第16話 学園生活の始まり⑦
「――――始めるのですッ!」
ソフィアの開始の合図と同時に、私は右手に意識を集中させます。
頭の中で創造するのは当然――シュヴァルツの異能。
「『――――英雄達の幻燈投影!』」
一瞬の眩い光の後、私の右手には"正統なる王者の剣"が握られていました。
「フッ、昨日遠目から見た時も驚かされたものだが……こうして間近で見ると更に驚かされるよ。シュヴァルツの剣と全く違いがない」
ふむ。
右手の"正統なる王者の剣"に目をやります。
皆さん
見た目は確かに完璧に再現出来ているのでしょう。
ですが性能は?
この剣がただ光り輝く見事な剣だけとは思えません。
何故なら、遣い手がシュヴァルツだからです。
彼の創造したものが只の剣のはずがない。
その辺りの検証もすべきかもしれません。
「何か気になることでもあったかな?」
レイの言葉に思考が現実に引き戻されていきます。
――っと、今は目の前の事に集中しなくてはですね。
「いえ、少し思うところがあったものですから。手合わせ中に申し訳ございません」
「そうか。それじゃあ、もう大丈夫かな?」
「はい。いつでも」
一つ頷き、レイを見据えます。
「うん、いい返事だ。ではッ! 『――
レイが異能の発現を終えると同時。
突然、建物の中にいるはずなのに、雷が落ちたかのような錯覚に陥りました。
演習場内を稲妻が走ったような気がしたのです。
周囲見渡してもどこにも落ちた様子はないのですが、レイの左手にはいつの間にかひと振りの剣が握られていました。
剣――と言っていいのでしょうか、あれは?
どちらかといえば、あれは日本特有の刀に似ているような気がします。
離れているのでハッキリとは分かりませんが、柄の部分に鳥の飾りが施されているようですね。
問題はどのような効果があるのか――。
「――よし、それでは私から攻めさせてもらおう」
レイの言葉に、私は彼を見据えつつ剣を構えます。
わざわざあちらから来て頂けるというのであれば、それも一興というもの。
雷帝という異名とどう関係するのか、興味深――。
――根拠もなく、咄嗟に二歩下がります。
胸元を見ると、服が見事に一文字に切り裂かれていました。
横に走る線はさながら名刀の一太刀を思わせる見事さ、とでも言えばいいのでしょうか。
一体いつの間に攻撃を!?
「ほう? 目で追えていたとは思えないが――それが君の言うところの技術、というやつかな」
「なっ!?」
いつの間にか、目の前にレイの姿がありました。
少なくとも私は一度も彼から目を離したつもりはありません。
にもかかわらず、ここまで接近されていたですって?
五メートルの距離を一体どうやって?
「――――!」
考えるより先に、今度はレイのいる前方へ跳ね飛びました。
本来であれば自殺行為に等しいのでしょうが、頭の中で鳴り響く警鐘に身を委ねます。
すると、今度は背中部分に裂ける感覚が。
これもまた不可解ですね。
正面から攻撃を受けるのであれば分かります。
ですが、背中から攻撃を受けたということは――私が前方へ飛び跳ねた時には、既にレイは私の背後に回っていたということ。
デリックの異能はまだ目で追える程度の速さでしたが……。
なるほど、雷帝と仰られていたので、てっきり電撃のような攻撃かと思っていたのですが、雷の如き速度の方でしたか。
「凄いな。初見で二度も躱されたのはシュヴァルツ以来だよ」
「服が切られていますので、躱したとは言えないと思いますが……」
後ろを振り返りながら答えると、そこにはやはりレイの姿が。
「それでも十分凄いさ。既に気づいているかと思うが、私の『雷を切り裂く剣』には自身の速度を雷の域にまで押し上げる効果がある。近・中距離戦ではそれなりに自信があったんだが、こうも簡単に避けられてしまったとなると自信をなくしてしまうよ」
「いえ、決して簡単に避けることが出来たわけではないのですよ? 何と言いますか第六感が働いたといいますか……」
そう、決して楽に避けれたわけではありません。
確かにデリックの時は技術的な面が大きかったですが、この戦いではそれは全く使えていません。
勘といえばいいのか、第六感といえばいいのか、とにかく頭の中で危ないと教えてくれているのです。
「フッ、第六感か。いいじゃないか、大いに結構。それもアデル君の力の一部だろう?」
う~ん、何故この学園の方々は私を高評価扱いされるのでしょうか?
まだ入学して数日足らずだというのに、全く。
――ですが。
期待を寄せて頂いているのであれば、その期待に応えてみせるのが紳士というもの。
私は剣を握り直し、気魄をその刀身に行き渡らせます。
「行きます――」
「――来い」
私は意を決し飛び込んで行きました。
――先ほどよりも強く、もっと強く、踏み込むのです!
そして思い切り鋭剣を叩き込みます。
キィンッ――!
