第42話 女の子にもう一度アイスを
「はあっ、はあっ……」
僕は荒い息を繰り返す。ペースを上げすぎた。短距離走じゃないんだから、このペースで目的地までもつ訳ない。
「はあっ……あれ?」
「にゃ~ん」
自分が目を向けている足元に、一匹の子猫が近づいてきた。毛並みが白色の小猫はそのまま、僕に身体をこすりつけてくる。
(っ、あの時の……)
息も少し整ってきたので、顔を上げると、そこには側に川が流れていた。一人の女の子と出会った場所。瓦礫の山はもう片付けられている。
(そっか、ここってこのみちゃんと出会った……)
このみちゃん達とはまだ会って間もないけど、現に今、僕はこのみちゃん達を助けようとしている。それはこの短い時間で、このみちゃん達が赤の他人じゃなくなったという事。僕は足元で身体をすり寄せてくる子猫の頭をなでた。
「待っててね。もうすぐ君を助けてくれた女の子を、僕が助けてみせるから」
呼吸もだいぶ楽になってきた。急ぎたいけど、今度はペース配分を考えないといけない。その事を考えつつ、再び目的地へ向かって走っていこうとしたその時、
「箕崎くーーん!」
自動車の走行音と一緒に、僕を呼ぶ声が聞こえてきた。
「円香さん……」
自動車が僕の隣に停止して、開いたドアから円香さんが降りてくる。
「危ないよ~そんなところで座り込んでちゃ。かっこよく飛び出して行ったのに、いったいここで何してたの?」
「えっと、全力で走りすぎて、疲れちゃいまして。息を整える間、子猫に気持ちを癒してもらっていたんです」
別れの言葉でもかけようかと再び子猫がいた足元に目を向けると、既に子猫はいなくなっていた。すぐに予想がついたけど、自動車の走行音に驚いて逃げてしまったらしい。
「もう、そんな調子じゃ目的地に着いたって、疲れて何にも出来なくなっちゃうよ」
「す、すみません……」
「ほら、乗って?」
「えっ、でも、他の人は連れてこないように言ってましたし……」
「私が近くまで送ってあげるって言ってるのっ。これなら私は関係ないでしょ?」
「は、はあ……。大丈夫かな……」
「ほら、走って行ったらさっきみたいに体力使っちゃうし、移動する時間は少ない方がいいはず。今こうやって話してる時間だって本来惜しいんだから、言い合いしてる暇なんて無いよ」
円香さんは話し続けながら僕の背中を押してくる。
「わっ、わかりました、わかりましたから……」
僕はドアを開け、円香さんの自動車に乗りこんだ。円香さんも運転席に乗り込み、シートベルトを締めると、ドアを閉じる。
「シートベルトは締めた? じゃあちょっと運転が乱暴になるから、覚悟しておいてね」
「えっ……?」
言うなり円香さんは自動車を発進させた。カーブはもう少し減速した方がいいんじゃないでしょうか、円香さん――。
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