第135話 一筋縄ではいかないようです
シャルロッテとの距離をゼロにした私は、振り上げた剣を思い切り振り下ろしました。
試合を決定づける確かな一撃となる――はずでした。
「『――
シャルロッテがこの言葉を口にした直後、剣は空を切りました。
それもそのはず。
先ほどまで目の前にいたシャルロッテは、忽然と姿を消していたのです。
消えた? いったいどこに行ったというのでしょうか?
刹那。
ちりり、と何かが後頭部に触れたような気がしました。
五感以外のものが迫り来る何かを警告しています。
振り返ろうと動き始めた瞬間。
総毛立つような気配が、後方から近づいてきました。
これでは間に合いません!
そう判断した私は、その場から前方に跳ね飛びました。
「ほう、今のを避けるか。さすがアデルだ」
一瞬前までいた場所にシャルロッテが立っていました。
先程までと変わらぬ姿で。
一つだけ違うところがあるとするならば表情でしょうか。
自信に満ちたものに戻っています。
周囲に赤い薔薇は一つも見当たりません。
"絶対なる王の領域"は消え去っていますし、魔力が吸い取られる感覚も皆無です。
「シャル様こそ攻撃を回避するだけでなく、瞬時に私の背後を取るとは恐れ入りました」
「フハハハ、そうであろう」
満足そうに何度も頷くシャルロッテ。
目の前のシャルロッテは完全に丸腰の状態です。
それだけに私の攻撃が避けられたこと、急に後ろから襲いかかってきたことが不可解なのです。
――"神の領域"と言っていましたか。
あれが彼女の第二位階を発現するためのものであるとしたら、今は発現している状態ということになります。
一見しただけでは変化がまったく分からない以上、闇雲に近づくのは危険ですが――。
「どうしたアデルよ、来ぬのか?」
そう言われてしまっては、ジッと様子を見ている訳にもいきません。
大きく息を吸い込んで、そのままゆっくりと吐き出すことで精神を落ち着かせます。
剣を持つ手に力を込めて、シャルロッテを見据えました。
「……まいります」
「うむ! 来るがよい」
ここが正念場です。
右足にありったけの力を込めて、前方に飛びました。
先程までと同じく、瞬時にシャルロッテへ肉薄した私は、無意識のうちに剣を振り下ろしていました。
ブンっ、と黄金の刃が唸り、切っ先がシャルロッテへと吸い込まれていく――はずでした。
「ぐっ――!?」
しかし、剣がシャルロッテに触れる直前、ものすごい勢いで弾き返されたのです。
その勢いは剣を握っていた私自身にも伝わり、数メートル後方へ弾き飛ばされました。
どういう原理で弾き返されたのかは分かりませんが、剣が通じないというのであれば次は――。
「『――――英雄達の幻燈投影』!」
シャルロッテの四方を炎の壁で囲むと同時に"魔力供給"を発現させます。
左手の人差し指に炎が集約されたのを感じた私は、それをシャルロッテ目掛けて放ちました。
これならきっと――なっ!?
私の考えを嘲笑うかのように、弾丸と化した炎はシャルロッテに当たる寸前で反転したのです。
反転したということは、当然私に向かって飛んでくるということで……。
咄嗟にガウェインの"守護女神の盾"を発現させて、事なきを得ましたが、もう少し反応が遅れていたら自分の攻撃を自分で受けてしまうところでした。
「それだけ異能を発現させてもまだ魔力に余裕があるのだから大したものだ」
確かにまだまだ魔力は残っています。
連続して第二位階を発現することだって可能ですし、それで魔力が枯渇するということもないでしょう。
ですが、どれだけ異能を発現しようとも当たる前に跳ね返されるのでは意味がありません。
――跳ね返される?
魔力を奪うのでもなく、攻撃を防ぐのでもなく、跳ね返している?
つまりはそれがシャルロッテの第二位階の能力?
「余が認め、婿にと見込んだ男だけのことはある。だが『神の領域』を発現した以上、アデルに勝ち目はないぞ。余の第二位階は、ありとあらゆる攻撃・事象を余の望む方向に変換できる」
「ありとあらゆる……」
シャルロッテが言っていることが本当ならば、神の領域という名に恥じない力です。
「うむ! 余の望む方向に変換できるということはつまり、こういうこともできるのだ」
シャルロッテはそう言うと、タンッと軽く地面を蹴りました。
直後――。
シャルロッテが私の目の前で右手を振りかぶっていたのです。
彼女にそこまでの身体能力はなかったはず。
身体が勝手に攻撃に反応し、"守護女神の盾"を構えますが、シャルロッテはお構いなしと言わんばかりに、拳を放ってきました。
拳と盾が触れた瞬間、私の身体は盾ごと大きく後方に吹き飛ばされてしまいました。
「くっ……どこにそんな力が……」
「余は別に力なぞ込めておらぬ。『神の領域』によって事象を改変しているだけのことよ」
第一位階の強制的に魔力を奪うという能力も厄介でしたが、第二位階は更にとんでもないですね。
"クリファ"を完膚無きまでに倒すと言ったのも頷けます。
今の私が持っている手の中で、シャルロッテの"神の領域"を打ち破り、なおかつ彼女に直接攻撃を当てる方法を考えつくには――残念ながら時間が足りません。
攻撃を当てる方法がない以上、素直に負けを認めるほうが男らしいのでしょう。
ですが、私の魔力はまだ十分残っていますし、どこか怪我をしたわけでもありません。
ならば、最後の最後まで足掻いてみるのもまた一興というものです。
何故なら私は自分の足でまだ立っているのですから。
「うむ。良い目だ。まだ諦めてはいないようだな」
「もちろんです」
「よかろう! さあ、かかってくるがよい」
シャルロッテの言葉に頷き、右手に握ったままの剣を第二位階に昇華させようと力を込めたその時。
轟音が鳴り響くと同時に、会場内の一角から巨大な炎が上がりました。
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