第3話  母の事

 僕の母は、正美という名前で精神分裂病だ。


その母の母であるお婆ちゃんも、精神分裂病で、母とお婆ちゃんは同じ精神病院に入院していた。


 当時は、統合失調症とは言わなかった。母方に障害者が多く遺伝なのかと思った。毎月一度は、病院に家族でお見舞いに行った。僕は母が大好きで、毎月会えるのが楽しみだった。


 お婆ちゃんは僕が保育園児の時、高齢で入院中亡くなった。お葬式で初めて人の亡骸を見て、これが死ぬという事なのかと思った。


 母は、家にいるより病院に入院している方が多く、甘えたい盛りの僕は、とても寂しい思いをして毎日を過ごしていた。


 保育園の送り迎えは、親父がやってくれた。迎えの時間は毎日遅く、僕は一人居残り、かわいそうだからと保育士さんが、昼食のサンプルを食べさせてくれた。


 そこへ親父が涼しい顔で迎えに来る。保育士さんも、呆れて親父に注意しなくなっていた。


迎えの車に乗り、それからが大変だった。車を走らせ、左に曲がると家へ帰れる。右に曲がると、親父のリフレッシュタイムだ。


 いつもの飲み屋に入り、長い時、二時間は僕を車に残し、ロックをかけ放置された。僕は毎日車が左に曲がるのを祈ったが、ほとんど右に曲がるのであった。

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