第45話 門番との戦い

「ここが最下層か」


 ダンジョンに降りた俺達は、二日でダンジョンの最下層にたどり着いた。

 たったの二日でダンジョンの最下層まで踏破するなんて常識で考えればありえない速さだ。


 といっても道中の魔物は前もって果実兵達が倒すか陽動を行って安全なルートを確保してくれていたので、戦闘は一切なかったのだが。

 かかった時間は本当に移動時間と休憩時間のみだった。


「皆のお陰で安全にたどり着けたよ。サンキューな」


「「「!!」」」


 ここまで護衛してくれた果実兵達に感謝の言葉を告げると、彼等はどういたしましてと自分の胸を叩く。


「我が王、果実兵達によって周辺の魔物の間引きは済ませてあります。残るはダンジョン核を守る門番のみです」


 果実兵達に指示を出していたリジェとカザードが戻ってくる。


「最下層のボス……か。どんな奴は確認はしてるか?」


 ダンジョンにはフロアボスもしくは門番と呼ばれる非常に強力な魔物が生息している。

 特定の場所から動かないタイプを門番といい、フロア内を移動するタイプはフロアボスと呼ばれる。


 これらのボスは討伐しても一定期間が経過すると復活する。

 召喚陣によって別個体が召喚されたり、ゴーレム系なら復元の魔法陣によって復活する訳だ。


 まれに復活の手段が無く一度倒せばそれきりと言うダンジョンもあるが、そういうダンジョンは冒険者達に予算不足と呼ばれていたりする。


 ボスは危険な代わりに倒すと高価な素材が手に入るから、ダンジョンの近くに建設された都市としてはボスが復活するダンジョンの方がありがたいわけだ。

 まぁ俺はそのボスによって瀕死の重傷を負わされたから、あまり良い思い出はないんだけどな。


 さて、この町のダンジョンのボスはどんなタイプなのやら。


「果偵兵の報告では巨大なドラゴンタイプとの事です」


「ドラゴンッッ!?」


 ちょっと待て! ドラゴンだって!?

 ダンジョンで会いたくない魔物堂々の一位じゃないか!

 巨大な体に巨大な爪と牙。更に長い尻尾と硬すぎる鎧の様な鱗。広く奥行きのある場所で遭遇した場合は空を飛んで剣の届かない位置から一方的に攻撃してくる最悪な敵だ。


 何より恐ろしいのは一面を焼き払うブレスだ。

 逃げる場所のない狭いダンジョンでブレスを放たれたら、それこそ初手で全滅しかねない。


「よりによってドラゴンかよ……」


 不味いな、これは作戦を立て直さないといけないぞ。


「ご安心を我が王。たとえドラゴンと言えど我々果実将の敵ではありません。何しろ我々は世界樹の眷属ですから」


「おお、頼もしいな」


「それに出来て間もないダンジョンに使役されるドラゴンなど所詮は下位の竜。単純に敵として大したことがないのです」


「いや、ドラゴンは十分大したことある敵なんだが……」


 レッサードラゴンでも騎士団や腕利きの冒険者達が集団で挑んで大きな犠牲を出してようやく倒せる相手なんだぞ?


「ドラゴンの鱗は弓矢や弱い魔法では大したダメージを与えられません。有効な傷を負わせるにはバリスタサイズか、上級魔法使いの力が必要となります。ですので果弓兵は果実偵兵と共にフロアを巡回して魔物の追加発生に備えます」


「「!」」


 果弓兵と果偵兵がやや残念そうに腕を上げる。

 自分達も一緒に戦いたかったんだろうな。

 こういう時に士気を保つのがリーダーの務めなんだっけか。

 えーっと……


「お前達、俺達がドラゴンとの戦いに専念できるよう背中は任せたぞ!」


 こんな感じかな?


