第四章 普通の生活への憧れ

第109話 営業復活

 羽田コースに体が慣れると、兄に相談して配達しながら営業をする事にした。旧整備場のエリアをくまなく営業した。


 営業の成果はすぐに現れた。一か月後には、三百食を超えていた。配達をアルバイトに引き継ぎ、営業活動を続けた。


 精神科の薬は、寝る前の二錠だけになっていた。


 調子の出て来た僕は、営業の達成感を思い出していた。羽田コースは四百食を超えた。次は、新整備場エリアの営業に取り組んだ。セキュリティが厳しかったが、僕は粘り強く交渉した。


 ある時、某航空会社の総務にクレームで呼ばれた。空港エリアの各ビルには、社員食堂が入っている。その中の一つのビルに集中営業をかけていた。 


 ワンコインセールと銘打ち、一食百円で三日間試食してもらい、一日三百食の注文を取っていた。


 社員食堂が、ガラガラに空いてしまったのだ。社員食堂は、見込みで商品を準備する。残飯の山に、頭を抱えてしまったのだ。その航空会社から「これ以上営業をするなら出入りを禁止する」そう宣告され、僕は営業をセーブした。


 違うビルに、某航空会社の本社が入っていた。このビルには喫茶店が入っていて、昼食のお弁当も販売していた。僕は粘り強く総務課に営業を仕掛け、販売を許可された。


 十五階建てのビルは、競争相手が無く入れ食い状態だった。このビルだけで、三百食の注文を受ける様になった。空港コースと名付け、五百食を超えるドル箱コースに成長した。


 この噂は、ターミナルビルにいる総務課の耳に入った。僕が以前、営業を試みて断念した所だ。当たり前だが、セキュリティが異常に厳しい。入門の手続きに時間がかかるのと、廊下を延々と歩かなければ行けなかった。


 僕が「ルートが無く配達出来ません」と言うと、担当の女性がルートなんて作れば良いではないかと言う。


 「全フロアの各部署に私が声をかけるので、自由に営業をかけて下さい」と強く迫られた。


僕は一時間半、この担当者に説得された。


 僕は折れて「わかりました。やるからには全力で、美味しいお弁当を提供させて頂きます。ご協力よろしくお願いします」と返事をした。


 これを機に、ビッグバードと名付けたコースが誕生した。すぐに三百食のコースになった。


 僕は自分が精神障害者だと言う事を忘れていた。 

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