第192話 そして退院

 携帯も取りあげられて無い。


 通信手段は備え付けられた公衆電話だけだ。僕は自分の今ある立場を考え冷静になる様にした。おとなしく職員の言う事を聞き、きちんと出された薬を飲めば退院が早くなる事は学習済みだ。 


 寝る前の薬が合わないのでは無いか?と疑問を感じた。


 こんなに幻覚を見るのは初めてだ。主治医に強く訴え、薬を変えてもらいしばらくすると幻覚を見なくなった。


 病棟では話し相手がいなくて寂しい思いをした。


 精神病院では、外泊をして外での生活を訓練してから退院する運びとなる。僕も外泊の許可が出た。


 入院して六か月が経とうとしていた。退院が決まり、兄が迎えに来てくれた。 


 幹部の佐藤は、結婚して子供が出来たと兄から教えてもらった。


退院してしばらく経つと、僕は日の出屋に復帰したいと言い出した。


毎日二時間、お弁当箱を入れるバット洗いを兄から命じられた。


 今の僕にはこんなバット洗いしか任せられないと言われた。僕は三日もすると日の出屋に行かなくなった。


 兄は僕に「お前を日の出屋に復帰させた事を後悔する。外の荒波にもまれ自立して一人で生きてみろ!そうすれば人の有り難さや優しさが分かるだろう。今までの傲慢な生き方を振り返る良い機会だ」とメールを送ってきた。


 兄は更に「俺は日の出屋に六十五歳までしかいない。それまでに会社を百億円企業にして、十人の社長を育てる」と宣言した。

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