2 通夜の日
昨日の通夜のこと。祖父の遺体の枕辺に交代で灯明を点すため、両親と叔父、叔母たちが泊り込み、狭い祖父の家は定員オーバーとなった。
あぶれた兄夫婦といとこ連中が俺の家に泊まることになったが、ただでさえ狭い2LDKのマンションで大人二人に子ども四人、どうやって部屋割りしたもんだかと俺は真剣に悩んだ。小さいうちは皆で雑魚寝もできたが、二人の従妹はもう中学生だしさすがにそれは嫌だろう。というか俺も嫌だし。といって兄夫婦と同室はもっとまずい。仕方ない、俺の部屋は従妹たちに譲って、俺は従弟のタカシを連れて寒いリビングでガマンするか、などとウダウダ考えていたら、パン! と手を打って義姉が明快に言った。
「じゃオトコ組三人はマーちゃんの部屋、オンナ組三人はこっちの六畳ね。各自寝具は自分で確保すること。はいっ、用意ドン!」
用意ドンは余計だが、このひと言には救われた。中学で体育教師をしているとは聞いていたけど、さすが人を仕切るのが上手い。二人の従妹が義姉と一緒に修学旅行みたいにはしゃぎながら六畳の和室に消えた頃には、安心と共に疲れがどっと出てきた。
「悪りぃね、新婚さんをばらけさせちゃって」
「おう、迷惑だ。むっさい弟やでかい小学生と一緒なんて勘弁して欲しいぜ」
兄は笑いながらベッド脇の布団に寝転び、懐かしそうに部屋の天井を見上げた。
「この部屋、こんなに広かったっけか」
「二段ベッドの上を取っ払ったからだろ。天井とか壁の可視率は確かに上がったよな」
俺も改めて天井を見上げた。
数年前までは兄弟でこの狭い部屋を一緒に使っていた。兄が進学の為県外に出てからは俺が散らかし放題に使っているから、荷物の隙間に寝るような格好になってしまったが、こんな風に兄弟でどうでもいい話をしていると、ふとガキの頃に戻ったような気がした。
「なあ。俺、じいちゃんの暗室に何歳まで入ってたっけ」
「暗室か。懐かしいな、確か俺が高校を卒業する頃までは焼いてたから……」
「じゃ、俺は小五か。タカシと同じくらいだったのかな、最後に手伝ったのは」
ぐぇ、とうめいて兄が腹を押さえた。いつの間にか寝入ったタカシに蹴られたらしい。
「でかいなこいつの足。これで小五かよ。靴何センチ履いてるんだ?」
そうだ。今のタカシと同じ、小学五年生の秋。確か祖母が亡くなった時、あれが暗室に入った最後だった。寝返りを打った俺の脳裏に、祖父との思い出が断片的に蘇る。
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