第39話 気付くのが遅すぎた結果

「ん……今は――」

 時計を見るともうお昼過ぎ。

(うわ、だいぶ寝過ごしちゃってる……)

 僕は今、水島家のベットでぐずぐずしている。昨日、このみちゃんとの事が気になって、ベッドに横にはなりながらも結局深夜まで起きていたのだ。

(ご飯がもしあったらゆずはさんにも悪いし、起きよう)

 僕は重い背中を起こして布団の中から出た。着替えを済ませ、居間へと向かう。居間はシーンと静まり返っていた。キッチンの方に行くと、テーブルには食事の用意。メニューから考えて朝食だろう。

「三人で、どこか出かけちゃったのかな」

 それにしては居間で食べるはずの食事が手つかずで置いてあるのに違和感を覚えた時、僕の携帯が振動する。画面を見てみると、ゆずはさんからだった。

(なんだ、やっぱりどこかに出かけてたんだ)

 僕はそう納得しながら携帯に触れて電話に出た。

「もしもし、ゆずはさん? 今どこにいま――」

「残念、私は水島ゆずはじゃないわ」

 返ってきた声は、ゆずはさんの声とは明らかに違った。同じなのは、女性の声と言うこと、そして、大人の声ではないということだ。

「っ……ゆずはさんはどこにいるんですか?」

「この携帯の持ち主は私の傍にいるわ。動けない状態でね。あとはもう二人程」

「ど、どういう……」

 言いかけて気づく。この声、僕は聞いたことがある。たしか……。

「リシア……ちゃん?」

「っ、こんな私のこと、覚えていたのね。とにかく、彼女達を助けたかったらこれから送信する地図が示している場所まで来なさい。誰も連れてさえいなければ彼女達の安全を保障するわ。それじゃ」

 そう言ったリシアちゃんの声と共に、電話は切れた。

「………………」

 僕が眠っている昨日から今日までの間に、ゆずはさん達に危険が迫っていたことを、僕は今まで知らなかった。だらしなく眠っていた自分が馬鹿みたいに思えてくる。

「くっ、どうして……なんて言ってる場合じゃないか、助け――」

 言葉と同時に走り出そうとした僕だけど、すぐに続きを言わず僕は口を閉じた。走り出すことも止めた。本当に僕が一人で行けばゆずはさん達は助かるのだろうか。

「協力を求めるべきだよね……」

でももし気づかれたら、気付かれてしまったら。そんな思いが頭の中を駆け巡る。

(僕、まだこのみちゃんにちゃんと許してもらってない。僕は、どうすればいい……どうしたら――)

 絶望と迷いの中、何度か掛けなおされたのであろう着信履歴を視界にぼんやりと入れながらゆっくりと壁によりかかって、ため息を――。

「っっ!?」

 つこうとした瞬間、再び携帯の振動音。画面を見ると、相手は円香さん。だけどこの携帯に表示してある名前が本人の証明にはならないことを、僕はついさっき思い知った。着信音のせいで途切れかけた緊張感を再び張りつめる。

「もっしも~し、年頃の女の子三人と大人の階段登っちゃった箕崎君、お目覚めはすごくスッキリしてる? それとも遅くまで起きてたせいでね・ぶ・そ・く?」

「――ふう、円香さん……」

 開幕発せられた台詞に突っ込む気力が今は起きない。安堵のため息をついた僕に、当然何も知らないであろう円香さんは疑問符を浮かべてきた。

「どしたの~? 箕崎君。電話越しでさえ想像できる突っ込みが出てきてないよ~?」

「すみません、今はちょっとそんな余裕が無いというか……」

「余裕が無いの? 電話の相手してられないくらい?」

「あ、いえ、そういう訳では……でも、それくらい、えっと――」

 上手く言葉が出てこない。迅速に用件を伝えようと考える程、口がついていかなかった。とりあえず起きた出来事だけでも伝えようとした時、円香さんの言葉に遮られる。

「……とりあえず、近くで直接合流しましょ。歩いてる間に少しは落ち着くだろうし、言いたいことの整理も出来るだろうから。焦るばっかりじゃ、何事もうまくいかないよ」

「っ、は、はい……」

 恐らく今の心情に察しをつけられたのだろう。口調を少し僕の雰囲気に合わせてくれた円香さんに、僕は戸惑いながらも頷いた。

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