第89話 僕の初優勝

 この年、東新電気は不調でリーグ戦で負け入れ替え戦も敗れ四部に降格した。


 しかし翌年のリーグ戦でぶっちぎりの強さを発揮して四部で優勝。入れ替え戦も勝ち、三部に返り咲いた。


 祝賀会でヘッドコーチの臼倉さんが、次の公式戦にビールピッチャー一気飲み出来たらスタメンにすると言った。


 チャレンジするのは、僕や森などの控え選手だ。森は酒が弱いので棄権したが、僕はチャレンジした。


 みんなの前で、ビールを飲み始めると声援が送られた。僕がビールを飲みほすと、拍手が起きた。チャレンジに成功したのは、僕と先輩の二人だけだった。


 次の公式戦は、トーナメントの一回戦だ。約束通り僕と先輩はスタメンに起用された。相手が格下なので臼倉さんは遊んだのだろう。試合は楽勝だった。


 この年の東新電気は勢いがあった。川崎市民大会で勝ち抜き、決勝に進出した。決勝の相手は、いすゞ自動車だ。二メートル以上あるセンターが二人いた。


 臼倉さんは、僕をスタメンに起用した。僕は喜んで試合に出た。試合は大接戦になり、僕は途中でベンチに下がった。


 後半に入ると、僕の出番は無くベンチで声援を送る。一進一退の攻防が続く。僕は夢中になって大声を出した。


 試合終了のホイッスルがなる。結果は八十四対八十で、東新電気の優勝だ。


 僕は四得点をあげた。閉会式で賞状が渡された。僕にとって初優勝だ。スタメンに起用されたのは嬉しく、良い思い出になった。


 僕の都合で、試合に参加出来ない時が多く、臼倉さんに「昇はバスケットと仕事のどちらが大事なんだ」と聞かれ「仕事です」と即答して、ひんしゅくをかった事がある。


 試合に参加しても使ってもらえなくて、後輩が「何で昇さん試合に出して貰えないんですか?」と聞かれたことがあるが、臼倉さんの指示に従うしかない。


 嘘でもバスケットが一番だと言うべきだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る