第45話 幕間「シャルロッテの部屋にて」

 アデル達の出迎えを受けたシャルロッテ達は、そのまま学園内の施設についての案内を受けた。

 案内役は、アデルを中心としたフィナールの一年生四人組。

 シュヴァルツ達"五騎士"はというと、学園長に報告があるからとアデル達にシャルロッテ達を任せ、その場を後にする。


 学園の案内を受けたシャルロッテ自身、オルブライト王国内において有数の学校に通っていた。

 しかし、聖ケテル学園ほど充実した設備は見たことがなく、美しい深緑の瞳を輝かせながら、幾度となく感嘆の声を漏らす。


 案内を受けている最中、何度もアデルの腕に己の腕を絡ませようと試みたシャルロッテ。

 有言実行を信条とする彼女の行動力は、常人の理解を遥かに超えるものではあったが、その悉くをリーゼロッテに邪魔された為、全て失敗に終わった。


 日が落ちると、フィナールの学生寮で歓迎会と称した食事会が開かれ、シャルロッテはアデルをはじめとした、フィナールの学生達から歓待を受ける。

 何人もの学生からの挨拶を受け答えるシャルロッテの姿は、王女というよりも君主、もしくは皇帝のような振る舞いであった。

 端的に言ってしまえば"上から目線"であり、王女という立場といえども、普通であれば誰しも気になるところである。

 気になるはずなのだが、フィナールの学生達は何故か誰一人として何とも思わず、それが当然・・・・・であるかのように受け入れていた。


 歓迎会の場でも、シャルロッテは何度もアデルに近寄り、元来の強引さで二人きりになろうとしたのだが、ここでもリーゼロッテの強固な守りに阻まれることとなる。

 何度も妨害されたことにより腹が立った――かと思われたが、そんなことはない。


 シャルロッテ・ウル・オルブライトという人物は、己の欲望に忠実で猪突猛進気味なところはあるが、細かいことは気にしない大雑把さと寛大な心を併せ持っていた。

 それもこれも、全て自身に対して絶対的な自信を持っているからであり、最終的には己の思い描いた通りに実現できると信じているからだ。

 故に邪魔されたからといって彼女が焦ることは全くなく、むしろ妨害してきたリーゼロッテに対しては、大切な人を取られまいと必死になっている可愛い美少女、といった認識しか持っていない。

 シャルロッテから見れば、同じ王女という立場のリーゼロッテすら愛でるべき対象なのだ。





 歓迎会が終わり、滞在用にと案内された部屋の扉をシャルロッテが開けると、学生が住むには十分過ぎるほどの広さが目の前に広がっていた。

 部屋に入った彼女は思わず感嘆の声を漏らす。


「ほう! 学生寮というからどんなものかと思えば、中々良い部屋ではないか。のう、ゼクス、ノイン」

「確かに学生が住むにしては、勿体ない広さやと思いますわ」

「そうっスね。自分が住んでる部屋より広いっス」


 シャルロッテの忠実な護衛である、ゼクスとノインは主人の問いかけに対して首を縦に振り、肯定した。

 その答えに満足した彼女は、クイーンサイズはあろうかという備え付けのベッドに飛び込みダイブする。

 身体が沈み込むほどのふかふかしたベッドに心地よさを覚えつつ、彼女は口を開く。


「しかし、ゼクスから聞いていた以上に美しい男であったな、アデルは。うむ! 何としても余の婿に迎え入れるぞ」

「姫さん、それは一向に構わんのですけど、口だけは滑らさんようにお願いしますわ。あん時はホンマ心臓が止まるか思いましたで」

「右に同じくっス。あの時の黒騎士の圧力は半端無かったっスよ。自分、もう少しでチビっちゃうところだったっス」

「ノイン……一応女なんやから、チビるとか言うもんやないで」

「一応とは何っスか。一応とは。自分、どこからどう見ても可憐な女の子っスよ」

「さよか」


 女の子らしく見せようと、身体をくねらせるノインに対して、ゼクスは何やら呆れた声を上げる。

 そんな二人の護衛による、寸劇にも似たやり取りを、微笑ましそうに見つめるシャルロッテ。


「フハハ、すまぬな。つい忘れてしまっておったのだ」

「つい、であんな目に合うんは懲り懲りですわ……。そもそも偵察自体、ノインがおらへんかったら結構ヤバかったんですから」


 そう言って大きな溜息を吐き、ゲンナリした顔をするゼクス。

 

