第6話 完全無欠の追跡者 後編


 南部砂漠から北東へと離れたとはいえ、今度は連峰…険しい山々が行く手を

  遮るようにそそり立つ。そこで迎えた二日目の霧のかかった朝。

 気は引けるものの、文無し状態はいかんともし難い現状、またしても

  ベルダンテに朝食を恵んで貰い、町中にある噴水の前で座っていた。


  「ねぇ…いつ仕掛けますの?」

  「もう少し待とう。今、突っ込んでも連中の士気は高いだろうしな」


 士気どころか警戒しきってるだろう、いくらベルダンテの能力で不意打ち

  が出来たとしても、来ると判って警戒してるなら効果は薄い。

 ならば、宮元武蔵にならって、相手を焦らしてやろうと画策。

 彼女、ベルダンテが居る以上、有利は有利だが、あの夜の駆け引きの最中、

  いくつかの情報を渡してしまっている。


 こちらが町の人達を巻き込む事に抵抗が

  あるかどうか。例えば、エネイルゲイルの時に見せた音の爆弾。

 あれを理不神で増幅し、山中で使ったとすると…これ以上は考える必要も無い。

  後はこちらの戦力。アリスが居ない現状、まともに戦えるのはティアか。

 正味の話、奴等の根城では俺の理不神は封じられたと考える。


 ここで一つ溜息。 一見豪快な女に見えて、搦め手が得意なのかも知れない。

  俺達が来るだろうと予測した上で、根城で篭城したとみるべき。

 …突破力のある仲間がいればなぁと。

 ティアは、弾を込めるのに、予備動作が必要なんだよな。

  その間を埋めてくれる、そんな奴は…いないよな。

 ともすれば、俺がデコイになるか。


 …などと考えていると、いつの間にか俺の眼前にあのブサイクなダチョウもどき

  百面鳥が居た。改めて間近で見ると尚、酷い。例えるなら…、


  ブルドックとダチョウ(何故か頭髪あり)を足した後に、

   強引に大黒様をぶち込んだ、そんな顔。

 

  にしても、あの崩落から生き延びてたのか、タフなやつだ。

  ご主人様をおっかけてきた辺り、従順さを伺える。


  「よく生きてたな…」

  「この子、これでも百戦錬磨の猛者ですわよ。

    それに、この子も役に立ちますわ」

  「変顔で…おお。 それだ!」

 

思わぬ所からの助っ人ならぬ助っ鳥を得て、この百面鳥を突破力として迎え入れ、

  あの晩から丁度一週間が経った朝、俺達はベルダンテのサーチ能力で

  容易く根城の入り口を発見出来た。

一際高い山、ではなく、その影にひっそりと隠れるように、立つ山。

 その中腹あたりに、洞窟があり、そこを根城にしているようだ。

俺達は今、その入り口から10m未満はなれた場所で身を潜めている。

 周囲は幅4m程の緩やかな登り道と片方は谷間、もう片方は絶壁だ。


 そしてこれより、ベルダンテ&百面鳥のケージコンビが無双の突破力を

  俺やティアに見せ付ける事となった。

 

  「さて、あれが入り口…か、欠伸したり暇そうなのが6人いるな」

 

一つの策を仕込みがてら、

  入り口の上の崖も確認したが居ない。朝には来るまい、そんな

  精神面も考慮した上、尚且つ、百面鳥の事も考えてだ。

  早速ベルダンテの百面鳥に、敵の無力化を頼む。

 軽く頷いた彼女は、軽く鳥のお尻をペシりと叩く。

       

       バシュンッ


 と、いう音と一瞬の砂煙と共に、門番の前まで、文字通り一瞬に駆け抜けた。

  余りの事に不意を付かれたウエスタンな連中が、

  百面鳥に気を取られた瞬間、ベルダンテが指笛を鳴らす。

 

  はぷれぷらぷきゃぱらっちゃぱりゃりぶぇぶぱちきゃーっ!! ぷ?


 …離れていて、しかも後ろ向きなので確認出来なかったが…。

  前と違う! なんだ今のは、テキトーにタイピングしたものを

  ぼーよみちゃんが音速で読み上げたみたいな奇声は!?


