…惨話

 それから…俺は思うが儘に悪意を撒き散らした。

 都度、金を渡しに男は現れた。

「オマエは悪魔以上に働き者だよ…」

 皮肉と共に男が消えた日もあった。


 俺はアパートを引き払って、全国のホテルを転々としていた。

 以前勤めていた会社の従業員は、ほとんど呪い尽くした。

 支店は閉鎖され…しばらくして会社は潰れた。


 現金だけはアタッシュケースに入りきれないほどにある。

 もう…足を踏まれただけで呪うことに慣れてしまった。


 俺が他人と接触するのは、呪うため…。

 恋なんてできない。

 愛なんてもてない。


 俺は、他人を呪うためだけに生きている。

 未だに鬱病は治らない。

 むしろ悪化している気さえする。


「どうだ?金が有り余るほどに呪い続けて楽しいだろ、オマエに関わるとロクな目に会わない、そんな噂がたつと土地を変えて、大切な人には近づけない、孤独な5年間…ん?クスリ増えてないか?オマエ…ん?クハハハハ…」


「殺してくれよ…もう充分だろ…疲れたんだよ…」

「オマエが契約したんだぞ、オマエが気に入らない相手は身体のパーツを無くす…指だったり…耳だったり…」

「少しイラついただけで、その相手の指が飛ぶんだぞ!! そんな光景耐えられるか!! もう部屋から出ることすらできない!! 少し料理が口に合わないと思っただけで、コックの指が…飛んだ…もう…もう…沢山なんだ…」

「ん~…そう言われてもな~…イラッとするなよ…短気なんじゃないか?オマエ」

「俺じゃない…オマエの歯止めが利かなくなっているんだ…オマエのー!!」


 掴みかかろうとして…足を踏み外した…俺はベランダから地面に堕ちた。

 15階から…真っ逆さまに…。


「もう…意識は戻らないでしょう…幸い、お金は有りますから延命処置は問題ないのですが…御期待はされないでください」

「いえ…もう…この子を楽にしてあげてください…先生…」


「クハハハ…上手く金が手に入ったな、えっ」

 俺の母親の前に、男が立つ。

 身内の不幸で大金が手に入る…契約どおり。

「額に応じて近しい奴が死んでいく…ついに子供に手を出すとはね」

「いいの…どうせ何十年も会ってない息子だし…いてもいなくても変わらないんだから」

「アンタもロクな死に方しないね…悪魔の俺が保障するよ」


 呪いは連鎖する。

 人は呪いで繋がっている。

「悪魔に金は要らない…汚れた魂があればいい…呪いは金と一緒に世界を巡るか…ハハハハ…」

 真っ赤な悪魔の眼下に、黒い鎖が張り巡らされた街並みが広がっていた。

「あの金、今度は誰に運ぼうか…」

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眼下に広がる街 桜雪 @sakurayuki

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