第23話 手を振り返す心地よさ

 雅坂学園を背にしたルリトちゃん、その友達の女の子二人と向き合って、僕は再度お礼を言われていた。

「ありがとうございます、ほんとに、ほんとに、ありがとうございましたっ」

「ほらルリト、そんなに何度も言ったらしつこいよ」

「そうですわ。それにこの人はルリトを助ける時に、重大な罪を犯してるのですから」

「あはは……」

 友達の一人の的確な指摘に、僕は小さくなるしかない。無事に忘れ物も取り戻し、僕達はそれぞれの家に帰ろうとしていた。

「ルリトちゃん達は帰らないの?」

 口を開いたのは真実。

「わたし達も、そろそろ帰ろうと思っています」

「今回の一件で、帰りのホームルームが少し長引いてしまいましたけれどね」

「まあ楽しかったところもあったけど――っくしゅっ!」

 突然、もう一人の友達が大きなくしゃみをする。

「っ……中々止まりませんわね」

「大丈夫、よくあることだから……」

「っ……そのくしゃみ、たまたま出たんじゃ……?」

 ゆずはさん達も心配そうにくしゃみをした子を見つめている。唯一状況を把握できていない僕の問いにルリトちゃんが答えてくれた。

「ちょっとしたアレルギーなんです。埃や動物の毛に少し弱くて。たぶん、さっき倉庫に入ったからだと思います」

「ずずっ、動物も避けてたし、最近出てなかったんだけど。平気平気、そんな重いものじゃないから。みんな心配性だよ。むしろルリトの方がずっと身体弱いのに」

「とりあえず、保健室で応急処置をしてから帰りましょう」

「そうですね。そう言う訳で、私達は用事を済ませたら帰ります」

「うん。それじゃ、僕達はこれで」

 僕達はルリトちゃん達に背を向けて歩きだす。途中で一度振り返ると、友達と一緒に校舎に戻ろうとして、同じく振り返ったルリトちゃんと目が合った。ルリトちゃんの左右に振った手に、僕も軽く手を振り返して答える。手を振り終わり、友達に追いついたルリトちゃんを、僕はゆずはさん達と一緒に見送った。

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