  「ちょっと待て!! 顔が…頭の数がおかしくなかったか!?」


 至近距離でソレを見てしまった門番達は、息も絶え絶えに悶絶。

  中には泡を吹いて引き付けを起したものまで居る。一体何を見たらそんな。

 その隙を逃さず、いつのまにやらベルダンテが敵を縄で簀巻きにしていた。

  俺とティアは何もすることなく、入り口に歩み寄る。


  「な、何かその鳥の顔の数が…増えなかったか?」


 ふふん、と軽く鼻で笑ったベルダンテが…あ、なんか久しぶりに聞いた

  この高笑い。


  「おーっほっほ!! あれが出来るのは世界広しといえど、

   この子、ヴェ ネ ス だけですわ!!」

  「まさか、頭の数だけ異なる変顔とあの音が…残像を残す程の速度で…」

  「言い遅れましたけど、ヴェネスは『世界で一番凄い奴コンテスト』で

    10年連続優勝しておりましてよ? おーっほっほっほ!!!」


 絶対王者だとでもいうのか…。いや凄い奴って括りだと多種多様であり、

  並み居る奇人変人を押しのけて、10年も頂点に君臨しているのか…。

 恐ろしい鳥!! これ絶対見たら駄目なやつだ。俺達まで無力化される。

  俺の脳内には、笑い過ぎて引き付け起して泡を吹いている自分の姿が

   イメージされ、思わず鳥肌が立った。

 

この後、すぐに根城に突入し、先頭から順番に、ヴェネス・ベルダンテ・

  俺・ティアの順で根城の内部を駆け抜けた。

 通路は単純一本道。罠らしいそれも見当たらず。途中で出くわす奴等を

  片っ端から笑い転がし、その後に三人で手分けして気絶させていく。

 

 ぴぎゅらっ! もぎゅぷきゅ…っぷぁっ!! へぺれりらっ!! あぺっ!!


  「なんだ百面…ぶぎゃはははははははははっ!!!!」

  「ちょっ! なんっこのっト…ぶふぁぁぁあっ!!」

  「うわヴェネスじゃねぇかやべぇ見る…ぎゃははははははははっ!!」


 出会う者を悉くに抱腹絶倒へと誘う変顔を先頭に、快進撃は続く。

  よくよく考えれば、恐ろしい組み合わせである。

 盗掘者を追いかける上で、超高性能な追跡能力と爆笑必死の変顔。

  無傷で捕らえる前提で、コレほど強力な力はそうそうあるまいと。

 だが、その快進撃もそこまで長くは続かず。敵もベルダンテが居ると言う

  事は百も承知。進み進んだ広間に出た瞬間、左右からの挟撃にあった。

 既に相手は、言神の力を溜めており、後は放つだけ。

  のはずだが、それが放たれる前に一つの音が鳴り響いた。


  すっぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっん!!!


 余りの甲高い音にこっちまで一瞬意識が遠のく。閃光弾ではなく、

  音で怯ませるタイプのアレだ。俺より早くそれに気付いていたのか、

 ティアが耳を塞いでいて、それを回避し、周りの壁から作った羽で

  周囲の連中の腕やら足やらを吹き飛ばした…加減してやれよ。

 隠れていた連中が皆、血を撒き散らして転げまわる。一度喰らった俺は、

  思わず自分の右手首を摩る。ともあれ、ヴェネスの破裂袋のおかげで

  難を逃れるも、警戒心を強める。

 だが、ふと、気になったのでヴェネスの顔。怪我になったのか?覗きこ…。


  「ぶはっ…ちょっ! こ れ は…!」


 意表を突かれた。変顔は捕食する時だけだと、勘違いだと思い知らされた。

  両頬にある袋が破裂した後の破壊力も抜群に酷かった。


 視点が狂い飛び出た目玉に大粒の涙を溜めて、

  太く平べったい黄色い嘴から涎にまみれた長い舌をデロりと垂らす。

  何より破裂袋が左右に炸裂した状態で維持されている。

 ここまでなら耐えられた。だが俺の世代にこれは…。


  「ドリフッ!! なんで破裂したらそんな頭髪になんだよ!!

