キチガイ達の出発。
あれから数日が経ち、各々自由すぎる個人訓練が終わり。もとい教師役達から匙を投げられた。
しかし各自がそれぞれ持っている祝福や元から高い能力によりそこらの兵士では歯が立たないレベルまでは強くなったようだ。
殆どが遊び半分でやったことなのだろうが、それでもその戦力を腐らさておくほどこの世界の人類は余裕がない。
そういう背景からか、現在自分達はいくつかのグループに分けられて滞在している王都近隣の魔物を狩るべく王城の正門前に集合していた。
「おまえらー、おやつは持ったかー?」
担任の掛け声に遠足を思わせる様に整列したクラスメイト達が返事をする。
各人が背負っているカバンは持ち運びやすい様に担任が作り出した現代のボディバッグ。
意匠はそれぞれの要望を可能な限り叶えている為、形はかなり違うが内容量に大差はない。
「初めての、それも見知らぬ土地での遠足だ。各自迷子にならんようにしっかり道を記憶するように」
注意事項に再び返事をする各々。
いや、デブに関しては既におやつに手をつけている。
返事をしろとは言わないが少しは耳を傾けて欲しいと思う。
まぁなんだかんだで蹴ること以外では面倒見が良いタイプのダルが近くで蹴り飛ばそうとしているのだから迷子になることはないか。
「新しい
「私達。行ってきます」
興奮した様子で鼻血を垂らしたビンコを連れて801は、予定されたルートを震える兵士に案内されて出発していった。
先日の
僕達に向けられる視線に怯えや恐怖といった感情が多く混ざっている気がする。
が、主犯はBLや委員長といった女性陣であって僕に向けられている意味が解らない。
巻き添えであらぬ誤解を招いている現状に頭が痛くなってくるが仕方がない。
止められなかった僕にも責任がある。
本来なら止める必要も義理もないのだが、このイカれた集団のリーダーとして前に出てしまったのだ。
それ相応の責任は取るべきだろう。
まぁ困ったら担任に押し付けるつもりだが。
「じゃ、俺達も行ってくるわ」
「おい、BL。なんでお前までついてくるんだよ!」
肩に剣を担ぎ簡単な小手を着けたチェリーボーイの二人組は、腐女子組とは別のルートで出発しようとした所で明らかに男二人に向ける視線ではない物を含めたBLが張り付くように続いていった。
「ほら、二人で組んず解れつするかもしれないからね」
「絶対にない!」
「俺達は女の子がいいんだ!」
教室にいたときから変わらない恒例となっているやり取りをしながら旅立っていった。
出先で何が待ち構えているのかは解りきっているので心配はしていないが、別の意味で彼らが変わってしまわないことを祈ろう。
チェリーボーイに幸あれ。
「んぐっ。では我々も出るとしよう」
「たくっ。なんでこいつに蹴りが通じないんだ」
ある程度おやつを食べたからなのか、目的の為に行動を起こすブタと立ち上がったことで蹴ることを先送りにしたダルが出発の準備に取り掛かる。
まぁ先導する兵士に付いて行くだけなのだが。
「見てよこの筋肉。前よりも逞しいとおもわないかい!?」
「とりあえずわかったから、
ブタとダルの間に何か決まり事でもあるのか、割とおとなしく旅立っていく二人後ろ姿を見送ると他のクラスメイト達と同じく色々な意味で頭が痛くなる二人組が戸惑う兵士達に促され、出発する準備をしていた。
「あ、あの。本当に我々も乗ってもいいのですか?」
「構わないさ! むしろ乗ってくれた方が更なる筋肉を得ることができるんだ。お願いするよ」
去っていったクラスメイトや自分達とは違い馬車という物を用意されているハゲとマッチョの二人組。
ただし馬車を引くはずの馬はいない。
引くのはあろうことかマッチョだ。
兵士達の困惑を他所に人が引けるように改造された馬車の先頭に立つマッチョの言葉に従い、ハゲと兵士が乗り込んでいく。
「よしマッチョ。目的地まで大体20キロだとよ」
「ふぅぅんんんん!!」
そして準備を終えたハゲの言葉と共に腹の底から響くような唸り声を出しながら馬車を引き出すマッチョ。
正直に言うとふざけているとしか思えない。
いや、マッチョに関しては本気なのだろう。
わざわざ担任にお願いしてまで馬車を作ってもらったのだ。
だが、いくら自分達がこの世界では有数の能力を持っていようとも流石に単独で人が乗り込んだ馬車を引ける……。
「よーし。加速だマッチョ」
「ふんぬぅぅぅぅ!!」
引いたよこの筋肉。
共に乗り込んだ案内役の兵士達が感嘆の声を受けながら勢いをつけて馬車は加速していく。
半ばあきらめた視線でそれを見送り、遂に自分達の元にも案内役に兵士がやってきた。
「お待たせしました。今回は短い間になるとは思いますがよろしくおねがいします」
