第64話 フェリックスの魔法考察ノート
(この考察は機密保持のために日本語で書く)
魔法遺伝子がX染色体を通して、母系を辿ることが多いのはこれまでの考察通りだが、それだけではどうも、説明がつかない。そもそも、この世界の人類が、XY染色体で性決定を行っているかどうかも定かではない。
クラインフェルター症候群や、トリプルX症候群のように、3つの染色体を持っている可能性もあるだろうが、僕自身、そして妻のアビゲイル・ギュラーを被験者として、その周囲の系図を辿ってみて、おそらくこうではないかと考えられる説を思いついたので、記録しておく。
魔法因子がX染色体の劣性遺伝で伝わっていること自体はほぼ間違いないが、その中でも「発現すべきであるのに発現していない」個体が多い。「発現すべきではないのに発現している」個体は皆無であるので、これは保因遺伝子と並んで、保因遺伝子の性格を帯びながらなおかつ起動遺伝子の性格を持つ遺伝子が存在すると考えるべきだろう。
つまり、
①すべてのX染色体が保因遺伝子を持っていなければならない。
②いずれかのX染色体が保因・起動遺伝子を持っていなければならない。
このふたつの条件が揃って、初めて、魔法因子が発現すると考えられる。通常のX染色体をX、保因遺伝子を持つX染色体をX'、保因・起動遺伝子をX''とした場合、フェリックス・ヴァーゲンザイルの染色体はX''Yであると考えられる。そして、その母であるローレイ・ギュラーの染色体はXX''かX'X''である。
フェリックスの兄のアンドレイとコンラートにはいかなる魔法の兆候も見られないため、XYもしくはX'Yであると考えられる。
ローレイがX'X''であれば彼女自身も魔法使いであるのだが、非凡な直感があるとはいえ、それを魔法とみなせるかどうかは保留が必要だ。
幸い、ヴァーゲンザイル家とギュラー家は2代にわたって通婚していて、系図上の足取りを追いやすい。
僕の妻で従姉妹であるアビゲイル・ギュラーも魔法使いであることから、彼女の染色体はX'X''かX''X''であることは間違いない。ギュラー家では、
①アビゲイル・ギュラーが魔法使いである。X'X''かX''X''。
②ローレイ・ギュラーが魔法使いである可能性があり、XX''かX'X''であるのは確実である。
③ローレイの母のアイリス・アインドルフが魔法使いである。X'X''かX''X''。
④アビゲイルの父のアロイス・ギュラーに魔法使いの発現は見られない。
この3点の「確定事項」がある。巧妙にアロイス・ギュラーが魔法使いであることを隠していたことも考えられるが、ローレイの証言によれば、注意深く観察していたアイリスが、ローレイについては魔法因子を疑うような言動をしばしばとっていたのに対してアロイスについてはそうではなかったことを踏まえれば、おそらくアロイスにはアイリスからX''は伝わらなかった可能性が高い。
となれば、アビゲイルの持つX''は、母親のマリーン・セラードからもたらされたと見るべきである。現在のセラード家には魔法因子は見られないようだが、マリーンの母親の妹の子孫であるガネッタ准男爵は魔法使いとして知られている。
マリーン・セラード自身は魔法使いではなかったことからXX''であり、ここから敷衍すれば自動的に、アイリス・アインドルフの染色体はX'X''であり、アロイス・ギュラーの染色体はX'Yであることが導き出せる。
アビゲイルの姉妹のキシリアとザラフィアはXX'であることは間違いないだろう。
マリーン・セラードの母方の実家、ハインツ家で生じたアビゲイル型X''は、セラード家、ギュラー家、ヴァーゲンザイル・ダグウッド家へと渡り歩いたわけである。
僕の持つフェリックス型X''は、アインドルフ家、ギュラー家、ヴァーゲンザイル・ダグウッド家へと伝えられたわけだが、息子のマクシミリアンが持つX''はアビゲイル型である。
娘が生まれればフェリックス型を持つことになるのだが、場合によってはアビゲイル型をあわせもつことになる。その場合はどちらが発現するのだろうか。
アンドレイ、コンラートにはX''は伝わっていない、キシリアとザラフィアには、X'はあっても、X''は伝わっていないと考えられるから、甥姪たちは魔法使いではない。だが、X'は持っている可能性がある。
もし、マクシミリアンとジュノーが結婚していれば、男子は魔法使いにはならなくても女子は魔法使いになる可能性がある。
魔法は強大だ。だが魔法で出来ることばかりに目を奪われていたら、魔法では出来ないことが想像できなくなってしまう。
戦場での花形の魔法部隊であっても、結局は大砲程度の働きでしかない。
ダグウッドが火薬、蒸気機関、蒸気機関車、電気の利用を含めて前世知識を解禁していれば、世界征服など容易い。
科学の前には魔法など児戯に等しい。熟練を極めたルークの両斧であっても、機関銃相手に戦えるはずもない。それ以前にサリンでも撒かれれば戦う以前の話だ。
魔法は ― 。
この世界にとっては恩恵ではなく、呪いであるのかも知れない。
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