎真衛っ!」
「真衛さああああああああああああんっ!」
「お兄ちゃああああああああああああんっ!」
「だめえええええええええええええええっ!」
ゆずはさん達の悲鳴が反響する。体験したことが無いからわからないけど、これが死なのだろうか。視界が遮られ、柔らかな感触と重みが僕を包んで――真っ赤な鮮血が滴った。
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