第4話 遺跡(1)

 交代でゆっくりと休息を取り、動き始めたのはちょうど日が昇る頃だった。アシュレイに従って、遺跡の外周をぐるりと回る。入り口の扉らしきものはいくつかあったが、いずれも固く閉ざされていた。

 やがて、アシュレイは一つの扉の前で立ち止まった。他よりも幾分いくぶんか小さく見える。昨晩に見た外壁の一部のように、表面には淡く光る幾何学模様が描かれていた。

 彼は懐から、四角い金属製の薄い板を取り出した。こちらにも、扉と同じような光る模様が描かれている。ラークが横から覗き見ると、それは扉の模様の正確な縮小版であるようだった。

 板を扉にかざすと、光は徐々に失われていった。やがて、板に描かれている全てが消え去り、つるつるの表面だけが残った。

「わっ」

 ミーファが小さく声をあげた。石同士が擦り合わされる大きな音を響かせながら、左右の壁に吸い込まれるように扉が開いたのだ。アシュレイに続いて全員が中に入ると、再び音を立てて閉まる。

 遺跡の内部は、薄暗いながらも完全な暗闇ではなかった。明かりは見当たらないが、何らかの魔法の力が働いているのかもしれない。

 真っ直ぐに続く石造りの通路の一番端に、ラークたちは立っていた。幅は二人がぎりぎり並んで歩ける程度で、天井はさほど高くない。外壁と同じく、壁は様々な大きさの石が噛み合わされてできていた。

