ドラゴンキラーと自称する男
やる気のあるエビ
ドラゴンキラーと自称する男と赤髪の少女
「マスター、向こうの荒くれ達が話しているホラ吹き剣士の話ってどんな話なんです?」
「ここじゃ有名な話だけどね、そういや見ない顔だね。だったら話しますよ、とても面白い話ですからね」
竜と言う生き物は金になる。
剣士コボルはよく酒場でそう話していることが多い。この世界で竜を殺せる剣士が入るとすればそれは勲章持ちの上級騎士ぐらいだろう。ただそんな彼はたしかに金を持っており、よく酒場の荒くれに奢っては楽しそうに話をしていた。
彼が話したホラの中で最も面白かったのはサバマ村の話だ。数あるドラゴン討伐伝説の中で、最も質の高い嘘だ。この話はこの辺境の酒場の常連客で知らないものはいないぐらいには有名だ。
大陸の中でも最も山奥に位置するサバマ村。この村にはドラゴンに関する逸話が存在しており、何年か一度に災厄が訪れ、村が滅亡の危機に陥るという伝説がある。昔からの伝承で「幼い穢れない少女」を生贄にすることで災厄を防ぐことが出来ると言われている。もし生贄を行わなかった場合、山奥のドラゴンが村へ現れ、全てを焼き尽くす、そう伝承には綴られていた。
生贄にされた少女の行方は誰もわからず、時代が進むにつれてこの伝承に対し疑問を持つものも現れた。数年前、それを確かめるべく村で腕の立つ戦士達がドラゴンがいるとされる洞窟へと向かったが、誰一人帰ってくることがなかった。そのため、伝承そのものは未だに信じられている。そして「サクラ」は生贄と選ばれた。
「すまない・・・」と彼女の父親が言う。彼女は今年で10歳となり、この伝承についてはある程度理解が出来る年頃にはなっていた。体を震わせながらも「大丈夫、私、行ってくるね」と父親に呟き、生贄の装束を身に纏って山へと向かう。
「ビアルさん、娘をよろしくお願いします」と父親が身形の良い騎士にお願いをする。「ええ、まかせてください」と、上品な声で返事をする。まわりから彼を褒める声が聞こえる。彼は上級騎士には及ばないが数少ない「剣」の勲章持ちで、その戦う姿から人々から美しき剣と呼ばれている。そんな彼は村長の依頼でサクラの護衛として付いていくことになっている。
山へ向かう途中、魔物が襲い掛かってくるも彼にとってそれは赤子も同然で、当たり前のように蹴散らしている。彼がこの山に生贄の護衛として向かうのは実に5回目となる。
「お嬢さん、大丈夫ですか?」と問いかけると、「大丈夫」と彼女は心細そうな声で返事をする。「おやおや、元気がないですね。無理もないですが、まだ道のりは長いのです。ほら、これでも食べて元気を出しなさい」とお菓子を渡した。彼女は少し笑顔を見せてそのお菓子を食べる。ビアルはその姿を微笑ましく眺めていた。「さぁ、出発しましょう」と彼女の手を繋ぎ、山へと向かう。
洞窟は山をある程度登った先にある森を抜けた所にあり、ビアルとサクラが森へたどり着いたときに1人の男がそこにはいた。
「むっ、君は何者だ。ここは神聖なる地、無断で入って良い所ではないですよ」と剣を抜き、警告する。サクラはそっとビアルの後ろへと隠れた。男はあくびをしながら、「ああ、すまない。無断で入ったつもりはなかったんだがちょっとな。用事が済んだら帰るから」と厄介払いしようとする。「私達はこの奥に用事があるので邪魔だけはしないでもらいたい」と警告を続けたが、面倒くさそうな返事を彼はした。「では行きましょうかお嬢さん」とサクラの手を持って森の奥へと進んでいく。男は「なんでこう獣ってのは牙を隠さないんだろうね」と呟きながら彼自身の森の中へと進んでいった。
洞窟へ到着する手前でビアルは足を止める。あたりを見渡し、サクラを見る。「お嬢さん、私がついていけるのはここまでです。この先は1人で向かってください。お役目、大変でしょうが頑張ってくださいね」と気休めを言い、小さく頷いて彼女は1人洞窟へと向かっていく。彼はその光景を不気味な笑みで眺めながら森の中へと消えていく。サクラは後ろを振り返ると、そこにはもうビアルがいない。だが、何かが物陰から出てくる。サクラは怯えながら後ずさりをする。「今回も可愛いお嬢さんじゃないの、良い値がつきそうだぜ」と盗賊らしき男が呟く。さらに1人、もう1人と現れ合計4人の盗賊がサクラを取り囲む。「助けて!!」と叫ぶが、ビアルが現れる様子はない。腰砕け、尻餅を付いて彼女は震える。「さぁて、売りさばく前にみんなで楽しもうぜ!」と彼女を掴もうとする。
