89 萌えは死しても、もの留む(後編)

 かつてこの世界には1人の女性活動家がいた。女性の権利を求めるべく彼女は様々な行動を起こしてきた。そんな彼女が偶然あるデザイナーが制作した服を着たことから、この服は産声を上げたと言われている。


 その後多くの場所に広まっていき、やがて日本にも取り入れられていった。当初はそれほど受け入れられていなかったが、いつしかあるのが当たり前となっていった。格別不思議な話ではない、日本という国の歴史を紐解けばこれに近い事例は幾らでも出てくるのだから。


 だが時代の流れは無情であった。その衣服は諸問題から徐々に衰退していき、遂に滅びた。


 正確に言えば完全なる消滅ではなかった。しかし巷に溢れていた過去と比較した場合、圧倒的な減少となった現在。生物学の定義である絶滅を当て嵌めることに、異議を挟むものはいないであろう。


 けれども幼女はそんな世界に抗った。いや、より正確に言えば抗いたかった。


 瞬間移動を用い、遠近何処へも行き捜索の幅を広げた。噂を聞けばそこへ移動した。


「きっとある! まだある! 何処かに!」


 まるで英雄譚に出てくる主人公の様に諦めが悪く、幼女は探索の範囲を広げた。

 だがそんな行動は、無精卵を温めるにも似た行いでしかなかった。雄常の家に転がり込んでから調査を続けるも、見付けることはついぞ叶わなかった。多分に無念であったが、かつての主要生息場所であった教育現場からは絶滅と認定するしかなかった。


 幼女はポケットからあるものを取り出した。

 探し求めていたものの、それをは骸。地味な一色にして最低限度の布面積しか持たぬ服。しかしながら、多くの子供も大人も世話となってきた服。


 だから幼女は持っているそれを床に置き、そっと手を合わせることにした。特別不思議には感じられなかった。幼女にしてみると、それは供養でもあり、葬式でもあり、別れであったのだから。








雄常「……夕御飯の準備を終えて戻ってきたら萌神がブルマ拝んでたなにこれ怖い」

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