 しばし道の先を眺めていたアシュレイは、仲間たちの方を振り返りながら言った。

「よし、まずは拠点になる場所を探そう。の残りはあと一枚しかないからな。よっぽどのことがない限り外には出れないぞ」

 金属板をぱたぱた振ったあと、地面に投げ捨てた。扉を開ける鍵となるこの板は、一度きりの使い捨てのようだ。使い切ってしまったら、もう入る手段は無くなる。

 内部の詳しい情報は、アシュレイも掴んでいないらしい。分かっているのは、四人パーティが必要で、さらにその中に治癒魔法の使い手が要るということ、だそうだ。

「半端に具体的な情報だな」

 ラークは眉を寄せて言った。まるで全てを知っているのに、あえて一部しか伝えていないかのような気持ち悪さを感じる。

「まあな」

 アシュレイは肩をすくめた。彼も同じような思いを抱いてはいるようだ。

「とにかく、何が出るかも分からないんだ。注意して行こうぜ」

「分かった」

 ラークは頷いた。

 通路を進んでいった四人は、すぐに問題にぶち当たった。一本道の先が行き止まりになっていたのだ。扉らしき物も見当たらない。

 アシュレイは首を捻りながら言った。

「んー? 分かれ道見逃したか?」

「見逃すようなとこじゃないだろ……。何か気づいたか?」

 女性陣二人に尋ねてみたが、返事は無い。

「とりあえず、一度戻ってみよう。今度は壁を良く見ててくれ。道じゃなくても、仕掛けがあるかもしれんからな」

 アシュレイの提案で、一行いっこうは通路を引き返した。ラークは左右の壁を交互に見ながら進んでいったが、特におかしなところは見当たらない。

「うーむ。何の変哲もない、ただの行き止まりだな。もしかして、入るとこを間違えたか?」

 彼は腕を組んで唸った。ダミーがあるなんて聞いてないぞ、などとぶつぶつ言っている。

 ラークは、はっと何かに気づいたかのように、目を見開いた。

「待て。そうすると、閉じ込められたんじゃないのか?」

「いや、それは大丈夫だ」

 アシュレイが、扉のちょうど中央付近を指さした。その場所からは、拳大の真四角の石が飛び出していた。

「中からはこれを押せば開くはずだ。見てろよ」

 彼がぐいっと石を押し込むと、先ほどと同じように、大きな音を立てて扉が開いた。しばらく待っていると、再び閉まる。

「なるほど、それは分かったが」

「これからどうするかってことだな」

 ラークの台詞の続きを、アシュレイが言った。

「本物の入り口が他にあるって可能性は、まあ無くはないな。そんな話は聞いてなかったんだが……」

「他の可能性は?」

「何らかの手段で、あの行き止まりの先に行ける。もしくは、どっかに隠し扉がある」

 それを聞いて、ラークは少しの間考え込んだ。

「ここに誰かが待機しておけば、他のやつらで別の扉を探しに行けるな」

「そうだな。だがパーティを分けるってのは愚策だぜ。それだけ戦力が分散されるんだからな」

 アシュレイが、人差し指をぴっと立てながら言った。ラークは渋い顔をする。

「いざとなったら、そうするしかないだろ」

「最後の手段にしようってことだ。まずはもう一回奥に行ってみようぜ。今のところ、一番怪しいのはあそこだからな」

 そう言って、彼は歩き出した。ラークは、念のためまた壁を確認しながら着いていったのだが、やはり何も見つからない。

 突き当りの壁も、他と全く違いが無いように見えた。大小様々な大きさの石が積まれた壁だ。

「うーむ」

 再び唸ってしまったアシュレイ。そんな彼の服の裾を、サラがくいくいと引っ張った。

「ん?」

「さっきの石の場所」

「ふむ」

 その言葉を聞いて、アシュレイは壁に顔を近づけた。サラの言っている意味がよく分からなかったラークは、眉をひそめた。

「お?」

 不意に、アシュレイが声をあげた。ラークが身を乗り出して尋ねる。

「どうした?」

「これを見てみろ」

 彼は、壁を構成する石のうちの一つを指さした。ちょうど胸の辺りにある真四角の石だ。形が綺麗ではあるが、他の石との違いは特にないように見える。

「入り口を開ける時に押した石と、形が同じだろ?」

 れたようにアシュレイが言った。確かに、飛び出していないことを除けば全く同じに見える。ただ、だから何なのか、ラークには分からなかった。

「多分これはな……」

 彼は、指先でその石をさらに押し込んだ。

 その途端、行き止まりの壁を構成していた石全てが、前方にすっ飛んで行った。ぼんやりと壁を眺めていたミーファが、びくりと体を震わせて驚く。

 壁の先にあった広い空間が、通路と繋がった。放射状に広がった石は、がらがらと音を立てて床に落ちる。

「……派手な仕掛けだな」

 顔には出さずとも、内心は結構驚いていたラークが、ぽつりと言った。

 壁の先は、大きな廊下になっていた。幅も高さも、さっきまでの数倍はある。廊下は左右に伸びていて、ずっと先の方で同じ方向に、今いる場所から見て奥に向かって折れ曲がっていた。曲がり角までの距離も、ちょうど同じぐらいだ。

「どっちへ行くんだ?」

 ラークが聞くと、アシュレイは自信ありげに言った。

「右だな」

「……根拠は?」

「俺はいつも右へ行くと決めている」

「そんなんでいいのかよ」

「いいんだよ。重要なのは、常に同じ方向に曲がることだ。それが迷わないコツさ」

 床や壁の作りは、先ほどまでと全く同じだった。この広さで何の装飾もないと、ひどく殺風景に感じる。響く足跡も寒々しい。

 廊下の片側、さっき歩いてきた通路と同じ側には、様々な大きさの部屋が並んでいた。アーチ状の出入口には、どこも扉はついていない。出会うたびに覗き込んでみたが、全て空だった。

「何も無いな」

 何個目かの部屋を覗いたあと、ラークが倦怠けんたいと失望のちょうど中間あたりの口調で言った。友人の肩を叩きながら、アシュレイがたしなめるように言う。

「そう焦るなって。遺跡探索は根気が重要だぜ」

「分かってるよ」

 憮然ぶぜんとしながら手を払いのける。何も無いなどと文句を付けるつもりは無かったのに、つい言葉が漏れてしまった。自分で考えているより、お宝に期待してしまっているのかもしれない。

「中は調べないんですか?」

 ミーファが不思議そうに聞いた。彼女の言う通り、先ほどから部屋の中には一歩も足を踏み入れていない。アシュレイがにこりと笑いながら言った。

「部屋の出入り口なんてのは、絶好のトラップ設置場所だからね。探索はなるべく後回しにするのが定石セオリーなんだよ」

「なるほど!」

 こくこくと頷くミーファ。アシュレイはいかにも嬉しそうに、その後も歩きながら長々と蘊蓄うんちくを披露していた。

 侵入者を惑わすため、遺跡によっては中が迷路になっている場合もあるが、ここはそうではないようだ。何に使われていた施設なのかは分からないが、実用重視の配置のように感じられた。

 角を左に曲がると、さっきよりもさらにずっと先の方で、廊下がまた左に曲がっているのがかすかに見えた。もしかすると、このまま進むとぐるりと一周して、元の場所に戻ってくるのかもしれない。部屋は、相変わらず右側だけに並んでいる。