「おいおい、ロリコンはさすがに趣味が悪いぜ盗賊のみなさんがた」と背後から。盗賊達は後ろを振り向くと、そこには先ほど森の入り口にいた男がいる。「盗賊狩りをしろという仕事を受けたつもりはねーが、弱いものいじめは感心しねーな」と剣を抜く。「なんだテメエ!ぶっ殺すぞ!」と威嚇するが、涼しい顔をしながら口笛を鳴らす。「バカにしてんのか!」と叫び、盗賊達は曲刀を取り出した。「ヒュー、フォールチョンとはまた珍しい武器使ってんのね」と言うと、「かかれ!」と言う合図から一成に男へと攻撃を仕掛けた。呆然とその光景を眺めていたサクラは一瞬で盗賊達が倒される姿が瞳に飛び込んできた。「ふう、雑魚相手が何人束になろうが意味ねーよって。さて、お嬢ちゃん大丈夫かい?」と男は手を伸ばす。「…おじさんだあれ?」と震えた声で聞くと、「おいおい、おじさんって見た目かよ俺。まぁ正義の味方だよたぶんね」と彼女の手を取った。
サクラは恐怖でまだ足が震えて歩くことが出来なかった。正義の味方と名乗る男と2人で洞窟の前で座っている。「なんで助けてくれたの?」と彼に聞くと、「なんでかね、弱いものいじめは好かんのでな。それより一緒にいた騎士はどうした?なんでこんなところで1人でいるんだ?」と聞き返した。
「私の村、サバマ村では何年かに一度来るサイアクを防ぐために村の女の子が生贄にならないといけないという決まり事があるの。私は今年それに選ばれたの」と、男は唸りながら「まだそんな迷信信じてるとこあんのかよ、バカげてるねえ」と返すと、「でも数年前私のお兄ちゃんが洞窟へとドラゴンの真偽を確かめに言ったら帰ってこなかったの」と言うと、「ドラゴン、ねえ・・・」と神妙な顔で呟く。
男はハッとなり剣を抜き、後ろを振り向いた。
「おや、お嬢さん。まだ洞窟へと向かっていなかったのですか」と剣を構えているビアルがそこにはいた。
「おやおやおや、悪党の親玉が何の用だい」と男が言うとサクラは驚いた顔で彼を見る。
「何のことですかな、言いがかりはやめてほしいですな」と言うが、「悪いな、嘘は嘘だと見抜くことができるんだ。根拠、いるかい?」と彼がポケットから何かを取り出して彼に見せる。
ビアルは驚いた表情で、「き、貴様・・・、そんなバカな!?」と少し後ろへと後ずさりをした。「面倒なことは好きじゃないんだが、知ってしまった以上は見逃せないな。ビアル・シーベック、覚悟はいいな?」と男は剣を抜く。
「ほざけ小僧!貴様みたいな若造がそれを持っているなど信じられるものか!」、ビアルは勢いよく男へと向かっていく。かなり素早い斬撃で攻撃を繰り出すが、男は軽くそれをいなす。上段、上段、水平、袈裟とコンビネーションを交えて繰り出すもどれもかわされる。その光景にサクラはまたも呆然としている。
「何故だ、何故攻撃が当たらない!」焦りを隠せないビアルはそう言いながらも攻撃を繰り出していく。「さすがは美しき剣と呼ばれるだけのことはある、焦りがあってもその剣術に粗が出ない。本物の勲章持ちはやっぱ違うねえ。でも、人身売買をやっていると言うの感心しないと思うんだよねえ」と丁寧に攻撃を裁いていく。
「だまれ!貴様に何がわかる!好きでこうなったわけではない!」と強い論調で返すと、「勲章持ちがここまで落ちぶれるのはさすがに嫌なもんだね、正直あんた程の人が闇入りしたのは正直失望したよ」と返した。
「黙れ!黙れ!黙れ!」とさらに激しく攻撃を繰り出す。何かがはじけるような音がした瞬間、男の肩から血が噴出す。
「うおっ!?」と男は驚いた様子で後ろへと下がる。
「我が剣は風の流派の派生、極意はそう簡単に防げるものではない」と言いながらさらに攻撃を繰り出していく。
さすがに男も防げないのか、次々と斬り付けられて行く。サクラはその光景を見て怯え始めて、彼は横目をし、「安心しろ、すぐ終わらせてやる」と彼女に。
「防戦一方ではないか!ここらで引導を渡してくれる!」と止めを刺しに、だが瞬きをする瞬間に何故かビアルが地面へと倒れている。
