第25話 新人戦とは②
シュヴァルツから告げられた言葉に異を唱える者は、私を含めて一人もいませんでした。
他校の一年生が二人しか居ないのでしたら当然でしょう。
しかし、気になることもあります。
「シュヴァルツ先輩、学園の人数が多いのですから構わないのですが、誰が二試合に出場する事になるのでしょうか?」
リーゼロッテとガウェインかなと思っていたのですが、予想は違うものでした。
「俺としてはリーゼロッテさん、そして……アデル君。君達二人に出てもらいたいと考えている」
「「私、ですか?」」
「あぁ。入学して一ヶ月の一年生同士が試合をするからといって、適当に行うわけではない。新人戦は謂わば学園対抗戦の前哨戦にあたる試合だ。負けることは許されない」
シュヴァルツの声が、熱を帯びているように感じたのは私だけではないでしょう。
並び立っている三人の顔を見ると、皆真剣な表情で話を聞いています。
「ガウェイン君やエミリアさんが弱いと言っている訳ではないんだ。君達兄妹も素質はあるし、強くなると俺は思っている」
「あ、有難うございます!」
「有難うございます」
"五騎士"筆頭のシュヴァルツから素質があると褒められたのが嬉しいのでしょう。
二人とも目を輝かせ、満面の笑みを浮かべていました。
「今回リーゼロッテさんとアデル君を選んだのは理由がある。まぁ、当然と言えば当然の理由なんだが」
「当然の理由、ですか?」
思わず聞き返してしまいましたが……はて?
リーゼロッテはともかく私が選ばれる理由などあったでしょうか?
すると、答えは即座に与えられました。
「簡単なことだよ。まずリーゼロッテさんは第二位階の勝利を発現する事が出来る。この時期の一年生で第二位階まで発現出来る者は、まず居ない。第一位階と第二位階では、発現の条件も消費する魔力も違うんだ」
「はい! シュヴァルツ先輩!」
勢いよく手を挙げたのはガウェインです。
「ん、何だい? ガウェイン君」
「発現の条件と消費する魔力が違うと言われましたが、具体的にはどう違うんですか?」
私も気になっていた事でしたので、ガウェインは実に良いタイミングで質問してくれました。
「そうだな……先に消費する魔力の違いを教えておこう。第一位階の消費が一だと言ったのは覚えているかな?」
「はい!」
「宜しい。個人の異能によって違いはあるが、およそ一と思ってくれればいい。それに比べて第二位階の消費だが、約三倍……三程度消費する」
三、ですか。
確かフィナールの生徒で最大値が十くらいと仰っていましたから、一度の発現で消費する魔力としてはかなりの量でしょう。
ガウェインも理解しているようで、真剣な表情で頷いています。
「消費する魔力は増えるが、フィナールクラスであれば特に問題はない。魔力の多寡でクラス分けをしているのだからね。大事なのは発現の条件だが、願望を"昇華させる"ことだ」
「願望を"昇華させる"……?」
急に難解な言葉が出てきたせいか、ガウェインは腕組みをして唸り出しました。
「フフ、そう難しく考えることはないよ。第一位階は抱いた願望を形にした状態。第二位階は第一位階で発現した願望の派生、上位互換と思ってくれればいい。己が発現した願望の上に更に願望を重ねることで発現する異能、それが第二位階である勝利だ」
願望の上に更に願望を重ねる?
話がややこしくなってきました……。
ガウェインも変わらず唸っていますが、隣にいるエミリアも難しい顔をしています。
一人涼しい顔をしているのは一年生の中で唯一、第二位階を発現出来ているリーゼロッテでした。
「いい? 第一位階を発現した状態で別の願望を発現するの。どんな願望を抱くかは人それぞれだから省くわ。貴方達の願望と私の願望が同じはずがないもの。一番大事なのは、必ず第一位階を発現した状態でないと第二位階は発現しないということよ」
「リーゼロッテ様、有難うございます。何となくですが理解出来ました」
「そう。説明した甲斐があったわね」
第一位階を発現した状態だから願望を重ねる、ということですね。
ということは、第三位階も第二位階を発現した状態でないと発現出来ないのでしょうか?
