第80話 学園対抗戦編⑮
「『――――
"
「くっ!? 『――――
ごくごく僅か、ほんの一瞬遅れてオスカーも動き始め、異能を発現しましたが、その顔には
それもそのはず、腰を落として受身の気配を見せていた私が、彼の予想を裏切って開始と同時に突進してきたからです。
オスカーの異能は第一位階までですが、新人戦の時に見ていますからね。
距離を取るのは愚策、近づいて対応した方が良いと言えるでしょう。
二人の距離が相対的に凄まじい速さで一気に縮んでいきます。
ですが、同時に私の近くも加速され、時間の流れが緩やかになるような感覚を味わいました。
これは恐らく、"正統なる王者の剣"による効果でしょう。
私の目には、槍術を繰り出そうとする彼の全身の動きがハッキリと見て取れます。
「てえええええっっ!」
瞬速の刺突、その先端が私の喉元に迫りますが、"正統なる王者の剣"で内側からいなし、そのまま剣を滑り下ろして小手の動脈を狙いました。
仮に防具を身につけていようとも、腕の内側は守れません。
ちょっとでも切っ先が触れれば、決着は着きます。
しかし、狙った手首が消えました。
オスカーが槍から片手を離したのです。
「くっ」
剣の返しが一瞬遅れました。
その隙を見逃すオスカーではありません。
両手で握り直した槍を振り上げ、渾身の一撃が真上から私の頭を叩き割らんとばかりに振り下ろされようとしています。
オスカーに扮した"顔なし"であれば、この隙に距離を取ろうとしたでしょうが、なるほど。
このまままともに食らった場合、看過できないダメージを
勝利を確信しているのか、オスカーの顔に喜色が浮かんでいます。
ですが――。
先を取り、一瞬早く動き出した私の"雷を切り裂く剣"は斜めの軌道を描き、まだ振り下ろす途中であった彼の槍に命中しました。
凄まじい量の火花が舞います。
力と力のぶつけ合い。
静まり返っていた観客席から一斉に歓声が上がります。
「あれを防がれるとは思いませんでした」
「私もですよ」
「……その割にはアデル君。笑っているように見えますよ」
――笑っている?
ふふ、それはそうでしょう。
「オスカー君。貴方も笑っていますよ」
「おっと、これは失礼。ですが、僕が笑っている理由とアデル君が笑っている理由は、きっと同じだと思いますよ」
「でしょうね」
強い相手と戦える。
そこに喜びを感じるほど戦闘狂ではないつもりでしたが、どうやらだいぶこの世界に馴染んでいたようです。
――これではヴァイスと変わりませんね。
私は笑いを収め、二本の剣を構え直すと、意識をまた戦闘態勢に切り替えました。
今日、オスカーから勝利を掴み、優勝することがまず第一歩。
負けるという選択肢はありません。
気合を入れるとともに瞳にも力を込め、オスカーを捉えます。
私の気合が伝わったのか、オスカーは気圧されたかのようにその場から半歩後退しました。
ですが、オスカーもこの試合にかける想いは私と同じなのでしょう。
軽く頭を振ると、私の視線を正面から受け止め、両手で槍を構え直しました。
大歓声が徐々に遠ざかっていきます。
私の身体を構成する細胞の一つ一つが、目の前のオスカーに集中していくような気がしました。
全身の血流が早まっていくのを感じます。
お互いに一瞬たりとも視線を背くことなく、睨み合いを続けました。
上がっているであろう周囲の歓声は、もはや私の耳には届いていません。
「フンっ!」
先に動いたのはオスカー。
私に向けて槍を突き出すと、先端の五つの切っ先は光線となって飛翔します。
「甘いですよっ」
向かってくる五つの光線をふた振りの剣で弾き返した私は一気に飛び出し、地面ギリギリを
オスカーの間合いまで瞬時に侵入したところでくるりと身体を
槍の柄の部分で迎撃され、激しい火花が散りますが、防がれることは想定済み。
息つく暇を与えず、"雷を切り裂く剣"が槍の内側へと滑り込み、オスカーの脇腹に達する直前で、槍を勢いよく旋回されて阻まれてしまいました。
このままでは埒があかないと踏んだ私は、新たな異能を発現させようとしたのですが――。
「『――
オスカーが新たな異能を発現させると、彼の左腰に一振りの剣が姿を現しました。
その剣は私の持つ剣と違って鞘に収まっていましたが、鞘自体も淡い輝きを放っています。
――あれがオスカーの第二位階? いえ、それよりも……この距離は
オスカーが発現させた剣に嫌なものを感じた私は、後方へ飛び退けると同時に右手をオスカーにかざすと、新たな異能を発現させました。
「『――英雄達の幻燈投影』!」
直後、炎のカーテンがオスカーを取り囲み、視界を遮ります。
初見の攻撃を相手にする際は、距離を取って常に相手の自由を奪うことが大事。
如何なる攻撃にも対処する余裕を作っておくことだ、というシュヴァルツの教えを思い出した上での選択です。
ところが、オスカーは槍自体を水平に構えると――。
「ぬん!」
重い気合とともに、尖った先端で突き攻撃を放ってきました。
いつの間にか元に戻った先端は先程と同じように光線となり、"灼熱世界"を突き抜けて、一直線に私に向かってきます。
「うおおっ!」
私は
四つ目までは叩き落すことに成功するも、最後の一つは"正統なる王者の剣"の横腹に命中しました。
剣から激しい衝撃が全身に伝わり、数メートルほど吹き飛ばされます。
転倒を防ぐべく、"雷を切り裂く剣"を地面に突くと、そのまま空中で一回転をして着地しました。
「我が敵を切り裂け!」
オスカーが叫ぶと、ひとりでに鞘から抜け、十字の
――剣では間に合いそうにありません。
ならばっ!