 入り口から今の曲がり角までと同じぐらいの距離をまた進んだところで、先頭のアシュレイがぴたりと立ち止まった。ラークが鋭く問いかける。

「どうした」

「あれを見ろ」

 彼が指さす先に目を向ける。壁にはまった石の一つが、ゆっくりと浮き出てきていた。大きさは人の頭ぐらいで、ほぼ、正確な立方体に見えた。

 石は壁から抜け出ると、そのままするすると空中を移動していく。廊下の中央より少し左寄り、頭の高さあたりでぴたりと止まった。

「なんだ……?」

「わからん。気をつけろよ」

 武器を構えるアシュレイに、他の冒険者たちもならう。ラークはアシュレイの隣に並んだ。

(突っ込んでくるのか?)

 石をじっと見つめ、動きがないか警戒した。もしあれに勢いよくぶつかられたら、怪我では済まないかもしれない。後ろに女性陣二人がいることを考えると、避けるよりも、上手く盾で受け流すべきだろう。

 だが予想に反して、石はぴくりとも動かなかった。息の詰まるような時間が過ぎる。こちらから動くべきでは、とラークが言おうとしたその時、

「なっ」

 目の前の光景に、思わず声をあげる。床、壁、天井のあらゆるところから、一斉に石が飛び出してきたのだ。それが一か所に集まり、繋がり合っていく。

「ゴーレムか!」

 アシュレイが叫んだ。石の連なりは、不格好ながらも人型を成している。自分たちよりも二回りほど大きい。こちらに向かって、ゆっくりと歩いてきた。

 一瞬迷ったあと、ラークはその場に留まることに決めた。アシュレイが右へと走っていく。後ろの二人は動いていない。両足を開いて地面を踏みしめ、盾を構える。

 ゴーレムの腕が、ぶうんと振り回された。力を逃がすように、盾を斜めにして受ける。

「ぐっ」

 大きな金属音が響いた。なんとか軌道を逸らしたが、予想以上の衝撃だ。上手く受け流さないと、盾が破壊されるか、もしくは盾ごと殴られかねない。

 ゴーレムが腕を引く。次が来るか、とラークは身構えたが、突然相手はほんの少し体を傾け、動きを止めた。人で言う太腿のあたりにある石に、太く短い金属の矢が、深々と突き立っていた。アシュレイが、クロスボウで攻撃したのだ。

「脚を狙え! まずは転ばせるんだ!」

 その言葉か、もしくは先ほどの攻撃に反応したのか、ゴーレムはアシュレイの方に体を向けた。誰に攻撃すべきか決めかねているようだ。

「ラークさん、避けて!」

 ミーファの声が聞こえると同時に、ラークは左に跳んだ。直後、拳大の氷の塊が、ゴーレムに向かって飛んでいくのが見えた。サラの魔法だ。

 純粋な質量によるその攻撃は、ゴーレム相手に十分な効果を発揮した。魔力によって強化された氷塊が、矢の刺さった石に狙いたがわず命中し、粉砕する。ゴーレムの体が、ぐらりと大きく傾いた。

「よしっ……?」

 アシュレイの喜びの言葉が、途中で勢いを失くした。ゴーレムは、明らかに重力を無視した体勢、地面に対して斜めに傾いたままで停止している。

 上から糸で引っ張られたかのように、ゴーレムの体が勢いよく元に戻った。壁からまた石が一つ飛んでくると、破壊された部分にすっぽりと収まる。

 明らかに、敵はサラを次の目標に据えたようだった。目の前にいるラークを無視して、ずしん、ずしんと歩みを進める。唇を真一文字に結んだミーファが、かばうようにサラの前に出た。

 不意に、ゴーレムが右腕を振り上げた。ラークは咄嗟に後ろに跳ぶ。敵の腕の長さから考えて、攻撃が届くのは自分だけだ。いや、そのはずだった。

「ちょ、ちょっと!?」

 サラに腕を思い切り引っ張られて、ミーファは右側に倒れ込んだ。その直後、一瞬前まで彼女がいた空間に、ゴーレムの腕が振り下ろされた。

「……っ!」

 目をつむり、びくりと体を縮こまらせるミーファの真横に、石の塊が叩きつけられる。ゴーレムの腕は、石の繋がり方が変化して最大限に伸ばされていた。

「くそっ!」

 ラークは注意を引くために、ゴーレムの胴体に斬りつけた。わずかに石が削れたが、敵は全く気にした様子もなく、ゆっくりと腕を縮めていく。

「大丈夫か!?」

「は、はい! 大丈夫ですっ!」

「もっと距離を取れ!」

 ミーファは慌てて立ち上がると、サラと共に後ろに下がる。その頃には、ゴーレムの腕はすっかり元に戻っていた。どこまでが攻撃範囲なのか、もう見ただけでは分からない。ラークは歯噛みする。

