わたしは魔王??ここは魔王??
ep.1 おっさんは割と!
「助けてください江藤さん、やっぱりもうダメです」
「何言ってんですか三沢先生、ちゃんと書いてくださいよ原稿」
「いや、どう足掻いても最初の一文が魔王様は怒っておりますになっちゃうんですよ!?僕呪われてしまったんです。祟りだ、祟り」
平日の昼間も賑わう東京都世田谷区のカフェで男女2人が何やら仕事の会話をしている。片方は若くてかけた眼鏡に映る瞳がキリッとしたエリート感漂うスーツ姿の女性、もう1人は言い方は悪いが冷や汗だらだらの30近いもさっとしたおっさんである。
「ですから三沢先生『ミミルンの恋占いは間違ってますか!?』第19巻の第4章、早く書き上げて下さらないと出版社側が困るんです。だから言い訳を出し尽くして祟りとか魔王とか意味不明な言い訳する前にさっさと書いちゃって下さい。一応あなたの才能は折り紙つきと言われているらしいので」
「ほんと江藤さんて、僕に冷たいよね」
「冷たいのではなく冷静とおっしゃって下さい。でないと図版の角でその頭を全力ではたきます」
「いや、それはちょっと…パワハラ?」
「何を言ってるのか理解できません。この状況を作り出した先生の方が編集者である私に対するパワハラです、違いますか?」
「あ、ええと…そうだね、うん」
読者の皆には聞いてほしい。
僕は本当に書けなくなってしまったんだ!
それは1週間前のこと-
「フンフフーン♪今日は不良女子高生ミチコちゃんがとうとう嫌がってたミミルンの恋占いで暴走してカズオとの恋愛活劇がクライマーックス!になる『ミミルンの恋占いは間違ってますか!?』の第4章を書くぞ書くぞ、頑張るぞい!っと」
そう言って三沢 光彦は自室にあるデスクに座り込んでパソコンを立ち上げた。
パソコンの原稿フォルダを開く。
「うんうん、順調に来てる。プロットと少しずれそうだけど、そこはいつも通りで問題無いか…よし」
4章と記されたまっさらなファイルを開きキーを打ち込む。
先ずは、えーっと。
「ミミルンは膝から崩れ落ちた、傷だらけのミミルンは……あれ?」
画面には-
魔王様は怒っております。の一文。
「ん?なんだ?」
どうせ変換ミスか何かだろ…
消してからもう一度。
「ミミルンは、膝から…崩れ…ええ?」
既に魔王様は怒っております。の一文。
「何だこれ、怖いな。ユーチューブにでも上げとく用意だけしとこう、はい」
キーを弾いたが、やはり。
魔王様は怒っております。の一文。
「いやいや、何かヤバイなこれ。笑えなくなってきたぞ」
三沢は別に持っていた引き出しの中にあるノートパソコンを手にとった。
同じく打ち込んでみる。
「ミミルンは膝から崩れ落ちた。よし、打てるぞ」
そのままノートパソコンを机に置いた。そして何気なく作業を再開した。
次の朝、起きて布団から這い出た三沢はノートパソコンを開いた。
「げっ!な、なんじゃこりゃああああああ!!!?」
ノートパソコンに映し出されたテキストが全て-魔王様は怒っております。-の一文で埋め尽くされているではないか。
これは何か仕組まれているに違いないと三沢はその日から防犯関係の会社やセキュリティ会社に片っ端から電話を入れたがどうにも問題は1つも無いらしい。
そして今日に至る。
「江藤さん!本当なんですよ、パソコン壊れたとかじゃないんです!呪いですよ呪い!」
「白い服の背が高くて髪の毛長いあなたにしか見えない女の人が見えますか?」
「え?…いいえ」
「じゃあ猫の鳴き真似をする白い男の子は?」
「いいえ」
「ケータイの着信音が急に呪われそうなやつに変わったりしてません?まあ、三沢先生は着信ナシが当たり前ですね」
「いいえ…あの江藤さ-」
「キスしそうな白無垢のメタルバンド好きですか?」
「あ、最後だけ仲間はずれだね」
「じゃあ大丈夫です。お代は私が払っておくので、私はこれで」
「いやちょっとお!待ってよ江藤さーん」
世田谷区のカフェに置いていかれたラノベ作家のおっさんは割と恋愛青春ものを書きたいらしい。
そりゃそうだろ!魔王なんて書いたことないわ!!
割と魔王はポジティブです! フーテンコロリ @iidanoi
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