イカれたクラスメイトと担任は正座する。
「おいポップ。なんで俺達まで正座させられてるんだよ」
黙れ童貞。
ハゲとマッチョの暴走を止めなかったお前らも同罪なんだよ。
いいから静かに正座して僕の話を聞け。
担任含め、総勢十一人が目の前の赤い絨毯の上に正座するという光景の隣には、半裸に剥かれた女騎士が僕の渡した上着に包まりながら時折すすり泣く声を発していた。
正直ただですら不安定な状況の中で、よくも心象を悪くする行為をやってくれたなと思わなくもないが、何の対策もなくこいつらを放置した自分の所為でもある。
ちなみにポップとは僕のあだ名である。
このクラス、何故か本名で呼びあうことをしないのだ。
そのせいなのか、クラスメイトの本名があやふやで結局あだ名で呼ぶというサイクルに陥っている。
出席の時まであだ名で呼ばれているのだから仕方がない。
それぞれが溢れすぎている個性があだ名になっている為、わかりやすいというのもある。
僕の場合J-POPばかり聞いていたからという下らない物だと思うので当てにはならないだろう。
そうだよね?
「それは先生に聞いてほしいかな」
そう言って正座したままの眼鏡の女生徒こと委員長が担任である先生へと話題を振った。
どうやら僕のあだ名を着けたのは先生のようだ。
だが、委員長。
時折壁に向かって視線を投げているが、また覗きをしてるんじゃないだろうね?
どんなに早く首を振って戻そうとも三つ編みが揺れているからバレバレだよ。
「ほら、知的好奇心には人間勝てないのよ」
エロを知的と称すかムッツリスケベめ。
委員長と立場のままのあだ名だが、役職がなければムッツリというあだ名だったのではないだろうか?
まぁ委員長の性癖は置いておき、あだ名の由来を知っている先生へと視線を向ける。
「そこんとこはほら、あれだ。内緒だ」
どこか焦るように応える無精髭を生やした中年の男性こと我らがキチガイクラスの担任である先生。
どうやら吐く気は無いように見える。
まぁ別にあだ名がどうなろうと僕は一向にかまわない。
「で、いつまで私達は正座していればいいのかしら?」
今度はこのクラスで唯一癒やしの能力を持っている長い黒髪が綺麗な腐女子が僕に問いかけてきた。
通称BL。
まんま腐女子故に付けられたあだ名であり、女の子を呼ぶような物ではないが本人が否定していないのでかまわないのだろう。
正直見た目だけなら美少女と言っても過言ではないのだが、本人の腐りすぎている本性の為に未だに浮いた話一つすら無い。
聞いた話だと過去に色々あっただとか、ヤラせてくれと頼み込んだ男子生徒に「リアルボーイズラブを見せてくれたらいいよ」と返答してドン引きされたとか、かなり頭のおかしい噂を聞いている。
「とりあえず話が終わるまではそのままだよ。一応これからについても話さないといけないからね」
「じゃあ正座は崩してもいいか? 流石に足が痺れてきた」
足が痺れた云々の前にまず身体を隠して欲しい。
チャンバラであちこち服が破れた所為で、本当に色々見えてるから。
誰が野郎の身体を見て喜ぶ奴がいるのだ。あ、いたわ。
隣でBLが涎を垂らしながら目を輝かせている。
BLの隠すことのない不躾な視線に気づいたのか、短めの茶髪をした男子生徒ことチェリーが身の危険を感じたのか、ボロボロに破れた制服の上着で大切な所を隠していく。
しかし、そんな光景は正にBLの琴線に触れたのか食い入るような視線と共に身体を近づけていく。
「イイ……。まって止まらないで」
「おい、流石にストップだ」
そこへ少し長めの黒髪を揺らしながら、チェリーの幼馴染である男子生徒が間に割って入った。
彼こそチェリーとチャンバラを繰り広げ、制服をズタズタに切り裂いたボーイという男子生徒。
二人合わせてチェリー・ボーイ。
「幼馴染を守る……素晴らしい……ぶはっ!!」
彼らの名付け親であるBLが目の前で繰り広げられた光景に感じるものがあったのか、盛大に鼻血を撒き散らしながら床へと倒れた。
赤い絨毯を更に赤く染め上げる顔は時折痙攣しており、正直お見せできない様なだらしない顔をしている。
残念美人としかいいようがない。
ちなみに彼らはれっきとした本物のチェリーボーイであり童貞だとしても、そうたとえ紛うことなき童貞だったとしても幼馴染にそういった感情はなく、むしろ普通に女の子とお付き合いしたいと愚痴を零していたのを聞いたことがある。
しかし彼女ができそうになると、どこからともなくBLが湧いて出てきて邪魔をしているらしい。
ある意味BL最大の被害者といっていい。
もしかしたら堪えかねて近いうちにバイになる未来があるのかもしれないが、恋愛の自由もあるので、僕に被害が来なければどうでもいい。
BLの目論見通り、幼馴染同士仲良くやってくれ。
チェリーが剣道、ボーイが空手を昔から習っているらしくチャンバラもボーイが突然目覚めた剣術が、どれほどの物かを確認する意味もあったらしいのだが、真剣でやる意味がわからない。
無害そうに見える二人だがやはりこのクラスの一員である証明か、どこかネジが外れているのは間違いないだろう。
「無機物もいいけど人同士もやっぱりいいね」
「そうだね。男同士がもみくちゃになるのも見てみたいね」
明らかにBLを超えた変態女子二人の声が耳に届いた。
先程壺と鎧をくっつけて喜んでいた少し長い茶髪の女生徒が801といい、それに対して鼻血を吹き出していた短めの黒髪女生徒がビンコという。
この二人は殆ど一緒に行動をして辺りに意味不明な毒電波を撒き散らしている。
なんでもくっつけたがるのだ。
例えば黒板とチョークという何の変哲もない授業に使われる道具も彼女達にかかれば一つの卑猥な恋物語に変わってしまう。
本当に見境がなく、授業中だろうと通学中だろうと所構わずそういった話で盛り上がるのだ。
そしてビンコはある一定以上興奮すると簡単に鼻血を吹き出す。
敏感から来ていると予想できるが、精神を汚染されたくないので彼女達のあだ名の由来は触れないでおく。
「おいブタ。後でもう一回蹴らせろ」
「うぬ、吾輩は逃げも隠れもしない。いつでもかかってくるがいい」
掛ける必要もない眼鏡を掛けたデブの男子生徒とやたらと身長が高い男子生徒のやり取りに溜息がでる。
お前ら話を聞け、正座させた意味がないだろう。
なんだ、その膝の上に重しでも乗っけた方がいいのか?
