第137話 アイリス救出作戦開始
ノインとゼクスに案内されたのは、海の近くに並び建つ倉庫の一つでした。
倉庫から離れた建物の物陰で身を低くしつつ、ゼクスを見ます。
「あの建物の中にアイリス様が?」
「せや。ああ、これ以上近づいたらあかんで。気づかれるかもしれんからな」
注意を促すゼクスの言葉に、小さくコクりと頷きました。
倉庫にある入り口の前には黒づくめの男が数人立っており、周囲を見回しています。
彼らの服装には見覚えがありますから、アイリスが中にいるのは間違いないでしょう。
ゼクスがどのような方法を用いてこの場所を突き止めたのか、非常に気にはなるところではありますが……尋ねたところできっと教えてはいただけないでしょうね。
「ん? どないしたんや」
「いえ、なんでもありません」
何よりもいま優先すべきことはアイリスの救出です。
時間が経つほど彼女の身が危うくなる可能性が高いのですから。
己の右手を見下ろします。
外にいるのは三人。
いずれも手には武器を持っています。
倉庫の中にどれくらいの敵がいるかは分かりませんが、どれだけいようと私の異能があれば問題ありません。
――いえ。
急いで外の男たちを倒したとしても、物音で中にいる敵に異常を察知されてしまうことも考えられます。
突入と同時にアイリスを人質に取られてしまっては元も子もありません。
「ノインさん」
「何っスか」
「私が正面から出て行って敵を引き付けます。その間に貴女の異能でアイリス様を助け出していただけないでしょうか?」
ノインの異能を用いれば、安全な場所まで一瞬にして移動できますからね。
「それは構わないっスけど……大丈夫っスか? 全ての危険を一手に引き受けることになるんスよ」
「大丈夫です。私に攻撃が集中すればするほど、ノインさんは安全にアイリス様のところまで近づくことができるでしょう?」
「……それを真顔で言えちゃうんスね」
「はい?」
「気にしないでほしいっス」
それだけ言うとノインは私から目を逸らしました。
「そうそう、気にせんとってや。ただ照れとるだけやから」
「照れる?」
「そうや……痛っ! ノイン、なにすんねんっ」
足を踏まれたゼクスはノインを睨んでいます。
「そんなんだからいつまで経っても彼女ができないんスよ」
「な、なんやと!」
「さあ、話はこれくらいにして作戦開始といくっスよ」
まだ何か言いたそうな顔をしているゼクスに構わず、ノインは移動を開始しました。
ゼクスは軽く溜息を吐きながら私を見ました。
「まったく可愛げのないやっちゃ。アデルくん、こっちはこっちでフォローするから思うようにしたらええで」
「ありがとうございます」
ゼクスに対し礼を述べた私は視線を黒づくめたちへ移します。
右手に力を込めてぎゅっと握りしめた次の瞬間、私は物陰から飛び出しました。
「なっ……!?」
「貴様は!?」
真正面に突如躍り出た私に男たちは目を見開き、驚愕の声をあげました。
三人のうち二人は慌てた様子ながらも武器を構え動き出し、残る一人は中にいる仲間に敵襲を呼びかけようとしているのでしょうか、倉庫の入り口に近づこうとしています。
ですが、そんな黒ずくめたちより早く、私は右腕を突き出しました。
開戦を告げるべく、第一位階を発現させます。
「『――――
初手に選んだのはリーゼロッテの"灼熱世界"。
炎のカーテンが現れ、一瞬にして三人を取り囲みました。
一気にいきますよ!
今度は右手を銃の形にすると、指先に炎をが集約されていきます。
炎の塊がゴオッという音を立てながら膨れ上がりました。
完成した弾丸を男たちに向けて解き放つと、赤光で縁取られた大炎雷となって咆哮しました。
撃ち込まれた砲弾によって倉庫の入り口付近が大爆発し、その衝撃で黒づくめは三人まとめて吹き飛んでいます。
「何だ、今の爆発はっ!?」
倉庫内から怒号が響き渡る中、発生した爆風と煙に紛れながら、私は入り口に向かって一直線に疾走しました。
さあ、救出作戦開始といきましょうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます