第21話 少なくとも抱いていた学園のイメージは塗り替えられた

 僕がルリトちゃんを助けたこと、そしてこのみちゃん、一緒に来ていたゆずはさんと真実や生徒達の説明を聞いた先生達は少しため息をつきながら後で職員室へ来るようにと言う旨を僕に伝え、戻っていった。今僕達が立っている場所は例の物置代わりになっている部屋の前。僕を一番前で追いかけていた新聞部の女の子が口を開く。

「あの……最初は興味本位で追いかけてしまって申し訳ありませんでしたわ。楽しさもあって、少し意地になってしまいましたの」

「えと、ごめんなさい」

 新聞部の女の子がメイド部部長さんと一緒に頭を下げると、他の生徒達もそれに続いた。僕は両手を軽く前に出しながら気にしなくても良いという意味を持たせた仕草をする。

「それと、ルリトを助けてもらってありがとうございますわ。ルリトにしたことに関しては少し複雑ですけど、ルリトの安否には代えられませんし、その点に関して私達から何も言うことはありませんの。後は本人がどういう意思を示すかという問題なのですけれど……」

 そういえば教室から逃げた時からその本人の姿が見当たらない。この近くにいないのかなと思いながら辺りを見回していると――

「あ、あの……わ、わたしにも……お礼を……」

 ふいにそんな声が聞こえた。声の主を探すと、女の子の集団に紛れ、一人の女の子がしきりにジャンプしていた。どうしてジャンプしているのかは、たぶん身長がすごく低いから。そんな女の子に、僕は心当たりがある。

「んん……ぷはっ」

 ルリトちゃんは女の子の集団をかきわけながら僕達の前へ。

「あの、わ、わたしにも……わたしにも、お礼を言わせて下さい。助けて下さって、本当に、ほんとうに、ありがとうございました」

「そ、そんなに丁寧に言われても……。友達は不服そうだし、僕が君に悪いことしたようなものだから……」

「そ、そんなことないです……。わたしは本当に、真衛さんに感謝しています……」

「っ――ありがとう……」

 僕が微笑みながらお礼を言うと、最初は戸惑っていたルリトちゃんも、照れているのか頬を少し染めながら暖かい微笑みを僕に返してくれた。

「それじゃ、用を済ませて帰ろう、お兄ちゃん」

「うん」

 真実の言葉に押され、僕達はルリトちゃん達と別れ――。

「待って下さいな」

 呼び止められた。今まで話していたルリトちゃんの友達の一人から。僕はまだ何か彼女達にしたことがあるのかなと思いながら振り向く。

「えっと、あなたではなく、その、真実先輩に……」

「ぼく?」

 僕が視線を向けると、名前を呼ばれた真実は自分を指差しながらそう言った。身長は限りなく真実の方が小さいからすごく違和感があるけど、たしかに真実は彼女達の先輩にあたる。

「はい。その……もう、帰ってしまうんですの?」

「えっ……うん、忘れ物を取りに行ったら。どうかしたの?」

「あ、あの……この後、忘れ物をとりにいく以外に……用とかは無いんですの?」

「う~ん……特に思い当たらないけど」

「このみ先輩と、ゆずは先輩は……どうですの?」

「お姉ちゃん達も特に無いと思うよ」

『ねえ』という意味を含むように、真実はゆずはさん達に視線を向ける。このみちゃんとゆずはさんはそんな真実を見た後、お互いに一度目を合わせ、女の子に向かって頷いた。

「そう……なのですか。それなら良かったです。もう、他のみんなも、どうやら限界みたいですので……」

「えっ……?」

 そう言ったのは僕だ。僕には何の事だかさっぱりわからない。ゆずはさん達の方を見てみると、ゆずはさん達は何故か顔を少し引きつらせていた。特に真実が一番よく表情に出ている。

「ま、まさか……」

「はい。どうか、お願いしますわ」

 真実の声に女の子が答えたと同時に、ここにいるゆずはさん、このみちゃん、真実、ルリトちゃん以外の女の子全員が、甲高い声をあげながら僕達に向かって走ってきたのだ。

「えっ、ちょっ……」

 ゆずはさん達の前にいた僕はそんなくらいしか言葉を言う事が出来ず、女の子の集団に弾き飛ばされた。

「お姉様~っ!」

「お久しぶりですっ! このみせんぱ~いっ!」

「真実先輩、ぎゅ~ってさせてください、ぎゅ~って!」

 女の子達はそれぞれの言葉を発し、あっという間に集団の中に飲み込まれたゆずはさん、このみちゃん、真実。集団は三つに別れ、それぞれの集団の中心にゆずはさん達がいる。

 僕は一人残っているルリトちゃんに事情を聞いた。

「る……ルリトちゃん、これはいったい……?」

「あ、はい。ゆずは先輩達は、この雅坂学園では卒業するまで皆さんの憧れの存在でした。ゆずは先輩はおしとやかで優しく容姿端麗ですし、このみ先輩は付き合いやすく、勉強も出来るしっかりした人ですし、真実先輩は身長が低くてかわいらしく、愛らしいですから。もっとも、わたし自身も今まで真実先輩と同じように扱われていて、最近学園から先輩達がいなくなってしまった分の波をひしひしと感じているのですけど……」

「…………………」

 まあルリトちゃんが詳しく説明してくれたけど、要約すると、ゆずはさん達は女の子から見ても、本当に魅力的だということ。たくさんの女の子達から囲まれて、どことなく気後れしながら戸惑っている三人を見守る僕とルリトちゃん。

 窓から差し込む夕日が、ルリトちゃんのかわいい苦笑いを照らしていた――。

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