あいつは永遠の友であり永遠の敵だ。
@P-mankaroten
第1話 永遠の友であり永遠の敵
これから話すことは一切の嘘偽りの無い、
俺の昔話。
クソみたいなあいつとの下らない戦闘記。
...これだと少し語弊があるな。
強いて言うなら
クソが下った時の話
まぁ、ざっくり言うとな、
俺がうんこを我慢する話だ。
あれは、
まだ少し冷える冬の終わり。
中学校生活の3年間、長くも短い年月を共に過ごした仲間との別れの式典の日。
「うあー!なんだか緊張してきた...!」
体育館に卒業生が次々と入場する。
「大丈夫っ!だって、いっぱい練習したじゃん!」
俺の周りでは先生に叱られない程度の小さな声で緊張を口にしたり、
思いでを語り合っている。
実はこんななんでもない話がとても楽しい。
しかしどんなことにも終わりがある。
先生の一言でその空間は終わりを迎えた。
「おいっ、いくぞ!」
いよいよ俺らの番だ。
前の列に続き、俺は在校生の作る花のアーチの門を一つ、また一つと、くぐっていった。
体育館の中心あたりの席についた俺はここが少し肌寒いと感じる。
堂々と卒業式を終えよう。
同時にそんな熱い感情も芽生えた。
その時だった。
それは突然だった。
それはなんの前触れもなく戦いの火蓋は切って落とされた。
いや、この体育館に入った時点で勝負は始まっていたのかもしれない。熱い感情も一滴の冷や汗とともに、流れ落ちた。
あいつに先制攻撃を仕掛けられたのだ。
...ギュルゥゥゥゥゥゥゥ‼
「んっっ...!!」
な、なんだ!?お、お腹がきゅ、急にっ!
この腹の感じは...まさか、あいつか...!!
「ん?なんか言った?」
「あ、あぁいや、なんでもないよ、、、」
この状況、少しまずいかもしれない。
ふっ...し、しかしまぁ、俺も全くの無警戒だったわけでもない。
実を言うと、昨日も出ていなかったし、今朝もいまいちだった。卒業式中に痛みが来るだろうとは予測していた...が、だが、
今回の相手はそこそこ手強いようだ...
ちっ、でもこの程度ならしばらくは余裕だ。
このままやり過ごせれば問題ない。
この程度の腹痛ならしょっちゅうだ。
アカン、アカンで、これ。
なぁ、こいつ収まるところを知らん。
俺はトイレには向かおうとはしなかった。先生達の長話の間に収まると踏んで俺は我慢していた。それに卒業式の静まり返った雰囲気の中で先生を呼ぶのもなんだか恥ずかしいと思っていたしなんとかなるだろうと。
だが、
くそっ!甘く見すぎたか...
(うんこだけになw)
もっと早くに勇気を出して先生に呼んでいれば...
(勇気じゃなくてうんこ、俺のこと出せよ)
くっそおおおお...!!!
今の状況にパニックし、若干の焦りが出た俺には、うんこの声が聞こえた気がした。
完全に正気ではない。
恐らくだが、自分自身であいつになり、ふざけたことを言うことで、少しでも気を反らどうとしていたんだろう。
正装し、緊張混じりの真剣な表情の裏では、
パニックに陥り、取り乱している俺がいた。
でも大丈夫、きっと。
どんなことにも終わりがある。大丈夫。
先生達の話が全て終了した。
今回に至っては話が長いとは思わなかった。
まずい。
今度こそタイミングを逃した。
もうチャンスはない。
次は卒業式が一人ずつ前に出て、卒業証書を受けとる。この中学の卒業生の数からして、俺はかなりの時間を耐えなければならない。予行練習の時は1時間以上かかっていた気がする...ぜひとも気のせいであってほしい。
だがもし、さっき言っていた終わりがバッドエンドなら...
か、考えたくもない。
そして自分の番が近づいてきた時もう一つ、重大な問題があることに気付いた。なぜ今まで気付かなかったのかがわからない。
一歩間違えればバッドエンドだ。
そう、卒業証書はもちろん俺も受けとる。
そう、受けとらなきゃいけないんだよ。
つまり、体育館の真ん中から後ろくらいのところから、前の壇上までいかないといけないんだよ。
はぁぁぁ!?なんだよ!?ふざけんなよ!!
とグチグチ考えているともう自分の番になっていた。
なるべく普通に席を立ち、保護者と生徒との間の道へ出た。
そして俺はしっかりと、しっかりと前を向いた。
距離にして約15mくらいだろうか。
歩いて15秒もかからないこの距離が、
今は恐ろしく長く感じる。
踏み出す一歩にただならぬ重みを感じる。
決して焦らず、冷静に。
あくまで真剣な表情を貫きながら、
全神経を研ぎ澄まし俺はケツに力を込めた。
今、この場では一切の漏れが許されない。
少しでも気を抜けば俺は儚くもここで散る。
いよいよ壇上へ上がろうとする。
一難去ってまた一難とはこのことか。
ここで俺に大きな壁が立ち塞がった。
階段だ。
壇上へ上がるための、
たった4段しかない小さな階段。
ここが勝負どころだろう。
そりゃあ、
ゆっくりゆっくーりと一段一段上れば何も問題はないだろう。
しかし今、俺は少なからず多くの人々の視野に入っている。
今までもだが、こんな状況で、
少しでもおかしなことをしてみろ。違和感を感じた者の視線が、一斉にこちらを向く。
そうなってはこいつを抑制するための動きが若干だが、取りにくくなる。
しかしもう遅い。
どう上がるか考える時間なんてない。
ここまでの15秒間はほとんどケツを閉めることしか頭になかった。
トン...トン...トン...トン...
意外とすんなり上れた。
終わってしまっては実にしょうもなく、拍子抜けだった。俺はその喜びからか、その時は腹痛を感じていなかった。
練習通りに校長から証書を受けとる。
そして俺は流れるような動きで、のんきに壇上から降りていった。
そして自分の席への帰路を進んでいると、
再び災いが訪れることを予知する。
くそっ。
これは、一難去ってまた一難去ってまた一難という訳か。
このプログラムが終わればこの争いに終止符を打つことができる。
長きにわたるこの争いも、
ついに最終局面だ。
しかしながらその戦場こそが最も苛酷だ。
そう、最後の戦場となったのは、「合唱」だ。
おそらくだが、ほとんどの学校がそうだろう。卒業生が校歌や合唱曲を披露する。
そのためには、だ。
再び壇上へ向かわなければならない。
しかも今回は前のようには進めない。
それもそうだ、全卒業生が同時に、しかも各々の場所へとスピーディーに移動する。
さっきも似たようなことを言ったが、
団体で行動する時に、周囲と違う動きを
すると確実に目立つ。
自分だけならまだしも、これは団体行動。
俺が遅れれば、全体に迷惑がかかる。
それだけはなんとしても避けなければ...
「最後のプログラムです。卒業生のみなさんは、移動してください」
始まってからいったい、どれ程の時が経っただろうか。
汗がすごい。この静かな空間ではありえないほどの量の汗をかいている。
卒業証書を受けとってからは、ただただ無心にケツの穴を引き締めている。
ときどき大人しくもがくことがあったが特に問題はなかった。
はぁ、思えば長い戦いだ。朝から昼までずっとこの調子。これ程の長期戦は初めてだ。
しかしどんなことでも終わりが訪れる。
さぁ、最後の戦いの幕開けだ。
気とケツを引き締めて行こうじゃないか!!
スタスタスタ....
おそらくこれは気持ちの問題だろう。
俺はさっきまでずっと、ただただ無心に座っていたわけではない。あの時間はずっと気合を貯めていた。
そのお陰でか、
今、俺は無事に友と壇上で肩を並べている。
いける。そう、思った。
いけない。よくあるパターンだ。
完全に気が抜けた。今までよりも遥かに強い何かが、俺の腸で暴れている。
(気ぃー抜いたらダメだわなー)
またあいつが俺に語りかけるようだった。
苦しい。歌えない。口を開くことを意識すると、緩んでしまう。
曲は全部で2曲。まだ1曲目だと言うのに俺はほんとにバカだ!
ほんとうにここで終わっちまうのか。
ここにいる全員の記憶に、そういえばいたなレベルで残ってしまう。
(うんこ漏らしたやつがいたなーってかw)
ほんと...ダメだな俺は。
諦めるにはまだ早い。
俺の人生にそんな汚点は絶対に出さない。
(さぁ、いつまで持つやら)
決まってるだろ。
トイレに行って。便座に座るまでだ。
(へぇ、まぁ今1曲目が終わって、もう最後の1曲か。まぁせいぜい頑張れや)
フッ、臭いセリフ言ってんじゃねぇ。
臭いのは匂いだけで十分だ。
さてと。
なんかもう終わった雰囲気だが、まだ終わってないぞ。まぁ気持ちは落ち着いてる。
が、あいつはもうそこまで来てる。
あと10分もないだろう。
そろそろ俺もつらい。冷静な顔を保つのがしんどくなってきやがった。
でも、せっかくだから、
ここからは歌えるだけ歌おう。でないと今まで練習した意味がないしな。
自分のペースでいい。
みんなと歌える最後の時だ。どうせなら俺も混ざりたい。こう思うのは自然じゃなかろうか。一人だけ仲間外れは寂しいもんな。
「い...つまで...も...絶える...こと...なく...」
想像以上にひっでえや。
あぁ、なんだろう。3年間の思い出が脳裏を過るようだ。
思えば早かったなぁ。
中学生になって、生活も変わったっけ。
それでも俺は続けてきたんだよな。
産まれてきて、ここまで大きくなって。
それでも気付いた時にあいつは俺の中にいる。勝負相手、ライバルみたいな友達は今までにもいた。
でも、そんな楽しいライバルじゃない。あいつはライバルというかもはや敵だな。
でもまぁあいつのお陰で体調が整ったりもするわけだ。
あいつはいつも俺の中にいる。
俺と共に永遠に、切っても切れない、
とても大切な敵役、友達、なのかもな。
...それはないな。
「今日...の日は...さよう...な...ら」
あんな考えして、結構余裕かましてたけど、
やっぱきつい...
まぁもう終わり。
今俺の中にいるあいつとはもうおさらばだ。
「また、会う、日まで」
よしっ!終わりだ!
このままトイレまでスーパーダッッシュウ!
うおらぁあああーー!!
.......「待って!」
え?誰だよこんな時に!
「呼び止めてごめんね、実は...ね」
なんだ?
あ、俺がちょっと気になってる子だ。
でも、あんま接点ないし、俺なんかしたか?
あぁもう!なんでもいいから早くしろ!
「好き...です。付き合ってください」
はぇ?こここ告白!?
こ、このタイミングでか!
素直にうれしい。
が、でももう、もう!
「あ、ありがとう、でも、実は今ちょっと、」
「やっぱりだめ、ですか」
あぁダメだ!
ものすごく寂しい顔をしている!
事情を説明しないとダメか、ダメなのか!
「実は今俺うん...」
ちょっと待て。
俺、好きな子に告白されて、話止めてまでして、うんこって言うのか。
言えねえよ。
恥ずかしいし、下品じゃないか。
でもこの状況どうするよ。
もう限界だぞ、くそっ!
「うん...?」
(男だろ。言ってやれ)
やっぱそうだよな、男気出さなな。
「うん。俺も好き。って言ったんだよ」
彼女は笑みをこぼしながら目をうるうるさせていた。喜びと落ち着きでのことだろう。
ちなみに俺は喜びと落ち着きで気が緩み、
実が顔を覗かせていた.......
「みたいなことになってたらまずかったかも」
俺がモテる男じゃなくてよかったぜ。
ふぅ、これで全て終わり。
苦しかったし辛かった、でも、
案外楽しんでいたのかもしれないな。
ようやくこの長い戦いに終止符が打てる。
とは言っても、またいずれ争いは起こる。
これは存在している限り絶対だ。
でも今は終わり。
全てを水に流そう。
「ありがとう。また、会う日まで」
あいつは永遠の友であり永遠の敵だ。 @P-mankaroten
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