第7話 兄の事

 兄の名は文彦という。


 僕はふみくんと呼んでいた。保育園時代から、一人の友達もいない僕の面倒を見て、毎日遊び相手になってくれた。


 手先が大変器用で、粘土で作る車は今にも走り出す感じで、ドアを開閉出来るようにしたり、ボンネットが開きそこにエンジンを組み込んだりした。


 性格も優しく温厚で明るく、誰とでも仲良く接する事ができ、とても懐の深い男だった。もの心つく時から兄に憧れていた。僕に一番影響を与えたのは兄だ。


 兄に比べ僕は内向的で、話すのが苦手でみつくちというコンプレックスに苦しんでいた。食堂の仕事も、皿洗いがメインの僕に比べ、兄はお客さんのオーダーを取ったり、調理をしたりランクの上の仕事をしていた。


 日の出食堂も、焼肉をメニューに加えお客さんが戻って来た。焼肉のタレは、親父のオリジナルだが、とても濃厚でありピリッと辛みがきいて美味しく出来ていた。


 僕は、小学生だったが、夜二十一時まで皿洗いをした。


 毎週木曜日の定休日はお楽しみだ。親父の計らいで夕食は、焼肉食べ放題なのだ。カルビ、ロース、ホルモン、ミノ、レバー何でも好きなモノ食べ放題。勿論ご飯も食べ放題。


 兄と毎週、どちらが沢山食べられるか競争した。僕はどんぶり三杯が限界だったが、兄は五杯たいらげた。


 とても幸せだった。

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