「アシュレイ、他に弱点は無いのか?」

「コアを壊せば倒せるが、どこにあるか分からねえ。普通は動けなくしてから探すんだが……」

 ラークの問いかけに、アシュレイはクロスボウに矢を装填しながら答えた。ゴーレムがまた一歩近づいてきて、ミーファとサラは後ずさる。

「コアってなんだ? 他の部分と見分けは付かないのか?」

「宝石の場合もあれば、単なる体の一部の場合もある。体の一部なら、見ただけじゃ分かんねえ」

 それを聞いて、ラークはゴーレムの体を観察した。石の形はばらばらで、全て特徴的な形をしているとも言える。が、どこにも特徴がない。もしあの中の一つがコアだったとしても、特定は極めて難しいだろう。

 一旦逃げるべきかとも考えたが、決断できずにいた。相手が他にどんな攻撃を隠し持っているか分からないのだ。背後から石を飛ばされなどしたら、ひとたまりも無い。アシュレイも、苦虫を噛み潰したような顔で敵を睨み付けていた。

 まずは考える時間を稼ぐ必要がある。せめて足止めをしようと、ラークは剣を大きく振り上げた。無意味かもしれないと思いつつも、とにかく相手の右腕あたりに斬りつけようとした。

 すると意外なことに、ゴーレムはぐるりと大きく体を回し、で剣を防いだ。ラークは少し驚きながら、叩きつけた勢いを利用して剣を引く。ゴーレムは、そのままの体勢でしばし固まっていた。

(今の動きはなんだ?)

 まるで、右腕を庇ったかのようだ。もしかすると、腕のどこかにコアがあるのだろうか。

「おい、右腕を狙うぞ!」

 アシュレイも同じことを考えたようだ。大きく迂回するようにして、敵の背後に回った。ちょうどゴーレムの位置を起点に、仲間たちは三方に分かれている。

 ゴーレムは、再び誰を攻撃すべきか迷っているようだった。目に相当する感覚器官があるのかどうかは分からないが、顔の位置にある石が、先ほどからゆっくりと回転している。

 クロスボウから、二本目の矢が放たれた。さすがに反応できなかったのか、それとも反応する必要性を感じなかったのか、矢は右手の先にある石に刺さった。効いているのかどうかは全く分からない。

 アシュレイは、早速次の矢を準備している。どうやら、総当たりで攻撃するつもりらしい。十個以上はある右腕の石を順番に見ながら、ラークは自分もそれに加わるべきか迷った。

(……ん?)

 石のうちの一つに妙に気を引かれ、慌てて視線を戻す。肩から数えて三番目にある、立方体の石だ。形が綺麗だというのもあるが、それだけではない。さっきも同じ石を見た記憶がある。

(そうか、最初に出てきたやつだ)

 しばらく一個だけ浮いていた、立方体の石。位置も右腕のあの辺りだったはずだし、間違いないだろう。ゴーレムを構成している石のうちで、唯一特徴的なものと言えば、あれしかない。