     しかもご丁寧に頭から煙っ!!!」


 余りに懐かしく、余りにベタベタな爆発アフロが俺のツボを貫き、

  数分程転げまわった。

  その間、ティアも笑い転げているらしく、

  冷静でいるのはベルダンテのみだった。なんでこれで笑わないのだろうか。


  「さて、先程の入り口に50名近くいますわね。やはり挟撃狙いですわ。

    ティアさん、合図のあとに解除をお願いしますわ」

  「ホントに潜んでるし…やっぱペッタンテは敵に回すと恐ろしいねー?」

  「ベルダンデですわ!! 3 2 1 今! ですわ!!」

  「あいあいさー! ぽちっとな!」


 お前、ボタンで解除すんの? 連結の力を…というかボタンあるの!?

  この世界に機械的で電気的なそれが!! 

 ティアが入り口上部の崖に仕込んだ罠は、敵の伏兵の存在を見ていたベルダンテ

  が発案。崖の岩を連結した状態で維持し、挟撃を読んでいたのか集まった所で

  解除。ちなみに連結解除された物体は、分子結合からバラバラになるらしく、

  巨大な岩石だろうとただの砂の塊と化す。つまり…。


   ずざぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…。

 

 雪では無いが雪崩のトラップ発動!なわけで、入り口の方から多くの悲鳴が

  聞こえる。ちなみに入り口から下には道も無ければ町もない、谷底であり

  第三者の被害は無しと。然しまぁ…。

  「敵が見えるというのは、凄いもんだ。 よっ今孔明!」

  「…なんですの? イマコウメイ?」

  「知力の高い人に送られる最上級の賛辞だと思えばいいさ」

  「あら…そんな事。…ありますわね! おーっほっほっほ!!!」


 …。調子に乗ると高い笑いするのか、この子。

 ともあれ、これで敵戦力の大半を削ったんじゃないか…、たった三人と一匹で

  何十倍もの数、それも篭城戦を…伏兵まで罠にハメての正面突破。

 ベルダンテとヴェネス。敵に回さなくて良かったと心底思えた。


 一息ついた俺達は、やや下り坂を奥に進む。間もなくして二つ目の広間に

  出る…いや、広間ではなく崖っぷちだな青空が綺麗だ。高さも周囲を見たら

   大した高さでは無い。飛び降りようと思えば可能だ。

 そこに両腕を組んで、不敵な笑みと、ギラリと光る八重歯が妙に似合う、

  露出の高い褐色肌の姉さんが、赤髪の蓬髪を靡かせてが立っている。

 改めて見ると…ええ体しとるでここのねぇちゃん! あいや失言。


  「あのベルダンテ相手に数頼みは、やはり通じないねぇ…」

  「当然ですわ! この完全無欠のベルダンテに数など無意味ですわよ!」


 そしてまた高笑い。 本当に無いの? 

  と、ツッコミ入れたい気もするが、それはさておき。

 ここからだ。入れ知恵はまだあるが、

  ベルダンテの策略はほぼ通じない。かといってティアも

  怖がる程の戦闘特化型のご婦人だ。などと考えていると、

  文字通り刹那の出来事だった。

 瞬きする間に、ティアとベルダンテ、ヴェネスが倒れ込んだ。

  一体何を…。


  「さて、ここじゃ分が悪い。少々デートの場所をかえようか、兄さん」

  「なんっ…いつのま…」


 言葉は続かず、彼女に掴まれると崖下に放り投げられる。

  当然のように、イレーダも後から追いかけてくるが…地面に頭から

  いってしまえば流石にやば…と、考える間もなく何か硬い金属に

  背中を打ちつけ、落下は止まる。後から彼女もガァンッ!と

  激しい衝撃音とともに着地するが、なんだこの黒い鉄板…。

  何か、動いてるような、ガタンゴトンと…まさか、列車?

