AM6:00


 いつかの恋人が言っていた。

「夜は暗いからこわい」と。


 もちろん俺は「俺が隣に居てもこわい?」なんて手をにぎりながら言った。

 でも模範解答は分かっても、怖いと言う気持ちは正直俺にはよく分からない。国語教育の限界がここにあるんだろう。


 俺にとって夜とは、都合のいいものだ。なぜかって、何を言っても包み込んでくれるから。

 あの時抱いた気持ちだって、澄んだ夜に一人で呑んでつい出てしまう告白のセリフだって、夜は全部を溶かしてくれる。一晩中あの人のことを考えていられる夜は、心地良い。朝なんてこなければいいのにとさえ思う。


 もし気持ちを伝えたらってのも、考えなかったわけじゃない。

 でも言うとなにかしら関係は変わってしまうだろう。俺はそれを望んじゃいなかった。

 あの日の出来事は、一日だけの特別なもので、その特別さを俺は大事にしたかった。でも何もしなかったからこそ、忘れられないのかもしれない。


 そんな気持ちに浸っていたくても、誰にでも朝は来る。

 気づくといつも起きる時間になっていた。平日だから普通に授業の日だ。

 さて、現実に戻らなければ。

 夜にきていたラインにやっと既読を付けて、一睡もしていないのだけれど「おはよう。ごめん寝落ちしてた」なんて言葉を送った。


 きっと数分後に既読が付くことだろう。また数時間放置するのは決まっているのだが。


 そうして今日も、いつもと変わらない1日がはじまる。



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朝が来るまでずっと 戸賀瀬羊 @togase

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