第5話 完全無欠の追跡者 中編
至宝の一つを手に入れたリガーデッドを追いかける。
これより場所は南部砂漠より北東に
位置するレイラード海岸へと到るに邪魔な山脈、クォーテッド連峰へと移る。
流石にティアの機動力は凄まじく、
同時にベルダンテの追跡能力で現在位置を把握し、
切り立った山々が連なるクォーテッド連峰で追いつくこととなる。
「ちょっと、もう飛べない。しんどいーー」
「お、おお。ご苦労さん。しかしすげぇな、何百km飛んだんだろう」
「この子の移動速度で、散々頭を抱えましたわ」
だろうな、いくら特定できても高速移動されたらたまらんわけで。
とりあえず山の麓の小さな町にて宿を取る。前回の件で少なからずの宝石を
ちゃっかり掠め取っていたティアが、行商人に売りさばくと…
多いのか少ないのか判らないが、皮袋に結構な量の貨幣が入っているのだろう。
「貴方…盗品を」
「あいっかわらずちっさいなー! 特に胸!!」
何かあるごとに胸を絡めるティアと、それに噛み付くベルダンテ。
やはり仲良いのか、まぁそれよりもだ。
「なぁ、そろそろ外してくれね? この手錠」
「それがその…」
…。何だろうこの間は、まさか…鍵を無くした?とか。尋ねるとコクリと頷いた。
良し困った! 発展途上と同室ならまだいいが、
ベルダンテはまずいだろ色々と。
「二名様ご相室ー!」
「こるぁ!」
これでもかと煽ってくるが、まぁ仕方無い。…美女と一つ屋根の下…悪く無い。
「連ねよ! 連神!」
え? 何、何をす…痛ぁぁぁあああっ!!
そこらの石やらで作った小さな羽で、あろう事か手錠のかかった
俺の手首を吹き飛ばしやがった!!
死なないけど他にもっと方法あるだろうが…。
「痛てぇ…お前さんはほんっとにゴリ押しスタイルだな」
「どうせ怪我しても暫くしたら治るじゃん?」
「いや、そりゃそうだが…」
「あーほら、そんなのどうでもいいから、ご飯ご飯おなかすいたーっ!」
確かに腹も減ったなぁ、ん? 何かベルダンテが固まってるんだが…。
おーい、元気ですかー?
と、左手でフリーズした彼女の視界を遮ってみたりした。
途端に我を取り戻した彼女が、慌てて何度か頷いた。
ま、まぁ。いきなり目の前で自分のでは無いにしろ、
腕を吹っ飛ばされたら驚くわな。
再生しつづける血だらけの右手を見つつ、少し残念な気がしなくも無い。
いや、そもそもなんでこんな強引な千切り方したんだ? まさか、嫉妬?
…。在り得無いな。単に早く飯食いたいから手っ取り早く問題処理したのだろう。
俺も腕が治るのを確認してか…。
さっきから周囲の視線が気になってたんだが…。
町の中、大通りで、腰布一枚じゃね? 俺。
慌てて人通りの少なそうな場所へと隠れると、ベルダンテもついてくる。
「その様子ですと、お洋服どころか、お財布まで無くしたようですわね?」
元々持ってないなどと言える筈もなく、
ただ頷くしかなく、そのまま無言でベルダンテが何処かへ言ってしまった。
…さてどうしようか、既に陽も落ちて気温が下がる一方で
腰布一枚は流石に寒い。
…かといってどうする事も出来ずに時間が僅かに経つと、
ベルダンテが戻ってきて、大きな皮袋を手渡してくれた。
「サイズはどうか判りませんのですけれど…」
え…服を買ってきてくれたとか!? ええ娘や、めっちゃええ娘や。
感謝の言葉を述べつつ、皮袋を開けると、
暖色系というか皮製品まんまの色だな。
下着だけ肌触りの良い、なんか高そうな。
とりあえず下着をはいて、皮製のスタッズのついた
ズボンを穿いて、白の上着を着て、
その上からまた鋲の打ち込まれた長袖を着た。
靴下と、頑丈そうな革靴に、あ、あぁぁぁああああ!この帽子。テ、テテテテ、
テンガロンハットじゃないか。嬉しい、嬉しすぎて涙が…。
「こりゃいいセンスだ。ありがとう助かったよ。資金が手に入ったら
必ず返すよ」
「いえ、構いませんわ。困った時はお互い様ですわ」
ティアと大違いだ。なんだこの落差は…。彼女も流石に腹がへってるらしく、
俺達もティアの入っていった酒場へと。
ギィ…と軋みに似た音をたてて、腰あたりだけにある、扉を通る。
通るが俺だけそのまま後ろに後退して、またギィ…と音を出させる。
「何、してますの?」
