第11話 道玄坂の魔女 霜鳥晶

Chapter B-04


……晶さん?

はい?

もしかして晶さん、女の子が好きな人種だったりする?

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小姫さんが走り去ってからすぐ、私はセレクトさんの部屋に戻って今回の出来事の報告をしていた。


「成る程ね……ありがとう」


花鶏さんがいないのでお茶を沸かそうとしたとき、セレクトさんは「彼女の煎れてくれたお茶以外はいい」ということで烏龍茶(コンビニブランド)を飲んでいる。


「人の意識に強い影響……痛みすら感じさせる幻覚を使う死人というのは前例が無かった事ではないよ」

「そうなんですか?」

「ああ、昨今ではあまり残酷な死に方をするというのはなくなったけれど、昔の人は人間として扱われないような殺され方をしたものさ」


あまりにも普通に、平然と言ってのけた言葉がどんなものか想像ができず、唾を飲む。


「異端審問、魔女狩り、拷問、戦争……どれも晶さんの想像がつかない程の苦痛がある。そんな苦しみを持って死人になると、自分が体験した事をそのまま相手に見せるなんて事をする」

「それって……つまり」

「あの死人は犯人に「そういう殺され方」をされたんだろうね……快楽殺人者っていうのはいつの時代にもいるもんだ」


内蔵に毒を注ぎ込まれ、焼けた鉄で攪拌されたような苦しみを思い出すと背筋がぞくりとした。


「晶さん、今回の件は本当に偶然だった……だから気に病む必要はないよ」

「はい……」

「ところで、眼鏡は役に立ったみたいだね」

「あ、そうです! この眼鏡って霊視と幻覚を見破るものなんですか?」


眼鏡を外してみても見える視界に変わった所はない。


「手帳に書いたけれどね。晶さん、君はこの世にあらざるモノや力を見て、その本質を見破る……つまりあるべき姿に戻す力をもっている」

「本質を見破る?」

「まぁ、幻覚が判りやすいかな……あとは」

「セレクトさん!」


思わず声をあげてセレクトさんの言葉を遮る。


「わたし、この能力を自分で見定めていこうと思います」

「そっか……でも、眼鏡の説明はさせておくれよ」


セレクトさんが眼鏡を取ると、掛けてみる。


「晶さんの目……「心眼」の弱点はその対象に同期をあわせるまでの時間が掛かる事なんだ」

「同期? それって私が見ようとするとき、目を開いたり閉じたりしてると見えてくるって奴ですか?」


スケアクロウの時も、今日の死人も、確かに色々な見え方を探していたと思う。


「そう、遠視や近眼みたいなものさ。それを矯正するのがその眼鏡。掛ければすぐに心眼が使える」


セレクトさんが眼鏡を外して私に渡す。


「魔女に持ち込まれる厄介毎では晶さんの心眼がとても強い武器になる……それに時間停止の使い方も判ってきたんじゃない?」

「はい」

「これからも、晶さんの力には期待しています……道玄坂の魔女さん」

「はいっ!!」


懐中時計のネジを回すのを忘れていたので取り出すと、終電が終わっていた。


「しまったぁ……どうしようかな」

「ふふっ、私が送っていくよ」

「へ?」


上にあがると、セレクトさんが小姫さんのスクーターを引っ張り出してきた。


「あれ? そういえば小姫さん、今日は別のバイクに乗っていましたよ」

「あれは車じゃ間に合わないっていうから、途中で見かけたバイク屋の試乗車を大金で黙らせて買ったらしいよ」

「へ? へぇぇぇ……」

「さぁて……乗るのは久しぶりだけれど、どうかな?」


セレクトさんが数回ペダルを蹴ると、古いスクーターのエンジンが勢いよく回り始めた。


「よーし」

「セレクトさん、免許……もってます? よね?」

「失礼な、ちゃんと国際免許は持っているよ」


自分専用らしいゴーグルつきのヘルメットを被って、厚手の革製手袋をする。

こんな事を言っては失礼だけれど、このバイクは花鶏さんよりもセレクトさんの方が似合っていると思う。


「私は安全運転だからね、ゆっくり走るよ……ああ、腰に手を回して」

「はい、お願いします」

「きゃぁっ、そこ違うからっ! もっと下ぁ!」

「すみませんっ!!」


どうやら胸を触ったらしい……なんというか、ゆったりとした服から「それなりに」大きいとは思ってました。

でも、触って判った……予想より大きい。

それにいつも眠そうな声をしているセレクトさんの、女の子らしい声を初めて聞いた気がする。

お腹に回した腕を少しだけ上にあげると、たゆんとした感触が伝わる。すごく柔らかい……悔しいぐらいに巨乳。


「……晶さん?」

「はい?」

「もしかして晶さん、女の子が好きな人種だったりする?」


表情が見えないセレクトさんの声が心なしか怯えているように感じ、慌てて腕を下げて腰を掴む。


「い、いえ、ソンナコトアリマセンヨ」

「そう? ならいいけど……もしかしてって思ったから」

「御免なさい、ちょっとした出来心と、女としての嫉妬です」

「そう? じゃぁ行くよ」


バイクが安全速度で走っている間、私は一つ気づいてしまった。

セレクトさん、ブラ付けてない。

道玄坂の魔女として、謎めいた彼女の秘密を一つ、知ってしまった。

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道玄坂には魔女がいる~霜鳥晶の事件簿~ 北川由貴 @mitomi_n

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