第9話 旅立ち

 雲一つない、透き通った青空が広がっていた。

 山間やまあいから昇り始めた日の光が、宝石のように輝いている。北門に居た者たちは、例外なく東の空を眺めていた。

(旅立つには絶好の日だな)

 背負った大きな荷物の位置を直しながら、ラークは思った。これから五日間、山道を進むことになる。天気が崩れないのを祈るばかりだ。

「お待たせしました」

 声に振り返ると、ミーファがサラの手を引いて近付いてくるところだった。二人とも、ラークほどでは無いが大きな荷物を背負っている。

 ミーファの顔には、いつも通りの笑顔が浮かんでいた。俯いたサラの顔は、フードの奥に隠されている。

「『夢』は見なかったか?」

「はい、見なかったです。……さっきサラちゃんを迎えに行った時に、あの魔道具技師の人から聞いたんですけど」

 と、ミーファは言った。

「起きてる間に未来を見ないようにすれば、夢も見ないだろうって」

「なるほど、気をつけよう」

 ラークは頷く。夢では何を『見て』しまうか分からない。今のところ、避けられるなら避けた方が無難だろう。

 それにしても、とラークは思った。ミーファの台詞の中に、違和感を覚える単語があった。

「……迎えに行ったって、どういうことだ?」

 昨日の話では、夜には宿に戻ると言っていたはずだ。すると、ミーファが困ったように言った。

「えと、夜に帰ってこなかったから、迎えに行ったら……」

 繋いだ手を少し引っ張ると、サラはようやく顔を上げた。まぶたが落ちかけ、今にも寝てしまいそうだ。

「まだ調べたいことがあるから、朝に来てって」

「あの男の家に泊ったのか?」

「みたいです。止めたんですけど……」

 ミーファは少し唇を尖らせてサラを見る。サラの方はというと、眠そうに目をこすっていた。

「そんなに何を調べてたんだ」

「……道」

 サラはそう言ったあと、ふわ、と大きく欠伸した。ラークとミーファは、思わず顔を見合わせた。

「……まあいいか。サラ、これ」

 ラークは小さな赤い宝石がはまった、銀色の指輪をサラに渡した。昨日がらくた屋で買った魔道具だ。

火球ファイアボールの指輪だ。威力は小さいが、その分メンテナンス費も安いそうだ。どう使うかは任せる」

 こくりと頷いて、少女は無造作に指輪を身に着けた。手を日の光に透かすようにして、しばらく眺めていた。

 不意に、ミーファがぽつりと呟くように言った。

「シグルドさんに会えば、いいアドバイスを貰えるでしょうか?」

「今はそう願うしかない。……もし貰えなかったとしても、ビヴロストに行けば腕輪を詳しく調べてもらうことはできる。今より状況は良くなるさ」

「はい」

 安心させるように言うと、ミーファはこくりと小さく頷いた。

 街の中から、一台の大きな馬車が出てきた。荷台にはいくつかの樽や木箱、麻袋が置かれていたが、それでもまだまだ余裕がありそうだった。

 馬車が止まると、付近にたむろしていた者たちがぞろぞろと集まっていった。御者台に座る商人が、行き先を告げ、相乗りする者をつのっている。

 この街を出る商人たちは、荷台を埋めるのに十分な量の商品を仕入れられなかった場合、余ったスペースに人を詰めて出発するのが常だった。それが冒険者なら、簡易的な護衛としても機能するので一石二鳥だ。

 乗せてもらう方にとっても、通常の乗り合い馬車より安いという以上のメリットがあった。乗り合い馬車なら何度も乗り換えが必要で、途中で待ち時間もかかるようなマイナーな行き先であっても、上手くいけば直通で辿り着く。当然のことながら、自分の行きたい場所を通る馬車を見つける運が必要だ。

 そういう意味では、今日のラークは非常に運が良かった。最初に捕まえた馬車が、ちょうど条件に合致していたからだ。乗り合い馬車を使ったルートも考えていたのだが、必要なかったようだ。

