第96話 セミナー後の躁状態

 僕は兄と日の出屋を、日本一にする事を目標にあげた。


 日の出屋に戻ると、僕は張り切り過ぎていた。兄はセカンドステージに参加して留守だった。


 菊田専務にセミナーの話をした。太陽グループの悪い所をバンバン指摘し、このままじゃ太陽グループは駄目になるとまで言った。


 それが神谷会長の耳にはいった。突然部下を引き連れ、日の出屋の事務所に現れた。僕は電話中だったが、驚いて急いで電話を切り立ち上がると、事務員も何事かと僕につられて立ち上がった。


 「社長は出張で今留守です」僕が言うと「いいんだ。ちょっと工場見学して良い?」神谷会長は「今日の弁当ある?」と聞き、現場を見て回った。弁当を見せると「良い弁当だ」そう言うと帰って行った。


 僕が見送ると、神谷会長は一度振り返り会釈して車に乗り込んだ。神谷会長の車が見えなくなるまで立ち尽くしていた。 


 ほんの三十分くらいの出来事だった。菊田専務が神谷会長に話、どんな男なのか見に来たのだろう。


 兄がセカンドステージを終へ帰って来た。「良いセミナーだった。次はお前の番だ」笑顔で兄が言った。


 早くセカンドステージを体験したい。僕はこんなに気分が高揚したのは、生まれて初めてだった。従業員のミスも、笑顔で許せる様になっていた。


 啓発セミナーには危険もはらんでいる。それは躁状態になって現れる。僕は完全にハイになっていた。


 パートさんに的確に指示を出し、中国人の魏に店長をやれと言ったりした。魏は兄に泣きつき「店長の大役など出来ない。専務おかしい」と言った。


 日の出屋のみんなが心配して兄に訴えた。


 僕はそんな事お構い無しに兄に「十年後、美味しい弁当屋の紹介で、テレビに出て社長と握手しているのが見えるんだ」と言った。


 「握手でも何でもする、以前のお前に戻ってくれ!」


 泣きながら兄は訴えた。


 僕は日増しにエスカレートしていった。みんなが心配すればする程、僕はハイになった。


 兄が僕を車に乗せ、親父の住んでいるアパートへ連れて行った。


 車を止め兄が「俺は多くを望んでいない。日の出屋は二千食やれば十分だ。その中で利益を出し、給料を取れたら良いと思っている。お前の考えはどうだ?」


 そう聞かれ「それじゃ俺がいる意味がないんじゃないの?俺は高給取りになりたい。二人でやれば出来る」そう言うと、親父の待つアパートに向かった。

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