「アシュレイ! 肩の下にある立方体の石を狙ってくれ!」

「ああん? ……よく分からんが、分かった。任せろ!」

 頼もしい言葉と共に、クロスボウの狙いが定められる。ゴーレムの頭の石が、何かに気づいたかのようにぴたりと止まった。

「させるか!」

 ラークは立方体に向けて、剣を突き出した。左腕の動きだけで容易に防がれるが、気にせず次の攻撃を繰り出す。

 その瞬間、ばんっ、という大きな音と共に、立方体が粉々に砕け散った。クロスボウの攻撃で、あっさりと破壊されたのだ。他の石と見た目は同じでも、材質は違ったようだ。

 ゴーレムを構成する石が、一斉に落下した。ある程度予想していたラークは、余裕を持って飛びのく。地面には、石の山ができていた。

 やがて石は順番に浮き上がると、元の壁にゆっくりと戻っていった。ラークは深く息を吐き、構えを解いた。気が抜けたように座り込むミーファの姿が、視界の端に映る。

 近付いてきたアシュレイが、あごに手をやりながら楽しそうに笑っていた。

「なるほどねえ、一番初めに出てきたのがコアだったのか」

「そうらしい」

「次からはよく見ておこう」

 彼はコアの出てきた壁に近づくと、残された穴をしげしげと眺めた。

「んー、すぐ近くにもう一体いる可能性は低いか。この辺りで一度休もう」

「分かった。二人も行くぞ」

 ラークが仲間たちの方に目をやると、サラがミーファの手を引っ張って、立たせようとしているところだった。珍しい構図だなと思いながら、アシュレイと一緒に休憩場所を探し始めた。


 休憩のあと、四人は廊下を奥へと進んだ。先の方に見える左への曲がり角は思ったよりも遠く、なかなか近付いてこない。さらに、ゴーレムにも何度か出くわした。どうも奥に行くに従って、出会う頻度が上がっていっているようだ。

 弱点が分かっていても、ゴーレムは厄介な敵だった。特に、あの伸縮する腕の攻撃が脅威だ。時に防ぎ、時にかわしながら、なんとか倒していった。

 コアの石も、さっきのように他と見分けやすい形ばかりではなかった。ほとんど区別が付かず、場所だけを頼りに何度かトライする羽目になったこともあった。

「思ったんですけど」

 何回目かの戦闘を終え、ようやく曲がり角を超えたところで、ミーファが言った。

「これって、くっつく前にコアを先に倒しちゃだめなんでしょうか?」

「……いいところに気が付いたね」

 半笑いになったアシュレイが、びしっとミーファを指さす。ラークは目を瞑って頭を抱えた。二人とも、そのことに全く思い至らなかったのだ。

 だが実際やってみると、上手くはいかなかった。コアだけの時に近づこうとすると、すいすいと逃げられてしまうのだ。クロスボウの矢すら、ものすごい反応速度と移動速度で回避される。結局、組み上がるのを待ってから倒すしかなかった。

 戻っていく石を見送り、また歩き出す。両手を後ろに回し、ぼんやりと虚空を眺めていたミーファが、ぽつりと言った。

「どうして最初からくっついてから来ないんでしょう?」

「……確かにな」

 ラークも首を捻った。目の前でくっつくから、コアの位置が分かるのだ。離れた場所でやられたら、難易度は跳ね上がるだろう。

「なるほど、そうか」

 アシュレイの顔に、漏れ出るような笑みが浮かんだ。

「こいつは警備用じゃなくて、試練なのかもしれないな」

「どういうことだ?」

「つまりだな」

 二本の指を眼前に立て、まるで講義をするかのようにいかめしい口調で語り出した。

トラップを含めた遺跡の障害は、目的によって二つの種類に分けられる。侵入者を排除するためのものか、もしくはを持つ物を選別するためのものか」

「なんだ、資格って」

 ラークの頭に浮かんだのは、冒険者や商人であることを証明する認定書だ。ギルドが発行するもので、これが無いとまともな活動はできない。

「遺跡でよくある言い回しなのさ。この試練を超えた者に、秘宝を手に入れる資格を与えよう、ってね。まあようするに、お宝を後世の誰かに残しておきたいが、誰でもいいってわけじゃない、ってことだな。ある程度なやつに渡したいわけだ」

「有効活用して欲しいということか」

「まあ、そんなところだろう。昔のやつが何を思ってたかはともかく、警備か試練かっていうのは俺ら冒険者にとってかなり重要なんだ。何故だと思う?」

「……さあ」

 持って回った語り口若干じゃっかんうんざりしながら、ラークは言った。そんな気持ちを知ってか知らずか、アシュレイは言葉を続ける。

「考えてもみろよ。試練があるってことは、その先に必ずお宝もあるってことだ」

「じゃあ、アシュレイさんが言ってた魔道具がありそうなんですね!」

「そう、期待してていいよ」

 嬉しそうに言うミーファに、アシュレイは笑顔を向ける。

 ラークがそれを横目で見ていると、不意に、反対側の袖の端を引っ張られた。視線を向けると、無表情でこちらを見上げる、サラの顔があった。

 彼女は何も言わずに、左前方を指さした。ラークは、はっとして口を開けた。の壁に、今まで散々さんざん見てきたアーチ状の出入口がある。ただし、一つだけ異質な点があった。

「アシュレイ、扉があるぞ」

「なにっ」

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