「ゼクスには感謝しておる。おかげで留学を決めるキッカケになったし、何より面白いモノも見れたしな」

「……面白いモノ、でっか?」


 ゼクスの問いに、シャルロッテは頷きを返していた。

 瞳を閉じながら頷く様は、何か思いを馳せるようにも見えたが、しかし再び顔を上げた時には一転して弾むような響きが口調に乗る。


「そうだ! リーゼロッテがあそこまで感情を露わにするのは珍しい。美少女が取り乱す姿は何とも愛らしいではないかっ」

「さいでっか……リーゼロッテ様も可哀想に」


 力強く握りこぶしを作る目の前の主人に向かって、もう一度大きな溜息を吐くゼクスであった。

 彼の肩をノインが、「仕方ないっスよ先輩。これが自分らの主っス」と言いながら、数回に渡って手で叩く。

 

「せやな。ま、全部コミコミでウチらの仕えるべき姫さんやから、しゃーないわな」

「そうっスよ」

「そうだ! 余は美しいものが大好きだからな! それを変えるつもりはないし、今後も貫き通す。それが例え、リーゼロッテの怒りを買うことになろうとも。その愛でるべき全てを、余は愛そう」


 言い終えてから、すっと二人に流し目を向け、シャルロッテはからかうよに笑窪を浮かべた。


「まあ、もっとも――最終的には全て余のモノになるのだがな」


 まさに傲岸不遜。

 シャルロッテの絶対的な力強い宣言に、ゼクスもノインも息を呑む。

 自信過剰なまでに暴君な振る舞いをする彼女だが、それが許されるだけの異能チカラを彼女は持っていた。

 "世界最高"と称される魔力を持つアデルはおろか、"五騎士"でさえシャルロッテの異能の前では可愛いものだ、とゼクスもノインも思っている。

 我らの主こそ唯一にして至高。

 それが彼ら二人の総意だった。


「そんで姫さん。明日からはどうするつもりでっか?」

「うむ! 当然アデル達と行動を共にするぞ。ゼクスから報告を受けて大凡知ったつもりになっておるが、やはりこの目で見て、実際に体験した方が良いからな」

「行動を共にするだけっスか?」

「そんなハズがないであろう、ノインよ。明日からも当然アデルの気持ちを掴むべく、ガンガン攻めるに決まっておる」


 にっこりと柔らかだが、同時に大上段からの物言いだった。

 しかし何故か嫌味は感じさせない。

 彼女の人徳なのだろうか、それとも別の何かが働いているのか、ゼクスとノインが苦笑を漏らしてしまうほど、それは自然な態度だった。


「さて、明日から忙しくなるな。今日はさっさと湯浴みをして眠りにつくとするか。ノイン! 一緒に入るぞ、余の世話をするのだっ」


 そう言い終わるや否や、シャルロッテは身につけている衣服を全て脱ぎ去り、一糸纏わぬ姿になる。

 異常とも取れる行為なのだが、恥ずかしがることは一切なく、しなやかで美しい肢体をさらけ出す。

 シャルロッテの行動をゼクスは分かっていたのだろう、いつの間にか部屋の外に退出していた。

 ノインも当然のことのように床に脱ぎ捨てられた衣服を拾い上げると、「了解っス。んじゃ自分も脱ぐっス」と、その場で衣服を脱ぎ、裸体となる。


「うむ! では入るぞ」

「はいっス」


 そのまま二人は、浴室へと姿を消したのだった。

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