第6話 親父の事

 親父の名は豊治という。


 大正七年生まれの戦争体験者で、マレーシア辺りを転戦したバリバリの元陸軍兵だ。


 家ではよく喋る僕に「男はべらべら喋るものじゃない。黙っていろ!」とよく怒鳴られていた。いたずらしようものならすぐに平手打ちをくらう。外面は良いが短気でよく怒鳴り、物凄く殺気があり親父がいると空気が一変しピリピリした。


 僕は怖くて、親父の前では口をきかなかった。優しい男だと周りの人は言うが、僕にとってただ恐ろしい存在だ。


 正月にいつも遊んでくれるおばちゃんに、お年玉を貰い喜んで親父に報告すると 

「お前、何そんなモノ貰ってくるのだ。お返しするお金はどこから出てくるのだ!うちにはお金が無いのだ!返してこい」


 そう言うと、お年玉袋を違う袋に入れ替え持たされた。その入れ替えた袋をおばちゃんに渡し「おばちゃん、父ちゃんからお返しだって」そう言い僕は、逃げるように立ち去った。


 この一件以降、お年玉は親父以外から貰う事はなかった。

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