もしそうであるならば、魔力の消費は更に増えるでしょうし、魔力の低い者であれば発現出来ないのでは?
「シュヴァルツ先輩」
「何かな? アデル君」
「第三位階も同じように、第二位階を発現した状態でないと無理なのでしょうか?」
「考え方としては合っているよ。但し、同じようにしたからといって第三位階の発現が成功する事はない」
「どうしてですか?」
聞いてはいけない問いだったのか、シュヴァルツは困った顔のまま微苦笑しています。
「第三位階を発現するには、願望とは別に"覚悟"が必要になるんだ」
「"覚悟"?」
「そう。とても重く、とても大切な"覚悟"がね」
「どれほどの"覚悟"でしょう?」
「……すまないが、今の君達に教える事は出来ない。いいね?」
「はい……」
シュヴァルツの声は、静かでしたがよく通り、有無を言わさぬ圧倒的な力がありました。
頑なに拒否の態度を見せている以上、聞くのは諦めた方が良さそうです。
返事と共に諦めたのが分かったのでしょう。
困り顔から一転、シュヴァルツは邪気の無い爽やかな笑みを浮かべていました。
「だいぶ話が逸れてしまったな。リーゼロッテさんを選んだ理由については分かっただろう。次に、アデル君を選んだ理由だが、簡単に言えば魔力の多寡、これが一番大きい。魔力が多ければ異能の発現が何度も出来るし、何よりアデル君は複数の異能を発現出来るからね。対戦相手も対処が間に合わないはずだ」
「言われてみれば、確かにそうですね」
「もしかして……気付いていなかったのかい?」
「お恥ずかしい限りですが、はい」
自分自身の事となると採点が厳しくなってしまいますからね。
今の今まで私が選ばれた理由が分かりませんでした。
照れ笑いを浮かべながら人差し指で頬を掻きます。
「フフ、ハハハ。アデル君は、たまに抜けたところがあるな。そこもまた面白いところではあるんだが」
「その、恐れ入ります」
私の言葉に、優しくシュヴァルツは頷いてくれました。
「俺が二人を選んだ理由は以上だが、ガウェイン君とエミリアさんは納得してもらえるかな?」
「問題ありません!」
「兄さんに同じく私も問題ありません」
ガウェインとエミリアの返事を聞いたシュヴァルツは、私とリーゼロッテに視線を向けます。
「リーゼロッテさんとアデル君は二試合出るという事で問題ないかな?」
「問題ありません」
「謹んでお受け致します」
「うん。四人ともいい返事だ。では、来週の新人戦は頼むよ。例年、フィナールの試合は特に盛り上がる。学園に良い結果をもたらしてくれる事を期待しているよ」
「「「「はいっ!」」」」
元気よく返事をする私達四人を、眩しいものでも見るように目を細めるシュヴァルツの表情がとても印象的でした。
学園対抗戦ではありませんが、学園の代表として試合を行うのです。
異能を発現出来るようになったばかりとはいえ、無様な姿を見せる訳にはまいりません。
「ガウェイン君、早速明日から特訓ですよ!」
「気合が入っていますね、師匠! お供します!」
「私達で学園に勝利をもたらしましょう」
「はい!」
「……意外と熱血なところもあるのね」
「兄さんは熱血と言うより、アデル君と一緒に特訓が出来て嬉しいだけですよ」
熱血? 大いに結構ではありませんか。
今日という日が二度と来ないように、新人戦もまた一度しかないのです。
悔いを残さぬように全力を尽くすのは当然の事。
しかし、リーゼロッテもエミリアも何を他人事のように言っているのでしょう?
二人に近づくと、真っ直ぐ目を見てニコリと微笑みながら一言。
「勿論お二人も一緒に特訓ですよ」
「「えっ……!?」」
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