第118話 意外な人物の名前が出てきました

 他校からの、しかも"学園対抗戦"に代表選手として出場したリビエラが転入してきたことは、瞬く間に学園に広まりました。


 試合の映像は公国中に放送されていましたしね。


 リビエラを一目見ようと、休憩時間には他のクラスの生徒が大勢やってきて、廊下から眺めていました。

 ただ、中に入って声をかけるということはありませんでした。

 リビエラ自身、話しかけづらい雰囲気を出していたというのもありますが、常にリーゼロッテの後ろで従者のように振舞っていたからです。

 リーゼロッテの隣には当然私がいるわけで。

 

 それが余計に近寄りにくい状況を作り出しているのでしょう。

 リビエラだけでなく、私やリーゼロッテにもちらちらと好奇の視線が向けられているようでしたから。


 ガウェインのおかげで、フィナールの生徒は普段通りに接してくれていますが、元々交流が多いわけではない他のクラスはそういうわけにはいきません。

 

 まぁ、入学したばかりの頃にも似たようなことがありましたし、人の噂も七十五日といいますから、私たちにしろリビエラにしろ、いずれ収まるでしょう。



 午前の講義が終了すると、私は一年生組にリビエラを加えた五人で学食に向かいました。


 学食へ入った途端、中に居た多数の学生たちが激しくざわめきました。

 噂の三人・・・が一度に現れたのですから、やはり気になってしまうのでしょう。


「皆さん、どうか私たちのことは気になさらずに、お食事を続けてください」


 私は多くの視線を受けながらそう言って一礼した後、ニッコリと微笑みました。

 すると、その場にいた殆どの学生は頬を赤くしつつ、食事を再開しました。

 

 これで人目を気にせず食事ができるというものです。

 

「さあ、私たちも昼食にしましょう、ってどうされましたか?」

「いえ、さすがアデルだって思っただけよ。ねえ」


 リーゼロッテの言葉に同意するように頷く三人。


 腑に落ちませんが、とにかくまずは注文して席に着いてからです。


「リビエラさんは新人戦の時と雰囲気というか口調が違うのね」


 席に着いて食事をしている最中に、エミリアが急に切り出しました。


「アレはあくまで演じていただけなので。こちらが普段の私です」

「へえ」

「じゃあ、このままずっと今の感じなのかい?」


 ガウェインの問いかけに「もちろんです」とリビエラは首肯しました。

 

「リーゼロッテ様のお傍にこうしている以上、自分を偽る必要はありませんから。それとも――ガウェインくんは~、こっちの私のほうが好きだったりするのかな~?」

「へっ!? い、いや、俺はその……」


 向かいで涼しい顔をしていたリビエラから笑みを向けられたガウェインは、目を大きく見開いて慌てだしました。

 顔が真っ赤になっています。


「兄さん……不潔」

「誤解だ! 俺は一言も好きとは言っていないだろうっ」

「でも、嫌いとも言っていないでしょ」

「ぐっ、それは……」


 エミリアの言うとおり、否定をしていないということは可能性があるということです。


 だからといって不潔だとは思いません。

 ガウェインも思春期の男の子ですから、別に恋をしてもなんら問題はないのですから。

 

「残念ですが、それは九十九パーセント成就しませんから諦めたほうがいいですよ」


 微笑を消して真顔になったリビエラがハッキリと言いました。


 九十九パーセントとは厳しい……ん?

 では残りの一パーセントは?

 

「そうですね。仮に、ガウェインくんが私よりも強くなれば……好きになるかもしれません。恋人は自分よりも強い人と決めていますから」


 何故か私のほうをみてクスっと笑い、またガウェインのほうを見ました。

 

 リビエラよりも強くなるのは並大抵の努力では難しいとは思いますが、もし本当に彼女のことが好きなのであれば、私はガウェインを応援しましょう。

 今の時点では、からかわれて顔を赤くしているだけかもしれませんし。


 数分後、空になったコップをトレイに置いてから、私は向かいのリビエラを見やりました。

 

「それで、リビエラさんはどうしてこんな時期に転入してきたのですか?」

「どうして、と言われればリーゼロッテ様の為と答えるのが一番正しいのでしょうね」

「私の為? いったいどういうことなの?」

「それは……」

 

 リビエラは、私とリーゼロッテを順番に見つめて言いました。


「リーゼロッテ様を狙っている者がいるという情報を手に入れたのです。学園内はそれなりに安全とはいえ、守りが多いにこしたことはないだろうという公王のご判断です」

「お父様が……相手は具体的に分かっているの?」


 リビエラが首を左右に動かしました。


「いいえ。ですが、近いうちに必ず現れるので注意するようにと」

「必ず、ね」


 言い切ったということは、それだけ確かな情報を得ているということです。

 公国騎士団の中に諜報専門の部隊でもあるのでしょうか?


「ねえ、リビエラ」

「なんでしょう?」

「私が狙われているという情報だけど、誰からの情報なの?」

「誰から、ですか?」

「ええ。お父様に進言できる人物なんて限られているもの。いったい誰なのか気になるわ」


 公王に直接会って話ができる者など、そう多くはないはずです。

 そう考えると確かに気になります。


 周囲はまだ食事を摂る学生で賑わっているのですが、この場だけ切り取られたかのように喧騒が避けているようでした。


 リーゼロッテの問いに一瞬押し黙ったリビエラでしたが、やがて大きく息を吸い、静寂を破るように口を開きました。


「情報をくださった方は、リーゼロッテ様もよくご存知の人物――キース・ウル・オルブライト様です」

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