剣と剣とがぶつかり合う音が演習場内に響き渡りました。
「クッ――!」
「――ぬぅ!」
互いの主導権を奪い合う為の、力と力のぶつけ合い。
拮抗は長く続かず、私は押し返されてしまいます。
その着地点を狙い澄まして、追いついてくるレイ。
薙ぎ払う剣に追われた私は、更に後ろへと跳び退ける以外にありません。
――来るっ!
無意識の"予測"に従い剣を上げると、そこにはレイの剣が。
「やるなっ!」
「――ですから、偶々ですっ!」
今度は私がレイの剣を押し返して前に出ます。
そして繰り返される剣撃。
幾度となく切り結んだ後、互いの距離が開きました。
私は肩で息をするまでに体力を消耗していますが、対面するレイはというと――まだまだ平気な様子です。
――このままではジリ貧ですね。
お互いが剣を携えている以上、決定打に欠けますし。
いえ、本来であれば私がここまで戦えているのがおかしいのですが……。
未だに目で姿を捉えることが出来ないのに変わりはないのですが、
この剣の力の一部、とでも言うのでしょうかね?
――それこそ今は考えても埒が明きませんね。
さて、では一つ覚悟を決めてやってみますか。
鋭剣を構え、レイに向かって地を蹴りつけます。
そして眼前にまで近づくと、
事実、私の剣は風を切り、レイの剣にぶつかります。
今までの中でも渾身の力を込めて打ち込んだ一撃に、レイは顔を顰めていますが、それでも押し切るまでにはいきません。
「くぅ――ッ! だが、この程度では私には勝てないぞ、アデル君ッ」
「分かっていますよ、レイ先輩。――ですが、勝つつもりなど最初からありませんよっ」
「何っ!?」
私は握っていた剣を手放し、レイの間合いへと一歩踏み込みました。
剣を手放し、無手で踏み込んできた事に驚いているレイの一瞬の隙を逃さず、両手でレイの剣を挟み込むと、一気にもぎ取ります。
瞬間、身体中を何かが駆け抜ける感じがしました。
身体の内側から何かが溢れ出る感覚を抑えつつ、地面に落ちている自分の剣を素早く拾い、後ろに飛び退くと、レイは呆気に取られたような顔をしていました。
「今……のは、今のは、一体?」
「あれは『無刀取り』と言います」
「『無刀取り』……」
「えぇ。まぁ同じ相手には通用しない、初見殺しの技ですが。正直に申しまして自信が無かったのですが、上手くいって安心しています」
――まぁ、必ずしも相手の剣を奪い取るイコール"無刀取り"、という訳ではないのですけどね。
そこまで言う必要はないでしょう。
それに奪い取るというよりは、レイの剣に
結果として、私の考えは合っていたようで一安心です。
私は"正統なる王者の剣"を一旦解除しました。
多重発現しても問題ないとは思いますが、念の為に備えておくのは悪いことではありませんからね。
次に"雷を切り裂く剣"をレイに向かって、回転の掛からぬようにゆっくりと放り投げました。
「なっ!?」
剣を受け取ったレイは、訳が分からないと言った表情を浮かべています。
せっかく奪い取った武器を返すなんて、どういうつもりだ――といったところでしょうか?
もしかして、始まる前に言われていた終了条件を忘れてらっしゃる?
周囲を見渡すと、他の生徒達も皆同じ表情をしていま――いえ、お三方はどうやら分かっているご様子。
シュヴァルツ、ヴァイス、リーラの三人はそれぞれ笑みを浮かべています。
流石は"五騎士"といったところでしょうか。
「アデル君……一旦奪っておきながら私に剣を返すとは、一体どういうつもりだ?」
「どういうつもりだ? と仰られましても、勿論手合わせを終わらせるつもりですが?」
「……一体どうやって?」
「こうやってですよ。『――――英雄達の幻燈投影』」
先程感じた、身体の内側から溢れ出る感覚に身を任せ、"雷を切り裂く剣"を思い浮かべながら異能を発現すると、私の右手には寸分違わず全く同じ"雷を切り裂く剣"が握られていました。
「ばっ、馬鹿な!?」
レイの顔が疑問符に埋め尽くされたような、歯に衣を着せずに言わせて頂くならば、実に間抜けな表情に変わります。
ん?
そもそも私の異能を検証する為の手合わせ、でしたよね?
そこまで驚かれることではないような気がするのですが……。
ソフィア先生まで目を丸くしてらっしゃいますが、この終了条件を言ったのは先生ですよ?
軽く苦笑すると、ソフィアに声をかけます。
「ソフィア先生。レイ先輩の異能、このとおり再現出来ていますよね?」
「ハッ!? そ、そうなのです。アデル君がレイ君の異能を再現出来たので、現時点をもって手合わせは終了なのです――!」
ソフィアの手合わせ終了の言葉を合図に、演習場内は歓声に包まれたのでした。
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