「ポップ。俺はブタを蹴り飛ばす事が人生の目標なんだ。邪魔をしないでくれ」
「ふむ。ピザ五枚で手を打とう」
ダメだこいつら。
周りに被害はないのだが、如何せん話を聞かなすぎる。
いや、デブはある程度話を聞くのだが事あるごとにピザや食べ物を要求してくる。
身長の高く、やたら足が長い男子生徒がダル。
対照的に身長が低く控えめに言ってもデブの男子生徒がブタ。
ダルは元々このクラスに来るまではイジメを頻繁に繰り返しており、手に負えなくなった教師陣が我がキチガイクラス、3-Z組へと送り込んだ生徒だ。
そこで彼はブタと運命的な出会いを果たした。
我がクラスは控え目にいって狂っている。
イジメなんかイジメとして認識していない。
というか常時僕以外常識の外を生きている。
まずそんなクラスに来たダルはブタに目を付け暴力的な手段を講じたが、そんなもの意にも介さずに手持ちのポテチを頬張り続けたのだ。
それにいじめっ子としてのプライドを刺激されたのか、事あるごとにブタを蹴り飛ばそうとするも圧倒的な質量の前にはダメージもなく、逆に蹴り飛ばしたほうが蹌踉めくという結果に終わってしまう。
今更別のイジメに変えるのも負けを認めたのと変わらないとでも思ったのだろう。
そして意地を張り続けている内に、いつの間にか何があったのか全く興味の欠片も無いが共にラーメンを食べにいく間柄へと変わっていた。
未だに蹴り飛ばそうとする友情に似た何かは続いているが、仲がいいのは素晴らしいことだ。
ちなみにあだ名の由来は手足が伸びる濃いキャラから来ているらしいが塵ほどの興味もない。
「なぁポップ。これ解いてくれないかな」
「この戒めを解いた時。僕は更なる筋肉を得ることができるぅぅぅ!!」
そして今回の騒動の主犯へと視線を向ける。
手足を縛られた坊主頭の男子生徒。
通称、ハゲ。
同じくいつの間にかブリーフ一枚で必死に拘束を引きちぎろうと顔を赤くしながら歯を食いしばっている筋肉ダルマがマッチョと呼ばれている。
正直マッチョに関しては己の肉体を鍛え上げ、見せびらかす以外に特に害は無いというか筋肉ダルマの半裸など見たくもない僕としては十分害になるのだが、この際置いておく。
しかし、ハゲが関わってくると話が変わってくる。
マッチョは見ての通り脳みそまで筋肉で出来ている様な残念な思考だ。
授業中筋トレに夢中になり、トイレに行くのを忘れて盛大に漏らすほどだ。
これで学年一位の成績を収めているのだから訳がわからない。
問題はハゲだ。
我らのクラスで行われている奇行は二種類ある。
イカれたクラスメイト達の通常生活で巻き起こされている常時発生型の奇行と、思いつきによりヤラカス突発型の奇行だ。
そしてハゲは思いつきの突発型奇行の発生源といってもいい。
約七割の突発奇行に関わっていると言えばお分かりいただけるだろう。
これもハゲの生体なのだから常時型といってもいいかもしれないのだが、BLやマッチョなどの奇行は対処法が確率されており、ハゲの起こす騒動は対処法がないのだ。
毎回手を変え品を変えて引き起こされる事態の収拾に付き合わされる僕の身にもなって欲しい。
まだ先生が風俗へ行くので自習と黒板に書かれている時の方が楽だ。
静かに次のテスト範囲や疲れたら小説などを読めばいいのだから。
今回も全く先が不透明な状況の中、一歩間違えればクラス全員の命を失いかねない事をしでかしたのだ。
よって情けも容赦もしない。
悪い子には地獄を見てもらわねばならない。
そうして僕は話をする前に判決を言い渡した。
「マッチョ。許してほしかったらハゲに裸に剥いて二時間抱きしめながらスクワット。BLはその様子を録画して。801とビンコは抱かれているハゲを好きに弄っていいから」
「やめてぇぇぇぇぇ!!」
後生っ、後生っ!! と聞こえてくるが聞こえないフリをして刑を執行する。
喜々として男同士の絡みに群がるイカれた女子達の餌食になるハゲにサムズアップをする。
キチガイを懲らしめる為にはキチガイをぶつければいいのだ。
「じゃ、そのままで話をするから聞いてね」
大分長くなってしまったが、ようやく本題に入ることができる。
とりあえず、すすり泣いて居たはずの女騎士が僕の事を怯えた目で見ていたのは理解できなかった。
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