蝉の声

 穴馬の蝉は、陽射しがあったかくなると、いっせいに鳴き出す。


 最初は、五月の終わり。

 クマゼミ。

 数は少ないが、じゃんじゃん鳴く。

 松の木のやにを食べに来て、ぎゃうんぎゃうんぎゃうんと鳴く。

 じゃんじゃん、ぎゃうんぎゃうんぎゃうん。

 しつこく鳴く。

 最初は、珍しがってた子どもたちも、しまいには、うんざりする。


「じゃんじゃん、ぎゃうんぎゃうん、どやかましいわ」


 怒鳴り散らして、蝉をがっしとつかまえて、


「とった、とった」


 と、ひとしきりはやしたててから、とったのを放す。


 それが、初夏の遊び。



 夏。

 穴馬の蝉は、くり、なら、ぶな、広葉樹に来る。


 七月の半ばになると、ヒグラシが、山のあちこちで呼び交わす。

 カナカナカナ、カナカナカナ。

 じっと聞いてると、寂しくなる。


 チイチイゼミは、チィーーーーっと、小さく鳴いていた。


 ミンミンゼミが、みんみんみんみん、聞こえ出すと、暑くてかなわんようになる。

 飛んでく時に、しっこしてく。

 手をさしだして、よけた。

 

 ツクツクボウシは、いなかった。


 お盆の前頃になると、アブラゼミが、じぃー、じぃー、と鳴き出す。

 いかにも暑い鳴き方。


 夏の終わりになると、アブラゼミが死んで、たくさんあちこちに落ちていた。

 落ちてるのを見ると、ちびんと、かわいそうな気がした。



 三昧さんまいの煙が、ぽーっ、と空に伸びてった日。


 学校の帰り道。


 弱って、ぽとっ、と落ちてきた蝉が、しばらく道で動いてるのを見てたら、どもこもならんほど、かわいそうになった。


 感傷に浸っとったんだと、後になって知った。


 小学校の高学年のころ、そういう年ごろになった。





追記

 語句の意味

三昧さんまい」火葬場





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