第38話 素直に話せればきっと……
朝。私は一度目をこすり、ベッドから起きる。昨日はだいぶ遅くにお風呂に入ったから、少々眠気が残っている。
「ん、ん~っ!」
大きく伸びをすると、だんだんと記憶が蘇ってきた。真衛君に自分の気持ちを思いっきりぶつけちゃったこと。真衛君の優しさに触れて、温かい気持ちになったこと。今日は真衛君にきちんと謝らなければならない。私は台所へと向かう。
「おはよう、姉さん」
「おはようございます、このみさん」
「えっと……真衛君は?」
「真衛さんなら、まだ起きてきませんよ」
「……そっか」
昨日一人にしてなんて言ったから、まだ私が許してないと思っていろいろ考えて、結局中々眠れずに今眠ってる――なんて調子の良い考えが一瞬浮かんだけど、さすがにそれは都合が良すぎかなと思い直す。私が起きてきた今の時間も朝食を食べるには少し遅い時間なのだけれど、それでも姉さんが今台所に立っているのは、そんな寝ぼすけな私達に合わせて作る時間をずらしてくれているから。
「おひゃよう……」
「おはよう、真実」
「おはようございます、真実さん」
真実も今しがた起きてきたらしい。目をこすりこすり、あくびのせいか少し涙を含んでいる。
「もうすぐ朝食ができますので、もうしばらく待っていてくださいね。このみさんも真実さんも身だしなみ、整えておかないと真衛さんに笑われてしまいますよ」
「あっ……」
そっか、ついいつもの格好で出てきちゃったけど、今日は真衛君がいる。このままの格好をしている訳にはいかない。私は急いで自分の部屋に戻り、着替えを済ませ、洗面所で顔を洗い、髪を梳かして、歯を――ってこれは朝ごはんを食べた後か。でも真衛君に何か思われたら嫌だから軽く磨いておく。
真実も今髪を梳かしている最中。所々はねまくっている髪が少しおかしい。
私が洗面所を出てからしばらくして真実も同じ場所から出てきた。顔を洗ったおかげで目もしっかり覚めたらしく、さっき見たときはロングだった髪も今では部屋から持ってきたリングで二つに分け、跳ねている髪も無い。かわいらしいデザインがあしらわれた活動的な私服姿の真実は、姉さんに話しかける。
「ねえねえゆずはお姉ちゃん、朝ごはんまだ~?」
「はい、出来ましたよ。運んでくれますか?」
「うんっ!」
姉さんが整った身だしなみなのはいつものことだけど、今日はいつも以上に完璧で、服も毎日のものとちょっとだけ雰囲気が違う気がする。やっぱり真衛君を意識しているみたいだ。まあそういう私も今日はお気に入りの服だったりするわけで。別に私はただ家族以外の人が家に泊まっていれば身だしなみを整えるのは当然ってだけで、何も真衛君を意識した訳じゃない。まあちょっとこれなら謝りやすいかなとか、真衛君――おほん、男の子に似合ってるとか言われたら、ほんのちょっとだけ嬉しかったりもするけど――。
「うわっとっとっと……」
「きゃっ、ちょっと真実危ないでしょ」
「えへへ……ごめんねお姉ちゃん」
「もう……」
いつも通りの平和な日常。真衛君もきっと、そんな私達の日常に何気なく溶け込んでいって――。
ピンポーン――
「?」
ふいに玄関のチャイムが鳴った。
「っ、誰でしょうか、こんな朝早くに……」
「ぼくついでだから出るよ」
居間にいた姉さんと私に、もう一度台所と居間を往復しようとしていた真実がそう言いながら応対する。
「はーい、どちら様ですか~?」
「……あの、藍方院家に仕えているものですが、先日ご迷惑をお掛けした箕崎様を含む皆様がこちらにいらっしゃると伺ったもので、お詫びの品をと――」
「わ~何だろ? バウムクーヘンとかだといいな~。どうぞ~」
訪問には早い時間だし、私達のことまで気にしなくてもと思った。かちゃりと音が聞こえたから、真実が扉を開けたみたいだ。
「ありがとうございま――っあ!?」
「?」
今、真実の普通じゃない声がしたけど――。
「真実さん? どうしたんですか?」
私からは見えないけれど、おそらく姉さんが居間の扉を開けて玄関の方を確認した。
「っ! 真実さっ、あなたは――っっ!」
「っ!? ど、どうしたの真実! 姉さん!」
これは異常事態だと気付いた私はすぐさま玄関に出ようと立ち上がる。姉さんの先にいたそれは、姉さんが倒れていくと同時に私の視界の中に映り込んだ。
「っ……」
私が見たのは、もたれかかってきた姉さんを受け止めた一人の女性だった。彼女はゆっくりと姉さんを床に置く。
「………………」
「あなたは――いったい?」
テレビで見たことがある、いわゆるメイド服を身に纏った彼女に言葉をぶつけると同時に、私は動揺しつつも反射的にその女性から距離をとる。
「っ!?」
しかし彼女はその服装からは信じられないくらいのスピードで私がとった間合いを一瞬のうちに詰めてしまっていた。
「!? んん……」
後ろから衝撃を受けた後、私の瞼が重くなる。目を閉じてはいけないと思いつつも、瞼の重みに逆らっていられる時間はほとんど無かった。
◆ ◆ ◆
「ここまできてしまいましたね、お嬢様」
倒れている三人の女の子を私と一緒に見下ろしているセリアが、そんなことを訊いてきた。
普段生活をしている何気ない時と違って、最近のセリアは結構しゃべる。やっぱり今が普段の日常ではないからだろうか。
「何よ、セリアが行動しろって言ったんじゃない。それに気を失わせておいてなんだけど、別にこの子達に何かしようってわけじゃないわ。全てはあいつが逃げないようにするため。もう戻れないのよ……」
「……なるべくここに長居しない方が良いでしょう」
「ええ。それじゃこの子達のこと、よろしく」
「畏まりました、お嬢様」
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