「はい。よろしくおねがいします」
無難に挨拶を交わし、促されるままに担任と委員長を含めた三人は目的地へと出発する。
ちなみに担任は僕に雑用関係は任せる気満々なようで軽い挨拶だけでビールを飲んでいる。
委員長は兵士に視線すら合わせずにどこか遠いところを見ている。
ナニを見ているのかは聞かないのが花だろう。
◆
「委員長。それと先生。とりあえずそろそろ真面目になってくださいよ」
約半日歩き続け、目的地に近づいたと兵士からの報告を聞き後ろの二人へと話しかける。
見ないようにしてはいたが、委員長は何かを押しつつ首を曲げて別の場所を視ながらついてくるという何とも言葉に困る格好で付いてきており、担任関してはもっと酷い。
委員長が押しているローラー付きの担架で寝ている。
意味がわからない。
委員長も何か言ってもいいと思う。
あぁ、ダメだ。エロければなんでも良いというムッツリは自分が邪魔されなければ大体の意見は通してしまう。
本来なら半日近く歩いているのだから疲労があっても然るべきなのだが、自分達の能力値はこの世界に来てから劇的に伸びている。
人が寝ている担架を押しながら舗装されていない道を半日歩いていようとも疲れすら感じないほどに。
いや、これは恐らく委員長のエロ魂が疲れを感じさせていないだけなのだろう。
能力値が伸びた自分は疲れを自覚しているのだ。
対して役に立たないと判断した能力値だが、一応全員分記憶している。
直接戦闘系はない自分と同じく似た能力値を示していた委員長が自分よりタフだとは思えない。
「待って。今いいトコなの」
本当にどこ視てるんだ。
溜息を吐きながら酒臭い担任の担架をひっくり返して叩き起こす。
「うわっ! 何するんだポップ」
うるさい。
命の危険が少ない下級魔物との戦闘とはいえ、異世界での初めての戦いだぞ。
その直前で寝ているとかどういう神経しているんだ。
というか能力値的にお前が先頭を切らなきゃいけないだろう。
「別にそこまで危険なものでもないだろう。只の練習みたいなものなんだし」
いや、だからだろ。
自分達の能力がどういう作用を与えるのかを理解して置かなければいざという時致命的な隙を晒すことになるぞ。
それにいくら能力値で勝っていようとも急所に直撃したら死ぬ可能性だってあると説明は受けただろう。
「そうね。ポップの言う通り余りステタースは当てにしちゃいけないかしら」
いいトコが終わったのだろう。
いつの間にか眼鏡越しの視線が此方に向いていた。
委員長の言う通り、僕が能力値をあまり当てにならないと言ったのは理由がある。
ある程度魔法や体術の基礎などを覚えた後、色々と聞き込みをした結果。
力と魔力以外は曖昧な物だと判明したのだ。
もちろん高いに事したことはないのだが、体力が高いからといって首を切られれば簡単に死んでしまうのだ。
体力はあくまで持久力といった物の指針であり、高ければ多少攻撃が通りづらくなる程度の効果しかない。
敏捷に関しても高ければ早く動けるのは間違いないのだが、その数値に技術や感性といった物は含まれておらずチェリーの剣道で培った瞬発的な速度は手合わせした団長達の速度を上回っていた。
知能はいたずらに置いては誰よりも頭の回るハゲが低いことで証明されている。
なんだかんだであいつはマッチョに続く学年2位の成績を収めているのだ。
知能が低いなんてありえない。
それに信じられないことだが、僕達のクラスであるZ組は学年1位から11位までを占拠しているのだ。
僕以外が頭のネジが外れていることを除けば非常に優秀。
なのに知能の数値を確認してみればかなりの差がある。
覚えていない魔法の習得速度に影響があるのかと疑い、ハゲやマッチョなど男子生徒を巻き込んで一つの魔法を覚えてみたが習得速度は知能が低いはずのマッチョが真っ先に覚えてしまった。
知能の数値にまだ何か隠された要素がないのであれば、きな臭いの一言に尽きる。
故に唯一数値通りの結果が確認できた力と魔力以外は信用出来ないと判断した。
まぁ元々何を基準に判断しているのか解らない物を信じるつもりはなかったけど。
「皆様。目的地に到着いたしました」
兵士の声に思考を閉じる。
色々と考えている間に目的地に着いたようだ。
今回の訓練は周辺の魔物の掃討。
聞き込んだ敵の強さからして力試しという意味合いが強いのだろう。
試したいこともあったのでちょうどよかったと考えておく。
そうして僕達の初めての実戦が始まった。
異世界に飛ばされた僕らは少し、いやかなりおかしい。 霞空 @karaagekoara
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