「悪いな、ドラゴンに比べればそよ風だぜ」と男は剣を鞘へと収める。
ビアルはピクピクとしながら動かない。「おじさん・・・」とサクラは安心したように呟くが「いや、俺はお兄さんだ」と彼は返した。
男はビアルをロープに縛り、木に括りつけた。
「よし、この付近は魔物はやってこないだろうししばらくはここで放置しても大丈夫だろう。村へ戻って駐屯騎士あたり呼んでもらうかねえ」と呟くと、「なんで魔物はこのへんにこないの?」とサクラは聞き返した。
「簡単な話さ、この洞窟にドラゴンは本当にいるからさ。」
男は村から何人かの男手と駐屯騎士を連れて森へと戻ってきた。サクラは一緒に戻すにはこの時間からだと無理だと判断し、魔よけの魔法陣を敷いてから村から人手をつれてきていた。彼女の父親も当然、そこにはいた。「コボルさん、またやらかしたのかと思いましたよ」と駐屯騎士が言うと、「本当はワイバーン討伐に来ただけなんだぞ、そしたら最近内偵が入ってたビアルがいたからついでに片付けただけだ」と返した。サクラは「おじさん、コボルって言うんだ」と聞くと、「まぁな」とちょっと照れくさそうに返した。「コボルさん、本当にありがとうございます。まさか生贄の伝説が嘘で、ひどいことをビアルがしていたとは…」と父親が言う。「ん?ドラゴンの生贄の話自体は本当だぜ?」とコボルが軽口を言うと、あたりは騒然とした。「は・・・?」とサクラの父親と思わず。「少なくともそこの騎士は1度ドラゴンと戦っているはずだ。じゃなきゃこの洞窟の付近が魔物が来ない安全地帯なんて知らないからな。俺が戦った盗賊はどう考えてもこの付近の夜の魔物を倒せる実力はねえ、だからこそ早い時間にここで待機させてたんだ。そこの荷物を引き下げたらさっさと村へ戻りな。今回生贄となる予定だったエサは今晩ねーんだ。つまり、ドラゴンは出てくる」と、すると駐屯騎士と村の男達はざわめきながら走り出した。「待って、コボルは!」とサクラは叫ぶと、「安心しろ、俺はドラゴンキラーだ。くだらない伝承と共にぶったぎってやるよ!」と。サクラ達が森を後にして走っていく途中でその奥から雄たけびのようなものと黒い煙が上がっていくのが見えた。
翌日、駐屯騎士と男達は洞窟へと向かった。少なくとも村にドラゴンがやってきた、と言うことがなかったので確かめずには入られなかった。森の入り口にはいくつか焼き焦げた後、砕けた岩が散乱している光景があった。辺りには血の臭いも広がっており、血は洞窟まで続いていた。駐屯騎士を先頭に洞窟へ進むといくつかの人骨、壊れた武具などがあり、その奥には何かが焼かれたような後と大量の血痕があった。「むごいな・・・しかしドラゴンもコボルさんもいない。一体どうなったのか・・・」と呟いた。サクラの父親は焦げた後に落ちている剣の鞘を拾い上げ、「彼はきっと、立派に戦ってくれたと思います。臆病な私達と違って・・・」と少し涙目に語った。この後、コボルがどうなったかを村の人々が知ることはなかったが、一ヵ月後にこの村にいたとされるドラゴンが討伐された旨が大陸全体へと広まった。
「とまぁ、簡単に言うと奴の武勇伝の中で最も嘘くさいのはその話だな。そのおかげで金持ちになったって騒いでたからなぁ!」とマスターが笑いながら言い、まわりの客達も大笑いをしていた。「たしかに、嘘がたくさんありますね。」と話を聞いていた赤髪の女は笑いながら言った。
「だろう?」と隣に座っていた荒くれが言うと、「ほんと、大嘘つきで困ったものね」と。まわりの人たちは少し疑問そうにした。「姉ちゃん、なんか知っているような口をしているな」とマスターが言うと、「その話、真実にするなら金のためじゃなくて1人の女の子のために戦った、ってとこね」と言うとみんなポカンとした。「マスター、ミルクおいしかったは、お代」とお金を出すと、少し弱い返事をする。「ところでマスター、コボルはいつその話をしていたの?」と質問すると、「い、一年前ぐらいかな」と、女は「ありがとう」と返事をして酒場を出た。
「コボル、絶対見つけるわよ!」
ドラゴンキラーと自称する男 やる気のあるエビ @yarukiebi
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