「「っ!!」」


 すると果弓兵達は俺の言葉にやる気が出たのか、任せろと自分の胸をドンと叩く。


「素晴らしい鼓舞です我が王。たとえ決戦に参加できないとはいえ、後方支援も重要な任務ですからね」


 俺の言葉にリジェが心底感動したかのように両手を組む。


「ん、ああ」


「戦闘が始まったら果術兵とカザードによる魔法攻撃で勝負を決めます。カザードの力で果術兵の魔法を強化融合し、圧倒的火力でドラゴンの魔法防御を貫いて反撃を許すことなく滅ぼします」


「武器封じに止めを刺した時に使ったアレだな」


 あの魔法の威力は本当に凄かった。

 確かにあれならドラゴンの鱗を貫くことが出来るだろう。


「はい。今回は前回よりも果術兵の数も多いですからあの時以上の威力を期待できます」


 あの時以上の威力か。どれだけの威力になるか想像もできないな。


「けど、そんな威力の魔法を地下で使ったらダンジョンが崩落しないか?」


 ダンジョンはいってみれば洞窟みたいなものだ。そんな場所で大掛かりな魔法を使えば崩落の危険がある。

 だからこそ魔法使いはダンジョンで使う魔法の種類は慎重に選ばないといけない。


「ご安心を、我が王。私の魔法は千変万化。前回の全身が再生可能だった武器封じと違い、今回はドラゴンの急所のみを貫く収束魔法を使うので大規模な破壊は行いません」


 そう答えたのはカザードだった。


「そ、そうなのか」


「はい。それに人間はドラゴンの素材をありがたがるのでしょう? であればなるべく素材を残した方が良いでしょう」


「ああ、それは確かに。ドラゴンの素材を持ち帰れば商人も貴族も皆欲しがるだろうな」


 ドラゴンの素材となればかなりの価値が期待できる。

 素材としての質は下位のドラゴンでも相当に上位にあるからな。


「ええ、そしてドラゴンを倒した名誉は我が王のものとして民に広く語り継がれることになるのです!」


「え?」


 しかしそこでカザードが妙なことを言い始めた。


「ふふ、凱旋した我が王を民がドラゴンスレイヤーとして称える姿は今から楽しみですよ。まぁ、倒したのがレッサードラゴンというのが少々不満ですが、なに、いずれエンシェントドラゴンであろうとも我等が討伐してみせましょう!」


 それどころかリジェや果実兵達もカザードの発言に追従して踊るように体を震わせる。

 って言うか果実兵達は実際に踊りだしているじゃないか!?


「待て待て待て、まだ倒してないけど、倒したら実際に戦ったお前達の手柄になるだろ!?」


 俺は他人の手柄を奪う気なんてないぞ!


「いえいえ、戦で勝利した際の栄光は一兵士ではなく、指揮官のものになるものです。人の歴史でも大きな戦いに勝利した栄誉は将軍や軍師、そして王に与えられるでしょう? ならば我話の勝利は我が王の勝利と言って過言ではありません!」


「過言だよ!?」


 いくらなんでも言い過ぎだそれは!

 戦争で大きな働きをした兵士が英雄として名を馳せる事は普通にあるって!