 崖っぷちから見え難い位置に、ちょうど通ってきた…いや、合わせられた

  のか、そこにティア達と隔離された上に…やはり乗客が居る。

 背中の痛みを抑えつつ、ゆっくりとバランスを取りながら、立つ。

  …たまに激しく揺れるので油断すると振り落とされそうだ。


  「さぁて兄さん。いや、タクトと言ったねぇ…」

  「ああ。それで、デートってのは列車の上部でダンスでも?」

  「それもいいが…。なぁに、アンタの本性、見てみたくなってね」


 成程な。俺が綺麗事を言っている口だけの男か、見定める気か。

  俺が身構える間もなく、彼女が視界から一瞬で消えた。

  と、思った瞬間、イレーダの右拳が俺の顎を捉えていた。

 速い! とんでも無く速い! とてもじゃないが、目で追えない。

  だが、若い頃に冒険家目指して頑張って、接待の魔酒に負けて

  劣化した足腰を見くびるな!とばかりに踏ん張り、右手首を捕まえ

  篭手返しでイレーダを背中から鉄板に叩きつけた。

 頭から落とすという事も出来たが…俺のは武道であり、武術じゃない。


  「ぐぁっ…」

  「恐ろしく速いな…だが、軽い」


 相当身軽なのか、大したダメージもなかったのか、投げられた瞬間、

  身体を捻り、右手の拘束を力任せに外して、彼女は逃げた。


  「くっ…。意外に、やるねぇ。接近戦…得意なのかい」

  「ああ勿論。こう見えて、武道の心得はあってね。

    生半可な打撃だと返り討ちになるが、まだやるか?」

  「はっ…ブドウってのが何か知らないが…、ここからが本番さ」  


 …何か空気がおかしい。列車の揺れでは無い何か。


  「圧し響け…鳴重神!!!」


 ナルオモカミ そう彼女が叫んだ瞬間、右肩の一部が爆ぜる。

  走り往く列車の向かい風に、自身の血が巻き込まれつつ、飛ぶ。


  「ぐ…言神か」

  「さぁ、言神殺しの兄さん? 遠慮しなくていいんだよ。

    どうせ下にいる連中は、赤の他人、どうだっていいさ」


 なんたる悪魔のささやき。右肩を左手で抑えつつ、じわりじわりと後ろへ

  後退する。この力の射程距離はショートか、ミドルか…ロングか?

  と、計る間もなく次は左足がバシャッという音と共に爆ぜた。

 そのまま膝をつく形となり、止め処なく溢れる紅い血を見る。

  焼けるように熱く、胃が捻り潰されでもしたかのように吐き気を訴える。

 だが、自分でも気でも触れたか?と思えるぐらいだが、笑みが毀れていた。


  「まだ何か隠している。 って顔だね」

  「いや、楽しいのさ…聴かせてやりたいね」

  「聴かせる? 何をだい?」

  「今、俺の中で鳴り響いている、博士無双状態のあの曲をさ」

 

ああ、聴こえる。確かに聴こえる。 まだ勝機はあると、そう伝えるように。

 だが、それは幻聴でしか無いのか、列車の最後尾まで残り二両が、

 次のイレーダの一撃で存在しない三両目まで一撃で押し飛ばされた。

彼女の力の発生源すら判らない。そんなまま、辛うじて生きている左手で

 列車最後尾の屋根を掴んだが、当然の如くその左手を踏みつけられる。


  「無双の曲では無く、アンタ自身への葬送曲だったようだね」

  

文字通りの絶体絶命、いや、死にはしないが至宝は持ち去られ

 全てが振り出しにもどっちまう。そいつはゴメンだ。

  