「いや、これ、好きでね。なんでこんな腰あたりだけに扉ついてんだろうと。
外から埃がモロに入るのになんでこんな…楽しいものをと」
一瞬、白けられた。明らかに子供かと言わんばかりに。
いやだってさー? これ在ったら遊びたいよなぁ普通。
何度も出入りして…あ、動物園の回転扉で遊んで挟まったの思い出した。
「俺の居た所で、これは非常に珍しくてね」
「知らない物は何でも試したいのですわね」
「ん、良くいえばそうだ。悪く言えば子供だな」
ですわね。と、軽く微笑んでくれたあたりなんとか変人扱いされる
方向は回避出来たようだ。で、そのまま内部を見ていると、
寂れた町といえば言い方悪いが、それが店内にそのまま現れている。
客は少なく、ほんの数人だ。で、そのうちの一人、ティアが木製の
カウンターでもりもりと何か食べている。
その横に俺達も座ると、店主だろうな、食器でも洗っていたのか、
タオルで手を拭きながら、なんとも無愛想に注文は?と尋ねてきた。
「私は、山鳥のソテーと、折角ここに来ましたし、グラスワイン」
と、言うと、禿げ頭の店主から視線を俺に、いや、お金ねぇからティアに
まず借りれるか聞いてみないとな…と。
思ったが、先に彼女が同じものをもう一つ、と。
「いや、流石に酒まで貰うわけにゃ…」
「構いませんわよ、このぐらい」
わりとそっけなく、ではある。ではあるが、大変ありがたい。
何せ、二ヶ月ちょっと禁酒状態だったもので…。
軽く頭を下げてから、ちらりとティアの方を見ると…喰うわ喰うわ。
既に空いた皿が5枚程重なっている。そして、小さい可愛いお口に
これでもかと肉を詰め込んだハムスター。喉、詰まらせんなよ、と。
ベルダンテも余りのティアの喰いっぷりに唖然。いや、不思議そうに
見ている。…恐らくは、何でここまで食べて太らないのか?だろう。
恐ろしい程の大食漢を見ていると、ふんわりと甘い香りがしてきた。
その香りだけで涎が口内に広まり、これはうまいものだと伝える。
食べる前に一度、ベルダンテに向かって手を合わせ、頂きます、と。
確か、山鳥のソテーだったかな。一口大に切り分けられた…焼き鳥?
いや、串焼きでは無いが焼き鳥。ソテーってそういやどういう意味なんだろう。
まぁいい、傍にあったフォークで一欠けらを口に運ぶと、鳥の脂の旨味と
程よい香辛料が…うん、すまない。美味いとしか言い表せない味音痴。
「うめぇ…すげぇ、うめぇわこれ」
「火の通し加減に香辛料の選択も素晴らしいですわね…」
香辛料が、鳥の脂の旨味を更に引き立たせて…っと、酒キター!
って何? 水!? いや、日本酒も水みたいといえばそうだが。
透明なグラスに透明なワイン…ふむ。と、おお?
目の前にグラスを持ってきて揺らしてみると、何やらキラキラと
液体の中で光っているように見える。
「綺麗なワインだな、吞むのが勿体無い…」
「世界には二種類のお酒がありますの」
「蒸留酒とかその類かな?」
「いえ、人の造るお酒と、世界が造るお酒ですわ。
グラスワインは、後者ですの」
…つまり自然の恵みそのままってわけか、そういうのは初体験。
というかそれ以前に、接待以外は第三のビールしか吞めない。
そんな貧乏生活の人間に、そんな高価そうな…。
さっそく、まず香りを嗅いでみると、何か色々と果実やら混ざった
甘酸っぱい香りが鼻腔を擽り、そのまま口に軽く含んでみると、
酸味が強く、肉と良く合いそうな…ん? ティアが吞みたそうだ。
が、未成年に酒は勧めたらいかんのだ、残念ながら。
「ふん!!!」
グラスを燻らせていると、勢いよくフォークでまだ一欠けらしか食べてない
鳥肉を根こそぎ奪い、一気に口の中に…やりやがった。
「お前な…」
「ゆはんふふほーがわふいふぉふぁ!」
油断するほうが悪い。と言いたいのだろう。…あ、今の変な喋りで思い出した。
「そういや、ベルダンテ。あの百面鳥ってやつなんだが…」
「私の事より、鳥ですの?」
「いやいや、君の事も興味はあるが、あのインパクトがどうしてもな…」
「貴方、いままで幾度も女性を手放してません?
まぁ、構いませんけれど…」
ぐっ…図星なので反論出来ずのまま、ベルダンテに百面鳥の事を教わる。
「百面鳥、正式名称は炸裂鳥。ほら、頬に垂れ下がった袋ありましたわよね?
