控えめに言って狂ってる。




「というわけだ」



「なるほど、わからん」



 王様達との話し合いの結果を伝えて開口一番担任の言葉にマッチョをけしかけたくなった。

 おちつけ。

 こいつらにまともな反応を求めること自体が間違いなんだ。

 普段の行動を思い出せ。

 理性もなく欲望のままに行動しているのだ。

 政治的な話や人同士のいざこざを理解することなんて土台無理なんだ。



 うん。落ち着いた。




「簡単に言うと、魔王が蘇ったからそれを倒すのが僕達の役割で帰る方法は現在不明」



「魔王ってRPGのボスみたいなやつか?」



 うんそうだね。そんな感じでいいよ。



「それは筋肉にあふれているのかい?」



 チェリーに続いてマッチョが質問してくるがそんなこと分かるわけがない。

 昨今の魔王事情なんて聞かれても性別すらわからない。

 なんて答えようか悩んでいると隣で正座していた801が興奮した様子で口を開いた。



「という事はゲイっ!?」


「あ、魔王が女の子を誘拐してるって話はまさか……」


「男に抱かれる為に性転換する為っ!!」



 どうしてそうなった。

 我ら真理得たり、みたいな顔して頷き合う常識外の女子二人に汚染されぬよう遠い目になった僕を許して欲しい。



「うーんできれば男のままで熱烈なホモ展開の方が有り難いなぁ。あ、一応性転換の魔法は在るみたいだよ」


「あ、鼻血がっ」



 あるのかよ。

 性転換の魔法なんて妄想だと思っていたらどうやら在るらしい。

 賢者の理という祝福を持つ彼女があるといったのだ。

 間違いはないのだろう。




「ということはだ。いらなくなった美少女達は俺達が貰ってもいいというわけだな」


「ガタッ」


「ガタッ」



 どういうことだ。

 確かに話の中に情勢として各国の女性が魔物の苗床か実験の為かは知らないが攫われていると話はした。

 だが、攫われている女性達が美少女なんてどうして分かるんだ。


 そしてチェリーとボーイ。

 口で擬音を出すほどに食いつくんじゃない。

 貰えるって普通ありえないだろう。

 いや、命が軽い世界だからこそある程度はそういったことはあるかもしれないが……。



「まてポップ。貰えるものに美味い物もあると見ていいのだな」


「クッソ。なんで構えてもいないのにこんなに重いんだ」



 誰も貰えるとは言ってないんだが。

 ダルに蹴られながらも意にも介さずその豊満な肉体によって弾き飛ばしながら割と真剣な表情で質問を投げかけてくるブタ。

 謎の圧力に襲われ返事をすることができない。


 そう言えばブタの祝福は見た目にそぐわずに非常に強力なものだったな。

 大方その所為だろう。




「えー、纏めると魔王はマッチョなゲイで、美少女を攫って男に抱かれる為に性転換しようとしてる。で、性転換した後の為に精の付く美味い食い物貯めていると」




 ごめん。何言ってるかわからない。

 どこから出てきたその情報。僕が話した内容とかすりもしないじゃないか。

 なんだその変態は。そんな変態に世界が危機に晒されて居るというのならいっそ滅んでしまえ。


 お仕置きが終わり、どこか青い顔をしたハゲが明らかに作為的な纏め方をする。

 お前まだ懲りてないなら裸で抱き合いスクワット一時間追加するぞ。



「いや、ほら、さっきまで気持ち悪くて気絶してたから途中からしか聞いて無くてな。皆の話を纏めるとこうなったんだよ」



 確かに先程まで腐女子三人に色々な尊厳を奪われていたハゲが全ての話を聞いていたとは思えない。

 聞けていたなら間違いなくハゲは何か大切な物を捨てている。

 皆の話しか聞いていないならこういう纏め方になるのは仕方ないと思わなくもない。



「ん、そう言えば委員長は?」



 ふと今まで会話に入ってこなかった委員長が気になり視線を移すと、そこには僕達を見ているようでどこも見ていない、顔を紅潮させて静かに鼻血を垂らしている姿があった。

 静かだと思ったらどこをみている。どこを。



「大丈夫、聞いてるよ」



 未だ視線を外すこと無くどこか遠くを覗き見ている瞳でうわ言の様に口を開く。


 ほう。なら僕達の目的を言ってみてくれないかい?

 聞いていたなら分かるよね。




「魔王から美少女と食料を奪い返してタダのゲイにすればいいんでしょ?」




 お前らいい加減にしろよ。

 誰もまともに話きいてないじゃないか。




「もう、それでいいよ」




 自然と諦めたような声が出たのはしかたないと思うんだ。








                 ◆







「うん。それじゃとりあえず各自が得意と思われるものを練習しようか」




 キチガイ共の目的が捏造まみれで定まった翌日。

 僕達は自分が持っている能力を試すために訓練場を貸し切って訓練を行おうとしていた。



 どうして国が用意してくれた場所で僕が仕切っているのか。

 本来なら騎士団の副団長が引率というか監督をしてくれる予定だったのだが現在は騎士団の旗に全裸で括り付けられてぶら下がっている。


 何をいっているのか解らないと思うが僕もあんまり良く解っていない。



 どうやら昨日壁の向こうでどこかの令嬢と浮気していたのを委員長がガン見していたらしく、それを知ったハゲが何やら副団長であるイケメン騎士に耳打ちしたと同時に腐女子三人にひん剥かれたまでは目撃している。

