第108話 過呼吸

 兄は僕に「毎朝迎えに行くから仕事の準備をして待て」と言った。


 それから毎日、僕のアパートへ迎えに来て、日の出屋に連れていってくれた。調理の仕事をして、太陽グループから紹介された、羽田空港のコースを配達した。


 食数は百二十食しか無く、十時半には配達が終わった。一か月は、リハビリのつもりで頑張った。煙草は、完全に止めていた。 


 二十代前半は、格好付けて一本二百円もする葉巻を吸っていた。


 当時、日の出屋は事務所と配達の連絡は、無線を使いやり取りしていた。入院前、僕はその中で、調整という役割をしていた。


 弁当の配達は、全車見込みの食数を積み出発していた。それを事務所が数を出し、各コースのポイントに弁当が余れば降ろし、足りない場合は不足分を補充した。 


 そして全コースの数が出ると、僕が計算して事務所に無線で追加する弁当と、ライスの数を伝え製造してもらう。


 僕が考えて作ったこの調整コースは、全コースを知らなければ出来ない特殊なコースで、出来るのは僕だけだった。


 僕が入院していなくなると、兄はこの調整コースを見直した。全ての仕事を、事務所で出来る様にした。


 僕がいた時は、全て僕が指示を出していた。それを変え、事務所で残数を計算して、調整コースの人が指示された弁当を各コースのポイントに置いたり、拾ったりして、追加の製造食数も事務所が調理場に伝えた。事務所の仕事は増えたがベストだと思った。


 僕が調整コースに出ていた時、葉巻の他に普通の煙草も一日、一箱吸っていた。


 調整で客さんの前で待機していると、突然呼吸困難になり、お客さんに救急車を呼ぶ様に頼んだ。ストレスによる過呼吸だった。


 僕は、初めての事に恐怖でいた。意識が無くなり、死ぬと思った。


 兄はこれを聞き、無線車で僕の倒れた会社に向かった。事務員が無線で「今救急車が来て対応しています。専務は心臓が停止したようです」と言った。


 「昇は死んだのか?」


 兄は、手が震えたと言っていた。僕は生きている。救急車に兄が来て「大丈夫か」と声をかけて来た。


 念のためにと、病院に搬送された。過呼吸の発作が出た時の対策を教えてもらった。それと、葉巻と煙草を止める様に言われた。


 病状は気管支炎で、レントゲンを見ると影があると言われた。これを機に完全に煙草を止めた。

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