危機を感じると膨らんで、爆ぜますの」
「膨らんで脅す。では無くて爆ぜるのかよ! 痛そうだ…」
「外敵を驚かして、逃げる為ですけれど、基本的に持久力がありませんの。
けれど、10mを一瞬で駆け抜ける瞬発力はありましてよ」
…。超短距離ランナーな鳥かよ。一つ首を傾げつつ、更に尋ねた。
何を尋ねたかと言うと、結構長い時間、俺達を追いかけたよな?と。
「ええ。基本的に肉食で諸説諸々ありますけれど…」
「ストップ!そこから先は考えさせてくれ」
「あら? 当てられますの?」
「そりゃどうか知らんが…こういうのは大好きでね」
というと、グラスワインを軽く口に含んで考える。
正式名称はこれに関係無さそうだ。
重要なのは、超短距離ランナーで持久力無し。
なのに、長時間、凄い変な音を出して走り続けたという事。
鍵は恐らく、肉食。捕食するのに瞬発力に特化したと考えた。
然し、それと持久力に繋がるものが…いや。
捕食は必ず成功するのか? ここは否定しておく。
失敗した時にだ…。
「根性で追いかけちまう習性と、そりゃ酷い顔を見ちまった獲物が
驚いて足を止めちまうってのが有力なんだよなぁ」
そうそれだ!それが言いたかっ…て誰だよ!!
いつの間にかベルダンテの隣に、赤い髪を無造作に伸ばした
褐色肌で、露出高めのウエスタンな格好した年頃の姉さんが
こちらを見て、白い歯をギラリと見せて笑っている。
「なっ…先に言うなってか、君は誰なんだ」
と、これぐらいで怒るのもなんなので、冷静に対処した。
が、彼女が右手で弾いた金色の丸い何かに目を奪われる。
「いやぁ、悪いね。アンタのお宝、二つ目も頂戴しちまってさ」
二つ目? 何処かであったか? お宝…おいおいまさか。
「むあーっいえーぶぁーっ!!」
「まだ喰ってるのかティア…取りあえず落ち着け」
「あら、イレーダさん。お籠に入りに来ましたの?」
いきなり捕まえようとしない。つまり下手に刺激するとやばい。
と認識しとこうか。とりあえず町中だ、被害は出したくない。
「アンタ達が追いかけてくるってのは判っちゃいたけどね。
まさかベルダンテが…どういう風の吹き回しか、気になってね」
「答えは簡単ですわ。この方と貴方達盗掘者とは、求める物の
価値観が違いますわね」
「はっ…価値観ねぇ。 で、そこの兄さん」
なるべくヘイトは稼ぎたくないなぁ、などと思いつつ、
ここで尻込みなんぞしたら男が廃る。
「酒場は、酒を嗜む所だろう。争い事は外で一人でやればいい」
「へぇ、言うねぇ。その通りだが、至宝の一つを目の前にして、
取り返そうとは…思わないのかい?」
「いずれ取り返す。まだその時では無いだけだ」
軽く、グラスワインを口に含み、溜息を付く。
「がっかりだ」
「何が、がっかりなんだい?」
「200人もの大人数を統べる人物が、ここまで小さいとは、
思わなかった。と言う事だ」
「そいつは、リガーデッドに対して、宣戦布告。
そう、みなしていいんだね?」
ちなみに、最初にチラ見した以外、ただの一度もイレーダを
見ていない。こちらの心情を探られない為に。
そのまま、グラスワインを飲み干し、カウンターに置くと、
そいつは、好きに取ると良い。とだけ。
それを聞くと彼女は硬貨をテーブルに置き、その場を去る。
その間際にこう、言い残して。
「不死のタクト。 アタシ達はクォーテッド連峰を根城にしている。
この至宝を得るに相応しいのは、さて、どちらだろうね」
暫し静寂の中、隠れてたのか? カウンターの向こうからひょっこり禿げ頭。
見るからに怯えている。相当に危険な奴なんだろう。
今頃になってちょっと右足がプルプルと震える、バレなくてよかった。
「オッサンちょっと…あんな正面きって言う!?」
「物凄い胆力ですわね…私、間に挟まれてどうしようかと」
「あ、いやまぁ。その、俺も…格好つけ過ぎたかも」
後悔先に立たず。さて、どうしたものか。
とりあえずご丁寧に拠点はここだと教えてくれたあたり、収穫はあり。
ベルダンテの能力があれば、かなり有利に進めるだろう。
自称なのか知らないが、確かに特定の事柄に対しては、完全無欠の能力
だと思われる。闇討ち不意打ち自由自在なわけだ。
例えば、集団戦において、彼女を出し抜く軍師なぞ、
かの諸葛孔明や鳳雛、竹中半兵衛ですら不可能じゃないかと思われる。
何せ、天に輝く星々が、敵なのだから。
完全無欠の追跡者 中編 終了
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