 ……も、物語とかで。


「とはいえ、万が一と言う事もあります。もしもドラゴンを仕留めきれなかった場合は、果馬兵と果実兵達が仕留めにかかります」


 と思ったら急に話が作戦の事に戻る。


「基本カザード達が作戦の要なんだな」


「はっはっはっ、その通り! 魔法とは素晴らしき知恵の結晶ですからね!」


 カザードは誇らしげにモノクルをクイッとあげると、周囲の果術兵達もカザードを真似て顔に当てた指をクイッとあげる。


「今回は閉鎖環境で相手も狙いやすい大柄な体をしていますからね。圧倒的火力で一気に責めた方が良いのです。相手もブレスによる範囲攻撃を持っていますからね」


「ブレスか。確か北方の国の騎士団がアイスドラゴンのブレスで全滅したって話を聞いた事があったなぁ」


 そう、やはりブレスの脅威は大きい。

 どれだけ優勢に戦いを進めてもブレス一発で戦況が逆転する危険があるのがドラゴンとの戦いだ。


「ではこれより作戦を開始します。カザード達の魔法準備が整い次第扉を開け先制攻撃を放ちます」


 リジェの号令を受けた果実兵達は果術兵の魔法攻撃の射線に入らないよう扉、の両脇に移動する。

 同時に俺とリジェも扉から離れ、カザートと果術兵達だけが扉の真正面に立つ形になった。


「魔術増幅、術理収束」


 果術兵が発動させた魔法がカザードの力によって増幅されてゆく。


「バンドリングマジック!!」


 そして魔法はカザードの前に集まっていき、一つの巨大な塊となってゆく。

 だが変化はそれだけでは終わらず、塊がドンドン小さくなっていった。

 だがそれは弱くなったわけではなく、力を無理やり圧縮させることで逆にはち切れそうな程の圧倒的な圧力を感じさせている。


「刃を交えることなく朽ち果てるが良い!! フュージングコンプレッション!!」


 カザードの合図を受けた果実兵達が扉を開けると、即座に魔法が発動した。

 放たれた魔法は細い紐のような光の線。

 それが門の中に吸い込まれた瞬間、バジュウッッ!! っと何かが大きく弾けるような音が響いた。


「うぉっ!!」


 光はなおも続き、下へと動いてゆく。

 そして間もなく光は消え去った。


「……ど、どうなったんだ?」


 ドラゴンを倒したのか? それともまだ生きているのか?

 

「!!」


 いったいどうなったのかと困惑したその時、果術兵の一人が拳を握って飛びあがった。


「我が王、作戦は成功した模様です」


 リジェの報告を裏付けるように、残った果術兵達も飛び跳ねだす。


「我が王、ドラゴンの討伐に成功しました」


 最後にゆっくりとこちらに振り向いたカザードが、ドラゴンの討伐を報告してきた。


「おおっ!」


 果実兵達が次々と部屋の中に入って安全を確保したところで、ようやく俺は部屋の中に入る事が出来た。

 最初に視界に入ってきたのは地面に横たわる巨大な爬虫類の姿だった。


「……これがドラゴンか」


 俺達の数倍の巨体はかつてダンジョンの最下層で戦った万人以上の大きさだ。

 そんなドラゴンだったが、すでに事切れている。カザード達の魔法で命を落としたようだ。


「あの魔法で即座に倒せた事から予想していましたが、やはりレッサードラゴンでしたね」


 その姿を見たリジェの反応は意外にも冷静、と言うより溜息をつくような感じだった。

 いやいや、レッサードラゴンもかなり強いんですけど。


「っていうかドラゴンの体が剣で真っ二つにされたみたいになってるんだが……」


 倒れたドラゴンの死体は頭部を真っ二つに切断され、そのまま首を切断されて胸の半ばまで開いていた。

 まるでドラゴンの開きだ。


「フロア全てを覆い尽くす威力の熱魔法を高密度の線の形に束ねて頭部から心臓にかけて切断しました」


「なんだそりゃ」


「凄まじく切れ味の良い剣で切ったと思ってください」


「凄いな……」


 魔法の理屈はよく分からんが、とにかくドラゴンを一撃で倒すような凄い魔法だったみたいだ。


「けど不意打ちで倒しちゃったから、俺が来た意味無かったなぁ」


 冒険者として、ドラゴンと戦えなかったのはちょっと残念な気持ちもある。

 まぁこれを見ると戦っても勝てる気が全然しないけどな。

 とはいえ、味方に被害が出なかったのは良い事か。


 ドラゴンの素材は一旦そのままにしておき、俺達は奥へと進む。


「これは宝物庫か?」


 ドラゴンの間の奥にあったのは宝物庫だった。

 剣や金貨、ポーションの類もある。

 出来たばっかのダンジョンなのになんでこんなもんがあるんだろうな?」


「ダンジョンに挑んで死んだ人間の品でしょう」


「おおう」


「それによその土地から来た生きたダンジョンなら、その土地で得た親ダンジョンの宝を持ち込んできた可能性もあります」


「なんか滅茶苦茶生き物っぽいなダンジョンって」


 何だよ親ダンジョンの宝って。


「生き物の中には卵そのものが子の食料になるものもありますから。ダンジョンの宝も人間と言う餌を引き寄せる為に親が用意した撒き餌と言えるでしょう」


「そういうもんか……おっ、スゲェ! ミスリルの剣だ!」


 俺は宝物の中に乱雑に積まれていたミスリルの剣を手に取る。

 おおー、ミスリルの武具とか憧れだったんだよな!

 うん、せっかくの戦利品だし、貰っておこうかな。

 俺はミスリルの剣の鞘を腰のベルトに連結して装備する。


「おっ、ミスリルの鎧や盾もあるじゃないか!」


 こりゃすごい! 冒険者として垂涎のお宝が揃ってるじゃないか!


