第10話

酷く悪い気分だった。

彼女が、皐月が、俺にとっての邪魔者……

この男のために泣いている。


俺のことは「昔の知人」という目でしか見ないくせに。

どうしてこいつなんかのために泣くんだよ。


その感情は、かつて彼女に抱いたものに酷く似ていた。


黒くて、ドロドロして、べたべたして、まとわりつくような……


そういえば、学生時代俺を動かしたのもこの感情だったか


彼女をじぶんだけのものにしたい。

支配したい。

自分だけが壊したい。

……


醜すぎる感情が頭の中を埋め尽くした。

あぁ今すぐ君を

周りにいる人間どもをすべて消して

俺だけが泣かせて

繋いで







「……日渡君。」

葬式が終わり、帰る途中後ろから呼び止められた。

「皐月……?どうしたんだ?」

彼女は酷く暗い顔をしていた。

なにか秘密を抱えたような、考えているような。


それを全て暴きたい。俺に隠し事なんて許さない。


……時計を見ると午後11時。今日一日がもう終わる時間だが、明日には会社がある。立場上休むことができない。

……だけど

「なあ皐月」

彼女は俺を恐れているのだろうか。びくっと肩を震わせてから

「な、なに?」

と言った。

そんな目で俺を見ないで欲しい。

でも彼女はきっと鋭い。

「……今日どこかに一緒に泊まっていかないか?」

ここは東京から離れた土地のため、今から帰ると寝る時間がもうほとんどない。

ならば出張として今日泊まっていこうと思った。都合よくこの場でする仕事も持っている。

「……いいよ。」

それは何を意味するのかも少しは彼女は勘づいていたのだろう。それでも彼女は躊躇いつつも了承した。

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朱のネオンライト 真彩 @maimatu821

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