 荷台に乗り込んですぐに、サラは木箱に寄りかかって眠りに落ちた。ミーファはくすりと笑うと、フードを深く下ろして、顔を隠してあげていた。

 結局のところ、相乗りしたのはラークたち以外に一人だけだった。馬車が出発し、周りの人たちはみな離れていく。ビヴロスト行きの需要はそれなりにあると思っていたのだが、そうでも無かったのだろうか。ラークは不思議に思った。

(スコットもそろそろ出発している頃か)

 友人の顔を思い浮かべる。コボルト退治の本隊の出発は明日だが、彼らは斥候せっこうとして一日早く出るらしい。危険な役割だが、本人はさほど不安に思ってはいないようだった。性格の問題か、それとも実力ゆえか。

 コボルト退治の仕事を終えた後は、大陸中央部に戻る予定だそうだ。しばらく会うことは無いだろう。

「よかったら遊びに来てよ。ちょっと遠いけどさ」

 と、スコットは拠点にしている街の名前を教えてくれた。また彼は、こうも言っていた。

「何か僕に手伝えることがあったら、いつでも相談してね」

 その時の彼は、真摯しんしな表情でラークを見ていた。友人がトラブルに巻き込まれていることに、勘づいていたのかもしれない。

 ラークが物思いにふけっていると、もう一人の客が不意に話しかけてきた。

「お兄さん、もしかして南の山道からビヴロストへ行こうとしてる?」

 顔を上げ、改めてその人物を観察した。ラークは思わず眉を寄せる。どこかで見たことがある気がするのだが、思い出せない。

 ミーファよりも若く見えるその少年は、帽子を被り、背中には平べったい木箱を背負っている。非常に軽装で、箱以外に荷物らしい荷物は持っていない。容量の小さそうなその箱に、何が入っているのかは想像がつかなかった。少し大きめの盾がちょうど入りそうだなと思ったが、武器も無いのに盾だけ持つというのも変な話だ。

「そうだ」

 短く答えると、少年は称賛するかのように手を叩いた。

「へえー! あそこに突っ込むなんて、やるねえ」

「そこまで言うほど危険じゃないだろ?」

 眉を寄せ、訝しげに言った。確かに、ビヴロストへと通じるいくつかの経路のうち、南の山道は危険な方ではある。『王国』からあぶれたコボルトが出るためだ。とは言え、慣れた冒険者にとってはさほどの脅威では無い。

「へ? まさか知らないの? 広場の掲示板にも冒険者ギルドにも、張り紙が出てるのに?」

 少年は両手を顔の横に上げ、大げさに驚いた。

「あの道ワイバーンが出るんだよ、今」

本当ほんとか?」

 ラークは驚愕に目を見開いた。ワイバーンと言えば、よく知られている中では上位の実力を持つ魔物だ。巨体と高い飛行能力、鋭い爪だけでも厄介だが、炎のブレスを吐く能力まで持っている。

「嘘ついてどうすんのさ。だからみんなこの馬車乗ってこなかったでしょ」

「……確かに」

 そういうことだったか、と苦い表情になる。昨日はギルドにも行っていないから、見逃していた。

 だが仮に知っていたとしても、南の山道を使わざるを得なかっただろう。北回り、もしくは東回りでビヴロストに行こうとすると、一か月近くかかってしまう――これは、大陸中央部に出るまでにかかる期間とほぼ同じだ。唯一残っている西からの経路は、金がかかりすぎて無理だ。

 待てよ、とラークは思った。南の山道は、レインたちも通ったはずだ。彼女たちによって、既に退治されていたりはしないだろうか。

「そのワイバーンの噂が出たのがいつ頃か知ってるか?」

一昨日おとといの夜に街に来た冒険者が出どころだねー。恋仲のパーティメンバーを亡くして、ずいぶん落ち込んでたらしいよ。ワイバーンに会ったのがその四日前だから、ビヴロストから一日以内の場所だね」

