何も楽しくない説明回に使われることのない数値。
「お手数お掛けしましたが、大凡の現状は理解することができました。有難う御座います」
「あぁ。君の様な人物が居てくれて本当に助かった」
王様の言葉にはどこか哀愁が漂っているのを感じたが、それを口にだすようなことはしない。
確かに召喚された勇者が説明も半ばで、突然チャンバラを始め仲間内で流血沙汰を起こしたり理解不能な価値観の恋愛話をされたりすれば嘆きたくもなるだろう。
途方もないコストを払って召喚したこともあるのだから尚更だ。
しかしあのイカレポンチ共のお陰で自分に対する心象は好印象。
王様達の言う使命を全うする為に動けばまず処断されるようなことはないだろう。
それに召喚された際にそれぞれが得た能力は強力だと分かった。
最悪の場合クラスごとこの国と一戦交えればいい。
簡単なことだ。封建制の国などトップを失えば後は勝手に血みどろの内戦に突入するだろう。
トップと次期トップを暗殺すれば容易い。
幸いにもこの国の王は勇者とはいえ、素性の知らない自分と最低限の護衛しか付けずに話し合いの場に出てしまう間抜けだ。
情報伝達手段も中世をベースとして考えれば遅いのはわかりきっている。
情報が出回る前にめぼしい貴族に勇者として訪ねれば暗殺など簡単に済む。
「では、確認しますね。まずこの国、引いてはオブシディアという世界は復活した魔王により衰退の一途を辿っている。それを食い止める、または魔王を打倒するのが僕達に求められた使命」
「あぁ、そうだ。今もエルフやドワーフ、獣人といった亜人種達と協力して戦っているのだが、予想以上に魔王軍は強大でな、オブシディア全ての戦力を持ってしても押され続けている」
で、自分達ではどうしようもなくなり不確かな伝承を元に、異世界から見ず知らずの人物を召喚して戦力の当てにしたと。
正直言ってバカとしか言いようがない。
そういう他力本願な所が負け戦に繋がっているのだと思う。
宰相と名乗った男性から聞いた話だと、総戦力では此方が勝っているというのに宗教やら種族や国同士の認識の齟齬などにより、未だ纏まりがないと来ている。
莫大な投資を召喚なぞに賭けるよりもまずは統率を優先したほうがいいだろう。
攫われた人間を取り戻したり、貧困に喘ぐ民に施しをして民意を集めた方がよっぽど現実的だ。
それに僕個人の考えとしては種の存続という大きな壁の前に宗教やら何一つご利益のない神様を祀る事などどうでもいい。
転移療法となる巡礼など役に立つものも中にはあるのを否定するつもりはないが、それでも殆どの教えは形骸化して意味の無いものに成り果てている事が多いのもまた事実。
そして真面目に対策を考えている様に取り繕っているこの国ですら話の節々に固執した偏見や教えで凝り固まり、遠回しに他国を罵っていたのだから救いようがない。
神は手を貸すわけでもないし、宗教など結局は机上の空論でしか無い。
信じたからなんだ。自分がこうしたから満たされた。
ただの自己満足だろう。
教えを説いた所で進行は食い止められない。
祀った神は助けてくれない。
国同士の諍いなど戦いが終わった後にすればいい。
平時ならば大いに結構。
しかし命がかかっている状況下でそれすら気づかず愚者を体現している奴らなら、僕は切り捨てる。
使えない戦力なんて囮として使えばいい。
表面上取り繕って利用すればいいのだ。
それに信じるものに命を賭けるなら、僕は誰が説いたか知らない教えなどではなく現実にある何かの為に賭けたい。
まぁ狂信者と言ってもいい奴らの考えなんて僕にはわからないし、知りたくもないのでこの辺りで考えを打ち切ろう。
「では陛下、此方の要望をお伝えしてもよろしいでしょうか?」
「うむ、なんなりと申すがいい」
まぁこんな奴らだが使える内は思う存分使うことにしよう。