  「ははは、いやぁ強いね。姉さん」

  「何か負け惜しみでも吐いて落ちるかい?」

  「そうだな…では一つ」


右肩の痛みを堪え、グーの状態で右手を、彼女の胸元めがけて突き出し、

 ただ一言。


  「俺達の、勝ちだ」


当然ブラフだ。事前にベルダンテから持っている場所を聞いていた。

 加えて一度投げた。接触したという事、加えてこの緊張感。

それを聞くと驚いて、自分の胸元に隠してあったソレを確認しようと。

 一瞬ではあるが、揺らいだ。その揺らぎを見逃さず、最後の力を振り絞り

 彼女の足を掴んで、車両を右足で蹴り、走る列車から、イレーダを捕まえた

 まま、飛びのいた。


  「アンタ…これを狙ってわざと?」

  「言っただろう? 博士無双の曲が、聴こえた…ってな」


このままイレーダを地面に叩きつければ完全勝利。だが…。

 相手が同じぐらいの野郎なら、脳味噌ぶちまけるぐらいの事は

 してやるところだが、相手は年頃の女性だ。万が一にも顔に傷が

 ついたら駄目だ!と、紳士的考えに瞬時に至り、彼女の頭を庇うように

 抱きしめて、地面に落ちる瞬間に身を返して、自分が下敷きとなった。


結果的に背骨が逝ったらしく、体が麻痺して動かない。

 イレーダは腕やら足に少々の擦過傷は見受けられるものの、すぐに立ち上がった

 所を見る限り、大事無さそうだ。


  「アンタ…あの状況で、あの状況を…なんで…」


動かない体のまま、雲ひとつ無い青空を眺めつつ、傷の回復する時間を

 稼ごうと思いつく限りの言葉を並べる。


  「列車の乗客は赤の他人、その通りだ。

    だが、他人にも求めて輝く何かがある。それを奪ったら…駄目だ」

  「…」

  「勿論、アンタもだ。何か、求める物があって、目指しているんだろ?

    ディア・バレルを」

  「だから、アタシを庇ったと? バカじゃないかいアンタ…。

    それで自分の求める物を失ったら、どうするんだい」


返答はあえてしなかった。こちらは不死、機会はまたあるさ。

 などと言うと、お茶を濁しそうなので。それから暫く静寂が続く。

体の自由が戻ってきたようで、何とか状態を起すと、何かが投げつけられた。

 丸い、金色の、玉。 金では無い何か別の鉱石のようだ。羽のようとても軽い。


  「どういう風の吹き回しかなこりゃ…」


わざとらしく頭を搔くと、ベルダンテに貰ったばかりの大事なテンガロンハットが…

 後で謝ろう。それはおいといて、イレーダの方を見て、そう尋ねてみた。


  「アタシの負けでいいよ。列車もいっちまったし、性格上、戦闘中に

    背を向けるくらいなら舌を噛むぐらいでね」

  「そう…か。なら、一緒に目指す。というのも悪く無いと思わないか?」


彼女の戦闘力は是非欲しい所だが、少しの沈黙の後、

 二つの物を胸元に投げつけられて、断られてしまった。


  「嬉しいお誘いだがね、立場上、そうもいかなくてね…。

    アリス、そこにいるんだろう?」


え? 近くで見てるの? アリスちゃんが!?

 周囲を見回すと、イレーダの後方に砂塵が巻き起こり、青と白の厚手の

 ワンピースが良く似合う、可憐な青い、長髪の少女がスカートの裾を

 両手で軽く上げたお辞儀の姿勢て現れた。


  「あれー…ばれてましたです?」

  「判らない筈、無いだろうに。悪いけど、ゼストアに連れてってくれる

    かい? 思いの他、疲れちまってねぇ」

  「はいです。お安い御用ですよ」


そういうと、アリスは紙で大鳥を作り出し、イレーダを乗せて飛び立とうとする。

 

  「アリスちゃん…君、油断ならない子だなぁ」

  

と、いうと、軽くテヘペロしながら彼女は笑った。

 小悪魔というか、行動が読めないというか…そう言う所も含めて可愛いなぁと。


  「タクトお兄ちゃん。勝利おめでとうです」

  「いやいや…」

  「でも、これで世界最強の厄介者集団『ゼストア』に喧嘩売っちゃったです」

  「…え?」

  「改めて、自己紹介です。ボクはゼストア所属『四言』が一。

    『嘘つきアリス』」

  「はぁ、真面目だねぇ。アタシは四言が二。『音超えイレーダ』


ええと、現状把握出来ませんが世界最強ギルドに目をつけられたとか。

 そんな厄介ごといらねーです!とか言いたいが、

 格好悪いので、飛び去ろうとする彼女達に向かい、

 自身の首元に右手の親指を当て、そのまま喉を搔ききる仕草をしてみせた。


  「おおっ。ゼストア相手に勝利宣言です? もしかして」

  「ははっ。楽しみだよ、次はハンデ抜きで全力でやろうか。

    不死のタクト!!」


そういい終えると、彼女たちはその場を去った。

 残された俺は、羽のように軽い金色に輝く玉を太陽に透かしてみていた。

生まれて初めて、手にした宝。羽のように軽くもあり、鉛よりも重たく感じた。


  「これを、あといくつ集めれば、いいんだっけか…なぁ」


そのまま、緊張感の糸がプツリときれたのか、俺は深い眠りへと落ちた。



  完全無欠の追跡者 後編 終了



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ディア・バレル 泉 大津 @rejan6678

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