 そこから先は彼の尊厳の為にも言葉にはしないでおこう。

 僕自身堪えられずに目を背けたぐらいだからね。



 そうして監督役不在という危険極まりない状態をどうにかしようと仕方なく僕が前に出たのである。

 まぁ出た所で何ができるわけではないが、とりあえず祝福や各々の能力を把握することにしたのは間違ってないと思う。



「いやー、昼間っから飲むビールはうまいな」



 訓練場の片隅でバーベキューセットで肉を焼きながら、片手に持った缶ビールを煽る担任に溜息が出そうになるが一応これもれっきとした訓練である。



 担任の祝福は創造。

 思い描く物を作り出す、正直いってこれさえあれば戦争には勝利したような物だと思う。

 現代兵器作り出して物量で押せばそれで終わる。

 だが、そんな甘い妄想は中々許されないらしく。

 本人曰くあまり複雑な物は作れないらしい。


 今ボーイが着ている制服も昨日ズタズタに裂かれた制服ではなく担任が作った新しい物らしいのだが、制服自体が十分複雑だと思うのは僕の気の所為だろうか。

 これも何かしらの制限がついているような気がする。



「なぁ先生。先生の創造で女の子って作れないのか?」


「――――っ!!」


「チェリー、お前天才かよっ」



 他はどうだろうと視線を動かそうとするとチェリーが担任に余りにも下らない質問をし始めた。

 昨日の美少女の話が童貞に何か火を付けたのかもしれない。


 常識的に考えて作れるわけがないだろ。

 しかし、彼らに常識なぞ通じるわけもなく。

 真理を見つけたような表情を貼り付けた担任が今までに無いぐらいに真剣な表情で考え始めた。



「まて、可能な限り人肌に近い触感を生み出して魔法による擬似的な反応を起こして造形を取れば――――――――――――して、俺の持てる知識をつぎ込めばリアルラブドールなら行けるかもしれない。いや、作れるかもしれない。自分が望んだ美女をっ!!」



「先生あんたすげーよ」


「見直したよ先生」




 とてつもなく長い独り言を終えた担任が突如として立ち上がり、途方もなく下らない野望を胸に声高々に祝福を使いプレハブ小屋を建て、何かとてつもない決意を秘めた目をして入室していった。


 それに続きチェリーとボーイが後に続きラブドール作成という悲しすぎる男達の野望の制作に取り掛かり始めた。

 また担任。お前の人生はラブドール制作の為に合ったのか?

 しかし僕の声は届くこと無く、代わりに先程まで副団長の全裸観察をしていたBLがプレハブ小屋の扉を開け放ちながら口を開いた。



「待って先生、つまりホモドールも作れるってことだよね!?」


「目の前でリアル人形たちによる組んず解れつが見れるの!?」


「情熱が溢れ出過ぎて倒れそう。けど、それを見届けるまで私は倒れちゃいけない!」



 騒ぎを聞きつけた腐女子が集まり思い思いに欲望を口走る。

 そして集まったのは腐女子だけではなかった。



「先生。僕専用ジムも作ってよ」


「先生よ。直径一メートルのピザはできるかね」


「ブタを蹴り飛ばせるほどの強化装備を作れるのか!?」


「とりあえずデカイネズミハナビ作ってもらってもいいかな」




 マッチョ、ブタ、ダル、ハゲの順番にそれぞれの訓練なんか放り投げてプレハブ小屋に集中し始めた。



「まてお前ら。この美少女ラブドロマンール製作所ハウスは女人禁制だ。それにホモなんて俺が吐きそうになるから却下だ」



 鍵を締めたはずの扉を魔法というチートを使って解錠して押し入ろうとするBLを止める担任。

 中に何があるのかは考えたくもないし興味もないが、次々とロマンハウス称されたプレハブ小屋に入ろうとするクラスメイト達。



「やめろ。来るなBL。俺達は卒業したいんだ」


「今度こそ邪魔はさせない」



「あぁ、美しい友情はやがて愛へと変わり――――」




 割と必死の形相でBL含めた腐女子集団を遮るチェリーボーイ。

 どうやらBLの被害は彼らにとって結構なダメージだったようだ。

 ラブドールで卒業しようするほどまでに追い詰められていたとは。




「こんな薄い壁。フンっ!」



 そして人が集まる扉前ではなく、横から自分が出入りできるように持ち前の筋肉を思う存分活かして壁に穴を開けて入室するマッチョ。



 それに続くようにブタとダルが小屋へと入り、別方向からバーベキューセットの足を使って窓ガラスを割ったハゲが飛び込む。



 そうして小屋の破壊という手段を知った三人が、男達の悲しい夢を壊すかの様にプレハブ小屋を倒壊させるのに時間はそうかからなかった。





 お前ら訓練しろよ。




 そして唯一騒ぎに混じらなかった委員長へと視線を向けるとまたどこか遠くで何かを覗いているのかものすごく真剣な表情で彼方を見ていた。




「正直エロければなんでもいい」



 ダメだこいつら。



 僕は静かに天を仰いだ。


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