「そうか」

 妙に詳しいな、と思いながらラークは頷いた。レインたちが街を出てから、まだ十日経っていない。問題の場所を通過したのは、目撃情報があった日よりぎりぎり後だろう。退治されているかもしれないし、遭遇しなかったかもしれない。

「君もビヴロストへ行くのか?」

 ラークは、違うだろうと思いつつも聞いてみた。ビヴロストへと通じる登山口以外だと、この馬車の行き先に目ぼしい場所は無かったはずだ。最終的には王都へ向かうようだが、それは何か所もの小さな村を周った後の話だ。そもそも王都へ行きたいなら、乗り合い馬車で十分のはず。

「まさか。僕は気ままな吟遊詩人だからねー。村から村へと渡ってくのさー」

 少年は、見えない弦楽器をき鳴らすような仕草をした。今更ながら、彼にどこで会ったかを思い出した。数日前に酒場で演奏していた人物だ。

「ではここで一曲ご披露……と言いたいところだけど、今はやめといた方がよさそうだね」

 ラークの横を見ながら、少年は言った。視線を追って目を向けると、サラとミーファが互いにもたれ合って眠っていた。

「残念だなー」

 わざとらしい悲しみの表情を浮かべながら、少年はゆっくりと首を振った。懐から紙とペンを取り出し、何かを書き付け始める。

 ラークは荷台の外枠そとわくに腕を乗せ、景色に目を向けた。ワイバーンが既に倒されていることを願いつつ、北にそびえる山岳地帯を眺めた。


 馬車の旅はさほど快適というわけでもなく、道が悪くなっているところではひどく揺れた。ミーファはその度に目を覚ましたが、またすぐに眠りに落ちていた。サラはというと、結局一度も目を開けることはなかった。

 目的の登山口に着いたのは、ちょうど昼頃だった。二人を起こして馬車を降りる。ミーファはすっきりとした顔をしていたが、サラはまだ眠そうだった。

「じゃ、お兄さん、また生きて会おうねえー。あ、でももし死んじゃったら、うたにしてあげるからねえー」

 縁起でもないことを言いながら、馬車の中から少年がぶんぶんと大きく手を振っていた。ラークは苦笑して小さく手を振り返す。

「うた?」

 きょとんとした表情で、ミーファが言った。

「吟遊詩人なんだそうだ。二人が寝てる間に、少し喋っていた」

 ラークは簡単に説明した。ワイバーンの話は、今は伏せておくことにする。まだ余計な心配をさせる必要はないだろう。もしかしたら、これからすれ違う誰かが先に退治してくれているかもしれない。

「ちょっと聞いてみたかったです」

 ミーファは去って行く馬車を、しばらくぼんやりと見ていた。

 軽く昼食を済ませて、三人は山道に入った。最初のころは道も緩やかで、道端に咲く花や、後ろに見えるザイルの街の景色について喋る余裕もあった。

 だが登るにつれて急激に道は険しくなり、徐々にみな口数が減っていく。周りにあるのは、岩と砂利ばかりだ。

 やがて、岩に手をつくべきか迷うほどに斜面が急になってきた。こんなにきつい道だとは予想外だった。そろそろ休憩しようかと考えて、ラークは適当な場所を探しながら進んでいた。

 ずるり、と足を滑らせる大きな音が聞こえて、ラークは振り返った。バランスを崩し、手の先から肘まで地面につけてしまったサラを、ミーファが慌てて助け起こしているところだった。転げ落ちたりしていなくてよかった、とラークは息を吐く。