出来る限り穏やかに笑みを作り言葉を紡ぎ出す。
間違っても此方の考えを漏らすような表情を出してはいけない。
少なくとも僕には自分含めて十二人の命を預かっているのだから。
「まずは生活の保証。次に使命を全うする上での能力やこの世界を知り、それを磨く期間が欲しいです。資本がなければ何事も成し遂げることはできませんから」
「然り。まずは英気を養い階位を上げることに専念するのはいい案だと思うぞ」
「ご理解頂き感謝致します」
階位。
この世界はどうやら僕達の世界で言うところのゲームのステータスの様な物を理として敷かれている様で、各々が持つステ―タススプレートと呼ばれるモノで確認することができる。
階位が上がれば能力が上昇して、死にづらくなり基礎能力や戦闘力が上昇するらしい。
ちなみに僕も召喚されて能力を確認した時にクラスメイトと共に配られている。
種族 人間
職種 学生 異世界からの召喚に応じた者
階位 1
力 25
知能 70
体力 19
敏捷 23
魔力 980
祝福 理を越えし者
自分と仲間の限界を取り払い無限の可能性を示すことができる。
スキル
風魔法 火魔法 無属性魔法 神聖魔法(信仰心が足りず使用不可)
体術 魔力操作 短縮詠唱
正直あまり興味の無いものなのだが、僕のステ-タスプレートに表示されたモノ。
この数値がどういう価値があるのか最初はわからなかったが、ある程度話を聞いた今ならとんでもないものだと理解できる。
おおよそ、階位が平均2~3の村人の力が大体10~15だそうだ。
職や個人によって階位が上がった際の数値の伸び方が違うらしく、職自体が己に合わせて勝手に変わるものらしい。
周囲や自分自身がその職だと認めることが条件とかなんとか。
正直これも怪しいが今は置いておこう。
数値を見て気づいたと思うだろうが、魔力だけ頭がオカシイレベルで高い。
僕だけじゃなく転移してきた全ての人間が数値の差はあれど、この世界ではありえないレベルの数値を叩き出している。
宰相の予想だと、僕達のいた世界とは次元が違い存在そのものが高位の魔力で編まれている為だとか、次元の壁を超える為に身体が変化しただの信憑性に欠ける憶測だが、是非とも後者は勘弁して欲しいと思う。
変化してしまったとしたら帰れない可能性や、帰った後に日常生活に戻れない場合もあるからだ。
で、魔法だが本来は魔法使いの師匠の元で修行したり、学院へ通いながら学ぶらしいのだが召喚された際に付与された祝福のおまけらしく最初から使える状態らしい。
使おうとすれば自然と頭に知らないはずの呪文が浮かんでくるのは気持ち悪いものがあるが、利用できるものは全て利用する性分の為、我慢しようと思う。
神聖魔法が使えないのは当然といったところなので触れないでおく。
多分ウチのクラス全員使えないと思う。
神にあったら普通に神で遊びそうな気がするキチガイ達に信仰心を求めることが間違っている。
そして一部を除き短縮詠唱は全員持っている。
最後に祝福。
これが勇者たる所以らしい。
人知を超えた特殊能力を各自が与えられている。
説明文を見た所で凄いということはわかるが、大雑把すぎて理解に苦しむ。
まず何の限界なのかが明記されていないので鵜呑みにすることは危険だろう。
チャンバラをしていたバカの様に剣に無類の才能を発揮するとか解りやすいものだったら良かったのだが、まぁ仕方がない。
加えて学生なのはまだ納得できるのだが、召喚に応じた覚えはない。
これが神の意思であるなら立派な詐欺行為だ。
此方の意思を無視した行為、先程職の条件が怪しいといったが正にこれと何かしら関係があるのでは無いかと睨んでいる。
要は神の意思で成長度合いが決められ、戦う人物を選定しているような印象を受けた。
