第16話
その後のことを、わずかながら記す。
この事件の翌日、委員長は学校を休んだ。
さすがに思うところがあったのか、それとも髪を染め直すのに手間取ったのか。
その理由はいまだにわからないままで、確かなことはただひとつ。
翌々日、学校に復帰した委員長は――
それまで通り、まるで染髪事件など存在しなかったかのように振舞った。
あれだけやらかしておいて、その程度の対応で済むのか?
済んでしまった。
そもそもの話、2Bクラスメイトたちは大幅なイメチェンをかました委員長に対し、まともに話しかけることすらできなかったのである。であれば、戻った後も同じだ。
あれこれ陰口を叩く輩はいるが、そこまで含めていつも通り、元通りといったところである。
さて――引田はと言えば。
「しかしまあ、おまえがなぁ……。委員長となぁ……。へー……」
「俺は認めんぞ。やはり委員長はメガネでないとだめだ」
「いや河野くんが認めるかどうかは別にどうでもいいよ……」
赤髪トラップを未だに許してもらえていない引田は、甲本と河野、二人の友人とともに学食で昼食をとっていた。
「……けどまあ、ぶっちゃけおまえどうなの?」
「どうなのって?」
「髪型とか、メガネかコンタクトかとか……そういう好みとか、なんかねーの?」
「……」
言われるまで考えもしなかった、というような顔で、引田は数秒考え込み――
けろりとした顔で言い放った。
「いや、ぶっちゃけどうでもよくない?」
「は?」
「だからさ、眼鏡かけてようがコンタクトしてようが、三つ編みだろうが赤髪だろうが。大和さんは大和さんじゃん? だからどうでもいい。俺が好きなのは髪型とかアクセサリーじゃなくて、本人。終わり」
「論外!」
テーブルをぶっ叩いて立ち上がった河野は、とっさにラーメンのどんぶりを抱えて退避した引田に向けて叫び散らす。
「今のおまえのその状態をなんていうか知ってるか。恋は盲目って言うんだぞ、それ!」
「恋は盲目……」
言われて再び引田は考え込んだ。
――改めて考えてみれば。
期待はずれでも構わないという境地は、たしかに。ある意味では、盲目と言い換えることもできる状態かもしれない。
と、なると――
「……恋は盲目ってさ、ひょっとしてめちゃくちゃすごい真理を付いた格言な気がしてきたよ」
しみじみとつぶやく引田を見て、甲本と河野が顔を見合わせる。
二人を代表して、甲本のほうが大きなため息ともに吐き出した。
「ダメだな、こりゃ。本気で盲目だ」
大和委員長七変化
おしまい!
大和委員長七変化 胆座無人 @Turnzanite
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます