第9話

皐月 瑞桜

拓也君のお葬式の途中、ずっとぼやけた視界の中、彼の遺影だけを見つめていた。


どうして

あいたい

ねぇ、お願い


その笑顔だけはあの頃と何も変わらなくて。

最期の彼の有様なんてきっと誰も想像できないだろう。


彼ーー……拓也君は私とずっと学生時代はお付き合い、それからのあの事件のせいで付き合い続けることは叶わなかったけど、今もでも良い友人として私のそばにいてくれた人だった。


私は、彼のことが大好きで、多分また恋人になってほしかったと思っていた。


死因は……首吊りだと聞いた。

彼の友人が連絡がつかないため、様子を見に行くと……


「う、うわぁあぁあん……っ」


突然涙が溢れて止まらなくなった。

もう一度笑って

もう1度私と話して

お気に入りの本屋さん、また一緒に行こうよ


周りの人も心配をしてくれ、寄り添いながら慰めてくれている中、ふと思った


そういえば彼は最期の日の前日に


「あいつらの……笑い声が……ずっと今でも消えないんだ……怖い……なぁ……瑞桜。」



私との電話で、彼にしては珍しい泣きそうな声で言っていなかったか。


あの事件が、中学生時代のあのことなのだとしたら、


疑いたくはないが私は日渡君に、



「……真実を聞かなきゃいけない。」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る