第133話 彼女がいれば百人力……?
アイリスを助けた翌日。
この日も空は晴天に恵まれ、朝から気持ちの良い日差しが地上に降り注いでいます。
朝食を摂ったあと、早めに会場入りした私とリーゼロッテを待ち受けていたのはシャルロッテでした。
「いなかったですって?」
シャルロッテの言葉を聞いた途端、リーゼロッテは僅かに眉をひそめました。
いなかったというのはもちろん、黒ずくめの男たちのことです。
シャルロッテがオルブライト王国の騎士を引き連れて現場に駆けつけたのですが、到着したときには既に誰もいなかったと言うのです。
私が異能の持続時間を見誤っていたのか、それとも――。
「すまぬな。直ぐに周辺を捜索したのだが、見つけることはできなかった」
「いえ、私の方こそ甘かったのです。せめて一人だけでも連れてきておけば」
「自分を責めるものではないぞ。それに幼い少女、それも教皇が一緒だったのだ。判断としては置いていくのが一番よい。何かあった時に抵抗されては枷になるだけだからな」
悔やむ私に慰めの言葉をかけつつ、シャルロッテは考え込むように顎に手を当てました。
「警備を増やすように父様にも進言しておいた故、今後は心配ないとは思うが――それにしても"クリファ"の出現を目論むとはな。なかなか面白いことを考えつくものだ」
「面白いって……不謹慎よ、シャル!」
「うん? もし本当に"クリファ"をこの目で見ることができるのであれば、余は見てみたいぞ」
ちなみにシャルロッテには助けた少女がクリフォト教国の教皇であったこと、黒ずくめの男たちが"クリファ"の出現を目的としていることを伝えています。
「見たあとはどうされるおつもりですか?」
「うむ! もちろん余の力で完膚無きまでに倒すに決まっておる! 伝承の通りであれば"クリファ"と共存できるはずがないからな」
「全てを取り込もうした存在と共存はできないでしょうからね。そもそも、意思疎通が取れるのかどうかも分かりませんし」
講義では、四百年前に起きた"災厄"について教わりはしましたが、"クリファ"と意思疎通を交わしたと聞いたことがありません。
もしもそれが可能だったとすれば、どこから現れてどのような理由で人々を襲ったのか尋ねることもできたのでは、と考えてしまいます。
「"災厄"の象徴でもある"クリファ"と意思疎通を取ろうとした人間なんていなかったと思うわよ。取り込もうと襲ってくる相手を前に対話をしようだなんて、冷静でいられるかしら」
リーゼロッテの言葉に、思わず首を捻りました。
確かに、問答無用で襲ってくる――そんなシチュエーションにはこれまで遭遇したことはありません。
「そうですね。話をするよりもまず、相手を倒そうと身体が反応してしまいそうです」
「でしょう?」
「まぁ、現時点で仮定の話ばかりしていても意味のないことでしたね。大事なのは彼らの野望を止めることです」
"クリファ"を出現させないのが一番なのですから。
「確か、この大会が終わったらクリフォト教国に行くのであったな」
「ええ」
頷くと、シャルロッテがどこかウズウズしながら私の顔を見つめてきました。
「…………どうかなさいましたか?」
「再び"災厄"を起こさんとする輩に立ち向かい、世界を守る。何とも胸が高鳴るではないかっ。うむ! 余もアデルについていくぞ!」
途端にリーゼロッテの白い頬が赤く染まり、シャルロッテに雷を落としました。
「ま……待ちなさい! 一国の王女がそう簡単に国外に出られるわけがないでしょ! それに、私たちだってお父様の許可をいただかないと……シャルもそうでしょう!!」
「リーゼが知っているオルブライト国王は、こんなとき駄目だというと思うか?」
「……いえ、むしろ率先して行かせようとするでしょうね……」
「フハハ、よく分かっているではないかっ」
高らかに笑い声を上げるシャルロッテ。
その姿を見たリーゼロッテは頭を抱えています。
「それにな。余はいずれこの国の王となる。王とは飾りではない。臣下の羨望を一身に浴び、道を見失った民に進むべき道を示す道標として先頭に立つ者こそが王なのだ。なればこそ、かような面白きことに参加せずして何が王か!」
「面白きことって……自分がただ楽しみたいだけじゃない」
「否定はせぬ」
「否定しないのね……」
先頭に立つ、というところまでは胸を打つものがあったのですが。
ですが、シャルロッテが一緒に来てくれれば、解決するスピードもぐっと早まるはずです。
「その時は是非よろしくお願いいたします」
「うむ、任せておけ!」
その時、会場内にファンファーレが轟きました。
『お待たせしました。本日の試合を開始いたします。第一試合はレーベンハイト公国とオルブライト王国です。代表の皆様は、控え室にて待機をお願いいたします』
アナウンスに続いて、会場内に盛大な歓声と拍手が沸き起こりました。
「さて。まずは今日の試合を楽しむとしよう。余の相手は――」
シャルロッテの視線と私の視線が重なり合います。
「私がお相手いたします」
胸に手を当て、一礼しました。
リーゼロッテたちとシャルロッテの手合わせを思い出します。
いくらフィナールの魔力量が多いといっても、シャルロッテの異能の前ではシュヴァルツたちも同じ状況に陥るのは目に見えています。
事実、今までシャルロッテと対戦した相手は全員が魔力の枯渇、もしくは枯渇する前に負けを認めていました。
その点、私であれば易々と魔力が枯渇することはありません。
「うむ! アデルと対戦するのは初めてであったな。楽しみにしておるぞ」
「シャル様のご期待に沿えるよう、全力をもってお相手しましょう。それでは、後ほど」
私はもう一度シャルロッテに一礼してから、リーゼロッテとともにレーベンハイト公国の控え室に向かいました。
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