「掴まれ、サラ」

 ローブをはたいて砂を落としてたサラに、手を差し伸べる。少女は少しの間その手をじっと見ていたが、やがて素直に掴まった。

 坂を少しずつ上がりながら、引っ張り上げてやる。少女の体は見た目通りに軽く、簡単に持ち上がりそうだった。背負っていけるんじゃないかと思ってしまうほどだ。

「そうだ、サラ」

 ラークはふと思い出して言った。少女は顔を上げ、フードの奥からじっと見上げてきた。

「サラは例の『夢』を見てないのか?」

「うん」

「そうか」

 予想通りの返答に、ラークは満足して頷く。彼女が夢を見ていないのは、未来を、腕輪によるを見たことがほとんど無いからだろう。魔道具技師の推測通りだ。

 道の先を見上げると、同じような急斜面がしばらく続いているように見えた。休めそうな場所も見当たらない。

(こんな場所で戦闘になると厄介だな)

 などと思ってしまったのが悪かったのか、前方の大きな岩の影から、直立した犬のような魔物――コボルトが、突然飛び出してきた。その姿の通り、犬が吠えるような声を出し、ラークたちを威嚇いかくしていた。手には太い木の棒を持っている。

 ラークはサラの手を離すと、素早く剣を構えた。その体勢のまま、魔物とじっとにらみ合う。いつも通り、先に相手に攻撃させようとしたのだが、

(しまった!)

 はっと顔を強張らせ、足を滑らせそうになりながら一気に距離を詰めた。予想外のタイミングだったのか、コボルトは虚を突かれたように固まる。勢いのまま、その眉間に剣を突き入れた。

「……ふう」

 魔物を始末し、ラークは小さく息を吐いた。を見ないようにしなければいけないことを、つい忘れてしまう。『待ち』の戦略は使えない。

 今回はたまたま上手くいったが、普段と違う戦い方を強いられるのは厄介だ。これで大怪我したりしたら目も当てられないな、とラークは苦い表情になった。

 だが幸運なことに、それ以上魔物に会うことは無かった。急な斜面もようやく終わり、三人は道端で少し休むことにした。

「山登りって、大変ですね」

 ミーファの言葉に、ラークは頷く。

「少し甘く見ていたな」

「はい。でも、こんな綺麗な景色を見れてよかったですね! 天気もいいですし」

「ああ」

 相槌あいづちを打ったあと、ラークはミーファの横顔に目を向けた。少女は口元を緩めて、眼下に広がる風景に見入っていた。

 例の夢を見なかったからか、今日のミーファは機嫌が良さそうに見えた。だがそう見えるからこそ、無理してるんじゃないよな、とラークは逆に不安になってしまう。

 不意に、ミーファと目が合った。ずっと見られていたことに気づいたようで、若干顔を赤くしながら言った。

「な、なんでしょう」

「……いや」

 ラークは慌てて視線を外した。目に焼き付いた少女の横顔を、苦労して振り払う。

「よし、そろそろ行くか」

 誤魔化ごまかすように言うと、ラークは勢いをつけて立ち上がった。


 日が沈むよりもまだ少し前に、宿泊予定の山小屋――無人小屋ではなく、宿として経営されている――に着いた。例のワイバーンの噂が広まっているようで、客はラークたちだけだった。宿の主人は、食材が無駄にならずに済むと言って喜んでいた。

 やたらと豪勢な夕食が出た上に、三部屋しかない個室を一人一部屋借りることになった。ラークは少なくとも自分は大部屋で寝るつもりだったし、個室が空いていなければ女性陣二人もそうせざるを得ないと思っていたので、運が良いのは確かだ。もっとも、もしワイバーンに出会えば、この程度の幸運ではとても割に合わない。

 ラークが割り当てられたのは、ベッドが二つ入った広い部屋だった。贅沢ぜいたくと言えば贅沢だが、落ち着かないという気持ちの方が強かった。まあどちらにせよ、寝る以外に部屋ですることなんてほとんど無い。

 早々にベッドに入ろうとしたその時、こんこん、と扉をノックする控えめな音が聞こえてきた。ミーファか、と反射的に思ったが、こんな時間に何の用だろう。明日のことについては、食事の席でもう十分に話したはずだ。それとも宿の主人だろうか。

「どうぞ」

 ラークが言うと、扉は静かに開いた。

 姿を現したのは、意外にもサラだった。いつものローブ姿ではなく、可愛らしい、だが薄くて頼りない、色々と危うい寝間着ねまきを身に着けている。

「……」

 一瞬、夜這いという単語が頭に浮かんでしまった。いや、サラは駄目だろう。何がどう駄目なのか、サラじゃなかったら良いのかはともかく……。

「ラーク」

「どうした、何か用か?」

 馬鹿な考えは、サラが一言発した途端に雲散霧消うんさんむしょうした。よく何事も無かったかのように答えられたな、とラークは他人事ひとごとのように思った。

 相手に椅子を勧めて、自分はベッドに座る。サラが折りたたまれた紙を持っていることに、その時になって初めて気付いた。

 サラは、ラークの目をじっと見据えながら言った。

「ミーファを助ける方法、分かった」

「なにっ?」

 ラークは思わず腰を浮かせた。サラは、淡々とした口調で言葉を続ける。

「悲鳴を上げるまで、助けないで」

「……待て、どういうことだ。もうちょっと分かりやすく話してくれ」

 片手を顔に被せながら、懇願するように言う。サラは少しのあいだ首を傾けたあと、言った。

「夢の中で、ミーファは死んだわけじゃない」

「ああ」

「夢の内容を再現して、それから助ける」

「……そうすれば、未来を変える必要もないってことか」

「うん」

 ラークは考え込んだ。確かに、夢で見た未来を絶対に変えられないのなら――いつか必ず起こるのなら、起こした上で助けるしかない。

 だが、言うまでもなく危険だ。『何か』に追われているミーファを、あえて放置するということなのだから。

「夢が本当に未来の出来事なのかもまだ分からないんだ。危険を避ける方がいいんじゃないか?」

「避けられるなら。でもアシュレイは、逃げられなかった」

「……」

 ラークは沈黙した。一生城壁に登らず過ごすことなんて、難しくも何ともないだろう。だがアシュレイは、夢が実現する危険を承知であえて登った。理由は分からないが、未来を変えることはできないということなのか。

(いや、違うか)

 彼は、城壁に夢を見たとは言っていたが、ところまで見たかどうかは分からない。単に、避けるべき脅威とは思っていなかっただけかもしれない。そこが自分たちとは違うところだ。

(どっちが正解なんだ)

 本来ならミーファが選ぶべきだ。だがサラの作戦を採用するなら、本人には伝えない方がいい。夢に見た通りに動いてくれだなんて、言われて上手くできるかどうか。再現できずに終わってしまったら、またいつか同じことが起こるかもしれない。

 まだ迷っているラークに、サラがきっぱりと言った。

「夢で死んだら、この方法は使えない。手遅れになる」

 その言葉で、ラークは決心した。

「分かった。サラの言う通りにしよう」

「ありがとう」

 サラは、ミーファのようにかしこまってお辞儀すると、手に持った紙を渡してきた。

「夢の場所の候補」

 紙は、何枚かまとめて畳まれていた。それぞれの紙には、縮尺が異なる極めて詳細な地図が描かれている。右下にあるエンブレムは、この地図が、ビヴロストにある『学院』の魔術師によって作られたことを示している。

 地図ごとに、一つ以上のバツ印が書き込まれていた。後から追加されたものらしく、インクの色が違う。これがサラの言う候補地だろう。

「夢の内容から判断したのか? 昨日からこれを調べてたのか」

 ラークは目を見張った。大変な労力だったに違いない。

「ビヴロストの近くだけ。他は詳しい地図がない」

 よく見ると、地図上のバツ印はどれもビヴロストから一日弱の位置にある。今朝の馬車の中での会話が蘇る。

(嫌な符合だな)

 ミーファを追っていた『何か』とは、ワイバーンのことなのだろうか。もしそうだとしたら、果たして自分たちの力が通用するのか。

 不意に、サラに腕をぎゅっと掴まれた。真摯な眼差しが、真っ直ぐに向けられる。

「一緒に、ミーファを助けて」

「……ああ」

 ラークはゆっくりと頷いた。

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