「「!!」」


 だがそれらの品も手に取ろうとした時、突然俺の体がブルブルと震えたんだ。


「な、何だ!?」


 その異変の正体は果鎧兵だった。

 鎧に刻まれた果鎧兵の顔を見ると、その顔が怒っているような模様が浮かんでいる。


「我が王、果鎧兵は自分以外の鎧に目を奪われるとは何事かと怒っているのですよ」


「ええっ!?」


 つまりあれか、果鎧兵はミスリルの鎧に嫉妬してるって事!?

 と思ったら今度は腰に付けた果剣兵の鞘が揺れる。


「お前もかよ」


 どうやら果剣兵も怒っているみたいで、ツーン! とした表情になっている。


「悪かった悪かった。浮気しないからさ」


 俺はミスリルの鎧を戻すと果鎧兵と果剣兵をなだめる。


「「……」」


 果鎧兵と果剣兵がほんとー? と疑わし気な眼差しを向けてくる。


「ホントホント。お前達の方が性能良いからな」


「「……!」」


 それで気が済んだのか、果鎧兵と果剣兵はしかたない、許してやるかと表情を緩めた。

 うーん、まさか武具に嫉妬される事になるとは思ってもいなかったよ。


「ところでダンジョン核はどこにあるんだ?」


 宝物庫を見た感じ、ここにはダンジョン核らしきものはなかった。あるのはお宝ばかりだ。


「ええ、この部屋は囮でしょうね。番人を倒した侵入者が宝に眼がくらんで自分の存在に気付かず帰るように仕向ける為の部屋でしょう」


「宝物庫を囮にするとは大盤振る舞いだな」


 まぁダンジョンとしては人間のお宝なんかよりも自分の命の方がずっと大事だろうからな。


「!!」


 と、そこに果偵兵がやって来て俺の脚を引っ張る。


「どうやら果偵兵が何かを発見したようですね」


「隠し扉か! でかしたぞ!」


「!!」


 褒められた果偵兵が誇らしげに胸を張ると、他の果偵兵達が悔しそうに腕を振る。コイツ等割と個性豊かだよな。


「さぁ、奥に隠れているダンジョン核を破壊しに行きましょう我が王!」


「ああ!」


 といっても、まずは果偵兵達が先行する事には変わりなかった。

 彼等がこの先の安全を確認すると、ようやく俺達は隠し扉の先へと入ってゆく。

 細長い通路を進むと、広い空間にでる。

 そこは先ほどドラゴンと戦った空間よりも広かった。


「地下にこんな広い空間があるとは驚きだなぁ」


 いや本当にデカい。

 しかしそれ以上に驚いたのは……


「デカい扉だな」


 そう、驚く程デカい扉がそこにはあったんだ。

 正直いってさっきのボス部屋の扉よりもデカいんだが……


「っていうかもしかしてこの扉……」


 なんだか嫌な予感がしてきたぞ。

 実はさっきのレッサードラゴンはボスじゃなくて、この奥に本物の……


「リジェ、カザード」


 即座にリジェとカザードに注意を促すと、二人も何かを感じていたのか、すぐに頷きを返してくる。


「はい、カザード、魔法戦用意!」


「承知した」


 カザードも緊迫した様子で果術兵達に指示を送り魔法の準備を始める。

 そして先ほどの戦闘と同じように俺達はドアから離れて壁側に寄る。


「果偵兵、ドアの隙間から偵察を!」


「!!」


 果偵兵達が扉の傍の壁に張り付き、果実兵が扉を少しだけ開けようと近づいてゆく。


「……っ!? 我が王!!」


 その時だった。突然リジェがタックル気味に俺を押し倒して来たんだ。


「えっ!? なっ?」


 一体何事だと問おうとしたその時。

 ドゴォォォォォォォォォォンッッ!!

 次の瞬間、突然凄まじい爆音と衝撃が室内に迸った。


「うわぁぁぁぁぁぁっ!?」


 何だ!? 何が起こったんだ!?

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種から始める生産チート~なんでも実る世界樹を手に入れたら、ホントに何でも実ったんですが!?(旧題:世界樹の王)(旧題:世界樹の王) 十一屋翠 @zyuuitiya

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