力を借りますよ、ガウェイン君!
「『――英雄達の幻燈投影』!」
オスカーによって放たれた"不可避の十字剣"でしたが、私が発現させたガウェインの"
「私の第二位階を甘く見てもらっては困りますね!」
オスカーの
激しい火花をまき散らしながら、何度も何度も自動で攻撃を繰り出すオスカーの剣。
ミシ……ミシと、徐々に軋むような音が盾から聞こえます。
これが第一位階と第二位階の差?
いえ、私の想いがガウェインほど強くないからでしょう。
いくら他人の異能を再現出来ると言っても、所詮借り物の異能。
想いの強さはやはり本人が一番強いのです。
エミリアを誰よりも大事に想っているガウェインが発現したのであれば、きっとありとあらゆる攻撃を防ぐ盾となるはず。
私が発現した盾では、もってあと少しといったところでしょう。
盾が破壊されてしまえば、後は私に向かってくるのは明白です。
そうなってしまえば、剣と槍の両方を防ぐことは難しい。
オスカー自身は未だ、炎の檻に閉じ込められたままであり、勝機があるとすれば、そこをつくしかありません。
――分かっているなら、私が取る手は一つのみです。
右手の"正統なる王者の剣"を解除した私は、"雷を切り裂く剣"を握る左手にギュッと力を込めました。
レイ先輩、力を借ります。
私は"守護女神の盾"をその場に置いたまま、地面を蹴りました。
"灼熱世界"に囚われたオスカーへと、一直線に間合いを詰めていきます。
左手に握られた剣の力を感じながら、私はかつてないほどの加速感を味わっていました。
感覚が一段、そしてまた一段とギアが上がったと思うたびに、スピードも今まで感じたことがない速度に上がっていきます。
まだです。
もっと速く、彼の剣が私に追いつくよりももっと!
と、炎のカーテンを突き抜けてオスカーの目の前に接近しました。
オスカーの顔に驚愕といったような感情が走りました。
仕方ありません。
先程まで離れていた相手が、いつの間にか自分の直ぐ傍に近づいているのですから。
「う、うわああああ!」
焦っているのか、叫びながら大振りで突き出すオスカーの槍を左手の剣で受け流すと、私はオスカーの後ろに回り込みました。
オスカーの右肩にそっと右手を置きます。
「これで、終わりです」
オスカーが振り向くよりも早く、私は最後の異能を発現させました。
「『――英雄達の幻燈投影』!」
直後、オスカーの肩を一筋の閃光が突き抜けました。
「があああぁッ……!?」
断末魔のような悲鳴をあげたオスカーは、その場に崩れ落ちます。
たった一撃、されどピタリ試合を終わらせるに足るだけの致命的なダメージを受けたオスカーは、そのまま起き上がることはありませんでした。
"守護女神の盾"のある方を見ると、"不可避の十字剣"が消えています。
オスカーが気を失ったのでしょう。
全ての異能を解除します。
「勝者――聖ケテル学園、アデル・フォン・ヴァインベルガー」
試合が終了し、クラウディオの勝利宣言と同時に、耳に渦巻く歓声が届いてきました。
勝てましたか――。
オスカーはクラウディオに抱きかかえられ、リビエラ達がいる場所へと運ばれていきました。
勝利を実感した私は、観客席から聞こえる歓声に手を上げて応え、四方の観客席に深々と一礼してから、身を
そして、視線の先で笑みを浮かべながら手を振るリーゼロッテ達のもとへと戻るのでした。
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