証拠も無く、あくまで雑な推測の域をでない妄想の類だが、浮かんだ答えが頭から離れない。
自分のこういう直感に近いものは可能な限り信じるようにしている。
何故なら直感とは今までの人生で培ってきた経験による、言葉にできない答えの一つなのだから。
従って今は根拠に薄いながらも頭の片隅に留めておくことにする。
もしこれが正解だと確信を得た時は、それ相応の落とし前をつけてもうことにしよう。
少なくとも僕達をここへ召喚した際に手を貸した神か人物がいるのは確定している。
それは証言から既に出ているので間違いない。
召喚の際に王宮所属の魔法使い達とは異なる魔力を感知したという。
それは人が出せる魔力でもなく、儀式場自体も魔法使い達以外立ち入れないほどに危険だったと聞く。
それを神の奇跡だと喜んで語ってくれた。
そういうことだ。
つまり、僕達を戦う為のおもちゃにしようとしている可能性がある。
純粋に世界や国の為ならまだ納得しよう。
だが、そこまで強大な力を持ちながら戦いに参加しない理由がわからない。
何かしらの思惑があると見て間違いないだろう。
「話は纏まったな。また必要なことがあれば幾らでも手を貸すことを約束しよう」
「有難う御座います」
笑顔の下で思考を巡らせて居ると、王様の言葉が耳に届き思考を打ち切った。
とりあえずは当面の安全は確保したと言っていいだろう。
少なくとも高校生という子供にしては大戦果だ。
それにあまり長く話しすぎているのもマズイと直感が告げている。
あのバカ共を何時迄も野放しにするのはヤバイ。
「では、皆に事の次第を伝えてまいりますので失礼します」
「うむ」
今更気づいた事実に焦りが生まれる中、退出の旨を伝えて部屋を後にする。
自然と早足になるのを自覚しながら召喚された広間へと戻って自分の考えが正しかったことを理解した。
「がおー」
「こ、こないで……」
「おかしいな。くっ殺言わないぞこの女騎士」
「やっぱり男同士じゃないと効果ないのよ」
半裸にひん剥かれた女騎士に馬面マスクを被った半裸マッチョが襲いかかっている光景が目に飛び込んできた。
お前らなんてことしてるんだ。
せっかく穏便に事が運べそうなのに拗れるような事をするんじゃない。
というか男同士だと女騎士じゃないだろ。
「マッチョも男の子なんだね。マスクの下、意外と下衆い顔してるのが見えるよ」
「ところでさ、剣と剣がぶつかるのも一つの恋だよね」
「あ、また鼻血が出てきちゃう」
外野も今起こっている非常事態に気づいてるのか気づいてないのか呑気なことしか口にしていない。
本当に我が道を征くクラスメイトに目眩を覚えそうになる。
「おら、マッチョ。もっと剥かなきゃ聞きたい言葉は聞き出せないぞ。おら剥け剥け」
担任だけは剥かれている女騎士に釘付けだった。
お前が一番頑張んないと行けないのに何煽ってんだよ。
「ブタッ! もう一度蹴らせろ。今度こそ吹き飛ばしてやる」
「ふんっ! かかってくるがいい」
「切られすぎて制服ダメになったわ」
「なら俺のジャージ貸してやるよ。後で先生につくってもらえ」
ダメだこいつら。
異世界に半ば強制的に拉致された自覚がない。
とりあえず収拾付けなければ大変な事になるかもしれない。
「お、ポップが帰ってきたぞ。今女騎士はくっ殺と言うのか実験してるんだが、やっぱりオークじゃないとダメなのかね?」
「ひっ……!」
オークはどうやらこの世界に居るのだろう。
次はオークに襲われると予想した女騎士は青ざめて小さく悲鳴を漏らす。
とりあえずお前ら正座しろ。
いいから早く。
事態に収拾を付けながら動く中、とりあえず申し訳ないことをしてしまった女騎士へと制服の上着を手渡した。
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