第187話 兄の奴隷?

 兄とは二十歳の頃、一度だけ取っ組み合いの喧嘩をした事がある。


 店の仕事をサボり車の中で居眠りをしている兄に我慢ならなくなり、車の窓を叩き「おい!何しているのだ!」と僕からけしかけた。


 「何をコノヤロー」と勢いよく車から飛び出し、取っ組み合いになった。しかし殴り合いにはならなかった。兄が手を出せば僕も応戦しただろう。


 僕はこの時、悔しくて泣いていた。


 僕の自慢の兄がサボって寝ているなど考えたく無かった。兄弟だから分かるが兄は物凄く短気で、すぐに物にあたる悪い癖がある。


 僕が悪く無くても、兄をおだてて話を終わらせる事はよくある。百パーセント兄の言う事を聞いてきたお蔭で、僕は上手くやってこられたのだ。ただの一度も兄のゴーサインを外した事が無い。


 お給料にしても、僕は兄が幾ら日の出屋から取っているのか知らない。僕が兄のお給料を気にするような男だったら、この関係はとっくに破たんしているだろう。


 僕と兄は当たり前だが主従関係がはっきりしている。


 何時だか先輩の澤田さんに「昇って兄貴の奴隷だよな」と言われた事がある。僕は深く傷つき澤田さんと喧嘩になりかけた。


 この時も僕は我慢した。


 僕には楽しい場を壊したく無いという理性が働く様になっている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る