第7話
君という永遠が僕として
ラベンダームーン
芸術はすべて
神と共に創り上げる。
その神聖な輝きに引き寄せられ
ガイルはスケートリンクにいた。
彼女は風を呼ぶ。
時に青く蒼く切り裂き、
時に紅く揺らめき
時に薄紫色にそよぐ。
神の愛し子。
リンクに彼女が描くトレースは
愛以外にはない。
彼女の吐く息。
その吐く息のように
彼女は捧げ続ける。
愛を、夢を。
しかし、
彼女は自分が人を幸せに
することが出来るのだろうか、
と密かに思い悩んでいた。
と同時に穏やかな幸せな
愛にいつか巡り会いたいと
思っていた。
自分は頑固でワガママだ、と、
取材に彼女はそう何度か答えていた。
ひとつのことをやり抜く強さ、
一線で活躍するには不可欠な
頑固さ。
だが彼女はそんなかつての
自分がたくさんの人を傷つけたの
ではないか、と考えていた。
それは優しさゆえの幻想の
罪悪感であった。
家族の儚さ、壊れ失った
ものが大きいほど
手にしたい気持ちは強く
けれど手にすると壊れてしまう
かもしれない恐怖に揺れる。
ならばひとりの方がいいのかも
しれない。
もしすべてを変えてくれる
すべてを忘れさせてくれる
存在に出会えたなら。
きっと、その時は。
時代のスターであった彼女の
その運命。
担う役割において
家族は空中分解になった。
しかし
深き絆を信じる心と
慈しみにより修復された。
彼女は光と影をよく知っていた。
自分が光であるなら必ず影
を産み出す。知らず知らずに
影の存在が増えていく。
自分は光、たくさんの影を
産み出してきた。ならば
この先、何年かは捧げる人生で
なければならない。
彼女の想いをガイルは
目を閉じて受け止めた。
才能と運命は彼女を愛した。
愛した分だけ悲しみとやるせなさ
をも混ざった。
幼き無邪気な子供の彼女が
星屑を手にいっぱいすくい上げた
時、苦しみと哀しみのカケラも
あった。
鮮やかに彼女が滑る。
ゆるやかな愛を魅せる。
そして内側の世界を感じながら
ふと、手を天へ差し出す。
その優雅な手を神はいつも
握りしめていた。
リンクサイドには
彼女を見つめる存在があった。
彼は幼い頃からずっと彼女を
見ていた。
お互いの目指す道がすれ違う
時、またお互いを近く感じない
時もあったが
ふと想いが溢れ出て
清らかに流れる水のように
彼女に永遠を感じた。
そして彼女もまた、
彼に永遠を感じた。
永遠という甘美で
果てた心を救うような響き。
事実、
永遠はすぐそこにあるのだ。
月を染める物語〜ラズベリームーン、ラベンダームーン、ブルームーン〜 蓮弥 @murasakisumile
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