第10話 告白
「来人さん。今日うちに来てくれませんか?」
学校の帰り道、いつものように二人で並んで歩いていたとき、ルカさんが尋ねてきた。
「うん、いいよ。一度家に戻ってからお邪魔するよ」
「はい。お待ちしています」
前にルカさんから『お父さんは推理小説が大好きで、特に古典作品がたくさんあるから見に来て』と言われていたし、これまでルカさんの家に入ったことがなかったので少し緊張する。
最近ではルカさんがオレの家に来て料理するだけでなく、掃除や洗濯までするようになり、申し訳ない気持ちになるが『私が好きでやっているのですから、来人さんは気にしないでください』と笑顔を向けられると何も言えなくなる。
ルカさんの家の前で別れ、自分の家に入るとすぐに着替える。
もしかしたら、ルカさんの両親に逢うかもしれないと思い、ちょっとだけよそ行きの服装にした。
妹の友里は今日、文芸部の部活があるので帰りが少し遅くなるはずだから、帰ってから夕食を用意しても間に合うだろう。
少し気合を入れてルカさんの家に向かった。
ルカさんの家の呼び鈴を押すとすぐに玄関のドアが開かれた。
「いらっしゃいませ」
今日のルカさんは白のブラウスの上にピンクのカーディガン、デニムのミニスカートという組合せ。
本当にこの人は何を着せても似合うなあ。
そんなことを考えていると、ルカさんは少し顔を赤くして、「へ、変ですか?」と聞いてきた。
「い、いや似合うよ。うん可愛い」
オレの心からの褒め言葉にルカさんはさらに真っ赤になった。
「あ、ありがとうございます。わ、私の服のことはもういいですから、早く入ってください」
「あ、うん。お邪魔します」
照れ隠しなのか、ちょっと怒った口調のルカさんに腕を引っ張られて、そのままリビングへと通された。
するとそこには、ルカさんの両親と思しき二人がオレの目に映った。
「やあ、神馬来人くんだね。私はルカの父親の勝彦です。いつもルカがお世話になっているようだね」
ソファから腰を上げて笑顔を浮かべる。
「い、いえ、こちらこそ。その、ご迷惑をお掛けしております」
オレが恐縮して頭を下げると、お母さんの方も口を開いた。
「いえいえ、神馬くんのお陰でルカがこんなに明るくなって嬉しいわ。これかもよろしくお願いします」
「ちょっとお母さん!?」
慌ててフォローに入るルカさん。
「だって、この子ったらここに引っ越してきてから毎日楽しいって、あなたの話ばっかり聞かされるのよ」
「ちょ、何言ってるのよ、もう!」
おほほ、と笑うお母さんと顔を赤くして文句を言うルカさん。こうやって見ると二人がよく似ていることに気付く。まさに美人母子という感じ。
「まあ、ルカが君のことを気に入ってるようだし、私たちも君なら安心だ。ルカを大事にしてやってくれ」
「は、はい」
「お父さんまで!? もう……知らない!」
拗ねたように頬を膨らませるルカさんは可愛くて、ずっと見ていたいけど、何だか引き返すことが出来ない状況のような気がする。
勧められるままにソファに腰かけて、オレの話や学校でのルカさんの様子などをいろいろな話をした。
ご両親は既にオレに親がいないことをルカさんから聞いていたらしく、一時は沈痛な表情を浮かべていたが、オレがルカさんの学校での活躍ぶりを話題にすると興味津々で聞いてくれた。
ときどきルカさんから横やりが入ったけど。
一時間ほど会話しているとルカさんが「続きは私の部屋で話しましょう」と言ってきた。
オレは女の子の部屋に入るなんてと躊躇していると、お母さんは「あらあら、仲がいいわね」と微笑んだ。
それじゃ行きましょう、と再びルカさんに腕を引っ張られるように2階へ上がる。
自作と思われる『ルカの部屋』と書かれたプレートの下がったドアを開けて部屋に入った。
女性の部屋としては妹の部屋しか入ったことがないオレは緊張したけど、部屋の中はカラフルな小物や本などがきちんと整理された、いかにもルカさんらしい雰囲気だ。
「じゃあ、来人さんはここに座ってください」
ルカさんは二人分の紅茶が入ったティーカップをテーブルの上に置いてから、その前に置かれたクッションをポンポンと叩く。
「お邪魔します」とオレが腰を下ろすと、ルカさんが正面に座った。
「今日、来人さんを呼んだのは私の気持ちを知ってほしかったからです」
「えっ、うん……」
ルカさんの気持ち……オレは『十分伝わっているよ』と言おうとしたけど、ルカさんの真剣な表情を見て口にするのを止めた。
「私は……来人さんが好きです。これは本当の気持ちです」
「……うん」
「でも、もしかしたら来人さんにとってはあまりに突然すぎて『どうしてオレを?』と思われてるかもしれない。そう考えたら急に不安になったんです」
「……」
「前に友里さんから来人さんのどこを気に入ったのか、と聞かれたことがありましたよね。そのときは来人さんの優しい目に惹かれて一目惚れした、と答えました」
ルカさんは目の前に置かれたティーカップに視線を向けて少しうつむき加減で話し続ける。
「それは、来人さんが私の大好きだった人と同じ目を、優しさの中に悲しみを湛えた目をしていたからです」
「え……」
「私の大好きだった人……それはあなたのお母様です」
「オレの母さん?……」
オレはルカさんの話をすぐに理解することが出来なかった。
何でルカさんの話に母さんが出てくるのだろうか? そもそも母さんとルカさんが逢ったことがあるのか?
オレが困惑しているのに気付いたルカさんはオレを真っすぐに見て言う。
「来人さんは覚えてませんか? 私と初めて逢ったときのこと」
初めて逢ったのは……そうだ、思い出した。ルカさんが引っ越してくる少し前にオレの家の前で逢っていたんだ。
「そう言えば、あのときルカはオレの母さんに挨拶をした、って言ってた……」
「はい。来人さんの家にお邪魔していろいろとお話ししました」
「でも、母さんはもう……」
「それを聞いて私も息が止まるほど驚きました。でも本当なんです」
その後、ルカさんがそのときの話、母さんと交わした話を説明してくれた。
―――これまで自分の容姿のせいで辛い目に遭ってきたこと。
―――オレの母さんにその悩みを打ち明けると優しく励ましてくれて大好きになったこと。
―――その母さんがオレと一緒になってほしいと口にしたこと。
―――でも、母さんが既にこの世にいないことに衝撃を受けたこと。
―――そして、母さんと同じ目をしたオレに出逢い、惹かれたこと。
「きっと、お母様はあなたと友里さんのことが気がかりだったんですね。今なら、私を見送るときに見せたあの悲しい目の意味が分かります。そして……」
ルカさんはオレを見つめる。
「来人さんがお母様と同じ目をしている理由も」
「ルカ……」
「私はお母様にも来人さんにも二度と悲しい目をして欲しくありません。ですから私は……」
ルカさんは潤んだ目でオレのそばにきて囁いた。
「あなたとずっと一緒にいます」
オレとチートな彼女の恋の話 魔仁阿苦 @kof
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