第155話

 私とリーゼロッテの護衛を決める最終選抜試験の翌日。

 私たちは公王にお目通りすべく、謁見の間までやってきました。

 理由は一つ。護衛が決まったと報告するためです。


「この者たちが護衛に選ばれたのか」

「その通りでございます」


 公王の言葉に私は恭しく頭を垂れました。


「ふむ。そちらの二人の顔は見覚えがある。確か、五騎士に選ばれておったな。それならば実力は申し分あるまい。頼りにしておるぞ」

「はっ」


 ヴァイスとリーラは短く返事をして、一礼しました。

 いつもであれば砕けた言葉遣いをするヴァイスですが、さすがに公王の前では畏まってしまうようです。

 

 ――本当のところは城に向かう前にシュヴァルツから公王に対して粗相のないようにと、きつく言われていただけなのですがね。


「……もう一人は初めて見るが、名は何と言う?」

「は、はい! ボードウィル伯爵家嫡男、ガウェイン・ボードウィルと申します!!」

「そういえば、ボードウィル伯爵から双子の息子と娘がいると聞いたことがあるが……護衛に選ばれるほどの実力とは、ボードウィル伯爵家の未来は明るいな。其方にも期待しておるぞ」

「も、ももも勿体ないお言葉ですっ!」


 二人に比べてガウェインはガチガチに緊張しているようです。

 まあ、無理もありません。

 いくら貴族とはいえ、私たちの年齢で国のトップである公王と話す機会など、まずないでしょうから。


 とはいっても、彼も幼い頃から礼儀作法は一通り学んできているはずなのですが……。

 私やリーゼロッテの護衛として帯同していただく以上、身分の高い方との面会する機会も増えてくるでしょう。

 その中にはガウェインを侮る者が出てくるかもしれません。


 ふむ。

 今まで肉体面でのトレーニングは一緒にすることはありましたが、礼儀作法も検討してみてもよいかもしれませんね。

 心と身体の両方を鍛えてこそ、真の紳士たり得るのですから。

 

 公王との謁見を終え別室に移動した後、私とリーゼロッテのどちらを護衛するかについて話し合いました。

 別室にいるのは私とリーゼロッテ、それから護衛に選ばれた四人のみです。

 

「はいはーい、ボクはアデル君ね!」

「私はリーゼロッテ様の護衛としてお仕えしていますので、もちろんリーゼロッテ様です」

「私はどちらでも構わない」

「お、俺は……」


 ガウェインは悩んでいるようでした。

 彼の視線は二人を交互に見ています。

 一人は私、もう一人はリーゼロッテではなく――リビエラに向けられていました。


 私の護衛をしたいけれどリビエラとも一緒にいたい、といったところでしょうか。

 仕方ありませんね。


「リーゼ、よろしいですか」

「ええ、構わないわ」


 リーゼロッテは私の言葉の意図を正確にくみ取ってくれているようで、二つ返事で頷いてくれました。


「ありがとうございます。何かあれば私が全力でお守りします」

「貴方も護衛される側なのだけれどね」

「おや、そういえばそうでしたね。忘れておりました」

「師匠、さっきからいったい何の話をしているんですか?」


 ガウェインは何のことか全く理解が出来ていないようです。


「貴様はリビエラと一緒に護衛をすることが決まったということだ」


 そうだろうと言わんばかりに視線を向けてくるリーラに、私は苦笑しつつ「その通りです」と言って頷きました。


「ええ!?」

「何をそんなにびっくりする必要があるのさ。本当は嬉しいくせにー」

「ヴァ、ヴァイス先輩! 嬉しいだなんて、そんな……」

「んー? 嬉しくないの? だったら、キミの代わりにボクがリビエラちゃんと一緒に護衛をしようかなー」

「それは駄目ですっ!!」

「ふーん? ということは?」

「リビエラさんと一緒がいいです!」

「あっはははは! そうかそうか。ガウェインくんはリビエラちゃんと一緒にいたいってことだね」

「はい!」

「うんうん、キミの気持ちはよーくわかったよ。ってことで、ボクとリーラはアデルくんの、ガウェインくんとリビエラちゃんはリーゼロッテ様の護衛に決定ってことでいいよね」


 頷いたのは私とリーゼロッテ、それとリーラです。

 リビエラは表情を隠すように俯いていますが、その頬は赤く染まっていました。

 

 告白をしたようなものですからね。

 それも私たちのいる前で。

 当の本人ガウェインはそのことに気づいていないようですが。

 まあ、無理に教える必要もないでしょう。

 彼には今のままの純粋さを持ったまま、進んでいってほしいですし。

 

 ……いつか本当にリビエラさんと一緒にいれるように見守っていますよ、ガウェイン君。


 私は心の中でそう呟いて、城を後にしたのでした。

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